駄目になる覚悟


「なんだ、それは」
「ラッコ」

尾形が偵察から戻ってくると、出迎えたのは肉をさばくナマエだった。

簡易的に枝と葉で作られた小屋の中央で燃える薪の上に、見知らぬ鉄なべがかけられている。鍋の中をのぞきこめば、中にはぐつぐつと揺らめく湯だけが入っていた。どうやらこの不思議な状況ができあがったのは少し前の事らしい。

「そりゃ見れば分かる。さっきまでそんなもの持ってなかっただろう?」
「あぁ、それはな……」

ラッコ肉を調理するナマエの話を聞いて見れば、尾形がいない間にこの煙を見たアイヌの男が通りかかったそうな。男は大層喉が乾いていたらしく、ナマエはかわいそうだと水を分け与えた。すると男はたちまち元気になったと言う。そしてお礼にとラッコと、ついでにと使い古した鉄なべも一緒にくれたのである。

話しを聞き終えた尾形は、その話を「まるで昔話みたいな話だな」と鼻で笑った。けれど、尾形がいなかった短い間にナマエがラッコを取りに行くなんて事はできるはずはなく。その冗談のような話を飲み込んだのだった。

しかし、この話。実は端折っていた所があった。尾形に言う必要はないだろうとナマエは思っていたのだが、それは中々重要な話だったりするのだ。

「お前さん、一人旅でもしてるのかね」
「いいえ。連れが一人」
「ほぉ。それはそれは……恋人かね?」
「こっ恋人などではありませんが……」
「ほっほっ。恥ずかしがらなくてもよいではないか。ならばこのラッコ肉を共に食べると良いじゃろう。良い事が起こる」
「いいこと、ですか」
「二人きりの時に食べなさい」

**

ようやくラッコ肉を切り終え、手持ちの調味料と既に取り終えていた野草を一緒に鍋に入れる。沸騰した湯の中で、徐々に白くなる肉とふにゃふにゃとやわらかくなる野草。全てが煮立ち、良い塩梅になるのを二人で待っていると次第に鍋から変わった匂いが漂い始めた。

「う、……」

鍋の様子を見るために木の皮をはいで作った簡易箸で鍋をつつくナマエの頬に、一筋の汗が流れた。

なぜだろうか、この匂いを嗅いでから頭がクラクラする。高熱が出た時のように思考が鈍るような。

「はぁ」と熱のこもった息を吐けば、湯気の向こう側にいた尾形もどうやら同じらしい。わずかに頭が揺れて、自分のものではない短い息遣いが聞こえる。

少しの間、このふわふわした、熱い気持ちを滾らせていると湯気越しの影がゆらりと立ち上がった。湯気という壁がなくなり、鮮明にその顔が見えるとナマエの胸はドキリと大きく高鳴る。

「ナマエ……」
「ど、どうしたんだ尾形」
「熱ぃ」

尾形はおぼつかない足取りでナマエの横にやってきてはドカッと座り、おもむろに自分の衿の留め具をはずし始めた。釦をひとつひとつ外していくその姿に、ナマエはごくりと喉を鳴らす。

名を呼んだ尾形は、いつにも増してイイ男に見えたのだ。

低い声は直接脳を揺さぶるようで、下を向いたせいで額に垂れた一房の前髪を後ろに撫でつけるいつもの癖も妙に色っぽく見える。顔も、身体もそれこそ毎日見ていると言うのに、今は衿からのぞく喉仏やゴツゴツした指。いつもなら気にも留めない事が身体を熱くさせる。

心の底から湧き上がる、この悶々とする分からない気持ちは「我慢ならん」と言いながら軍衣、中に着ていたシャツと順々に脱ぐ尾形を見ていると更に煽られた。筋肉に覆われた、白い裸は目に毒だった。

「(ハッ……なんでこんな事ばっかり考えてしまうんだ!?)」

自分とは思えない、熱に浮かされたような思考に自問自答しながらナマエは下唇を噛んでじっと耐えた。見たくなくても、そのむき出しの肌が気になってしょうがない。ちらりと見る度に大きな波のように襲い来る、熱いナニかに意識が遠のきそうだ。

どうすればこのクラクラするような熱から解き放たれるというのだろうか。

顔を真っ赤にさせながら、なるべく何も見ないようにと目を伏せる。伏せたところでむせ返りそうな独特の匂いは消えないが振りまかれる色香からは逃れることができた。

しかし、尾形はそれを良しとはしなかった。

「お前も脱げ。……熱いだろ」
「……いい、」
「脱げ」
「あっ馬鹿やめろ」

顔を見ないようにしていたというのに、尾形の手によって強引に顎を持ち上げられる。至近距離で見るとその顔はやはり格好いいものであった。

同時に尾形もまた少し潤んだ瞳で自分を見るナマエにぐらりと頭を揺らした。どうしてか彼が可愛く思えてしまうのだ。いや、ナマエの事はいつも美しく可愛らしく思っていたのだが、顔を赤らめながら目を伏せるその表情がどうにもいじらしく、誘っているように思えて仕方がない。

火に照らされて、てらりと光る赤い唇はいつもよりおいしそうに見え、まるで蝶を誘う花のようだ。尾形はたまらなくなって自分と同じように、あれこれと言葉を並べるナマエの話も聞かずに襟に手をかける。

それは丁寧とは程遠い、荒っぽくて性急な手つきだったが、ナマエはそれを拒む事ができなかった。脱がす手がふれるだけでそこから痺れるような刺激が訪れるのだ。

「絶対なんか、変だっ……!おかしい、」

そして上半身を冷たい空気の下へ晒すと、どちらからともなく口付けた。
開かれた唇と唇の隙間から銀色の糸がこぼれるのも厭わずに、尾形の舌がナマエの口内にぐっと深く入り込む。ねっとりと口内を弄り、唾液を纏わせながらおずおずとと伸ばされた舌へと強く絡みつかせた。

「ん……、んぅ」

後ろへとそらせないようにと尾形の堅い手がナマエの頭を押さえ、自分の方へと引き寄せる。

唇を交わす二人の頭はぼーっとしていた。柔らかい唇の感覚も、ざらりとした舌も全てが二人の興奮材料だった。無我夢中で、相手を気遣うなどという優しさは微塵もない。ただ気持ちよさだけを求める口づけは、何度も角度を変えてはぴちゃぴちゃと水音を響かせる。

「おが、た…っ、はぁ、苦しい、熱ぃ」
「ん、どこが苦しいんだ…。ここ、か?」

ふいに銀色の糸を引く唇を離し、ナマエが赤らんだ顔で助けを求めると熱い息を吐く尾形がおもむろに軍袴の上を撫でた。撫でただけだと言うのに「あッ」と声があがるそこは、もう口づけだけで堅い布を持ち上げるほど勃起している。

「良くなりてぇなら自分で脱げよ……。なぁ?ナマエ」
「ん…」

耳元でそっと囁きながら、やわやわと揉むように手で遊んでやるとふるりと腰が揺れた。薄い唇から耐えきれなかったのだろう矯正が零れ、それがまた尾形の手を突き動かす。

手のひらで押してさすり、時には指で盛り上がった布をつまむように触れてみれば気が遠くなるような熱がそこへ集中する。普段ならば突き放す事ができる誘いも、今日ばかりはナマエも我慢ならなかった。

「分かったッ!……脱ぐから」
「いい子だ」

フッと笑う尾形に、気恥ずかしい思いをしながらナマエは立ち上がって自分の軍衣、軍袴と順番に真鍮の釦を外していく。裸なんてものは今更恥ずかしがるものでもないのだが、彼の羞恥心はいつまでも捨てられないものなのだ。

空気は冷たいが、それ以上に身体の内側には熱が燻っている。自身を覆う布が一枚一枚薄くなっても、寒さは気にもならなかった。やがて下の褌をもゆるりゆるりと解いていき、火の光に身体が曝け出された。

「はぁ……、尾形と一緒にいるともっと変になりそうだ……」
「俺のせいじゃなくて、きっとこの匂いのせいだろ」
「匂い……?」
「ラッコだ。俺もお前も同時に、……はぁ、こんな風になるなんておかしいだろう?」

尾形は額にたれた一房の髪を後ろへと流し、息を乱れさせながらそう言った。言われてみれば、さっきまでなんともなかったというのに急にこんな風になるのはおかしな話だ。しかも二人して。

その事実に気が付いてしまえば、ナマエはストンと腑に落ちた気がした。

「なんだ、…じゃあ俺が原因じゃないのか」

この熱く滾るこの気持ちには、素直になってもいいのか。気持ちよくなりたいと心の底から思ってしまうのも、自分がはしたないからではない。全てはこのラッコ鍋のせい……。

湧き上がる自分とは思えない淫靡な気持ちに、ラッコ鍋という理由がついた今。最早抵抗する必要もなかった。
我慢するような険しい顔もゆるゆると脱力して、瞳はゆるく三日月形になる。

「尾形…」

しっかりとナマエが服を脱ぐのを見届けた後。尾形は満足気に笑みを浮かべながら、彼の姿を目に焼き付けた。

一糸纏わぬその姿は、一度だけ見た事がある西洋の彫刻を思い出す。
程よく鍛えられた筋肉が、きゅっと美しく生めいた線を描く。傷跡ひとつない白い肌は、滑らかで吸い付けば艶やかな赤い花を咲かせることを尾形は知っていた。

「あんまりじろじろ見るなよ……」
「そりゃ無理な注文だな」

手でどうにか覆い隠そうと身体の前で手を伸ばしてはいるが、合間から見える薄く色づいた胸の頂きは既にぷっくりと存在を主張し、陰茎はナマエの興奮を表したように上を向いている。口ではなんだかんだと言いながら、彼の身体もこの匂いに酔いしれているのだ。

「来い」

傷ひとつない細い手を引くと、ぴくりと震える。けれど、抵抗する事もなくすんなりと流れに身を任せるのだから占めた物だった。クッションがわりに敷かれた葉の上に脱ぎ散らかされた外套の上へと膝をつかせ、四つん這いにさせる。

それはそれは至極良い眺めだった。
自分に向けて突き出された形のいい尻にそっと指を這わせると大袈裟に揺れるのだから、思わず喉を鳴らして笑ってしまう。しかし、自分も我慢ができる方ではない。尾形もまた、早くこの熱をぶちまけてやりたいという思いで頭がいっぱいだったのだ。

手早く軍袴を脱ぐと、再び彼の素肌へと触れる。いまや丸見えとなっている菊門に堅くゴツゴツとした指をぐい、と押し込むと抵抗はあるものの受け入れる準備はできているようだ。指一本で痺れたような声が漏れる。

「っはやく、」

そして極め付けと言わんばかりに四つんばいになったナマエが少しだけ後ろを向いて、甘えた声を出すものだから、わずかに残った自制心はそこで振り切れた。誘うような声に、身体に、匂いに、もう陰茎はしっかりと勃ちあがっていたのだ。

指をするりと抜いて、代わりに先走りを纏った先端をあてがう。少し押してやるだけで受け入れるように広げられた菊門はカリ首を咥えるとキュッとしまった。酔ったいやらしい身体は、ふるりと震えてその口からは小さく息が吐き出される。

その時を見計らって、尾形は一気に中へと入り込んだ。

「っあぁっ!!!」

それは一瞬意識を失いそうになるほどの衝撃だった。
狭い肉壁を強引に押しのけ、めいっぱいに広げられる。奥まで一気に貫かれたナマエの目の前はあまりの快楽にチカチカと光ったように思えた。身体を支えるようにピンと伸ばしていた肘から力が抜けて、伸びをする猫のように背筋がなだらかな傾斜を作る。

しかし腰だけはしっかりと掴まれて、尾形に更に尻を突き出すような形になっていた。

「っは…やっぱきついな」

彼の中へと自身の竿を沈め、尾形は静かに息を吐き出す。あまりほすぐさずに入れたせいか、中は少しばかり抵抗感がある。押し込んだ陰茎を少し動かそうとすれば、肉壁はぎちぎちと圧迫するように尾形をしめつけた。

その度に彼の背はぴくぴくと震えていた。なだらかな傾斜を描くその背を、悪戯に撫でてみれば「んはぁ、」と震えたような声が聞こえる。繋がった箇所からじわじわと陶酔が打ち寄せてくるのだ。気が遠くなるような恍惚感に、尾形はぐっと歯を食いしばる。

けれども少しもたてば、自分の意思とは関係なくナマエの腰がゆらゆらと揺れた。早く、早くと誘うようなその動きに、尾形は「ハァ」と熱い息を吐いた。

「おい、動くぞ」
「えっ、まだ」
「待てねぇ…ッ」

制止の声も聴かずずるりと引き抜くとカリ首が肉壁を引っ掻き、ナマエの身体を揺らした。そして今度は形を分からせるように、じわじわと熱い壁をこじ開ける。襲い掛かる快楽に負けぬようにと口を一文字に縛って根本まで潜り込んだ。一番奥を抉ると、まるで歓迎するよう肉壁がキュウキュウと陰茎を締め付ける。

「っふゥ!…んあっ」
「ナマエッ、くぁ」

尾形は腰を掴む手に力を入れて、勢いよく腰を打ち付けた。

じりじりと焦らされ、かと思えば激しく腰を襲う快楽にナマエはまるで脳が溶けるようだった。顔を伏せて、最早閉じる事もかなわなくなった形の良い唇から叫びのような喘ぎ声をあげる。
本能のままに打ち付けられるそれは、ナマエの腹を苦しいほどいっぱいに満たし、奥を抉るのだ。

「やっ、…きつい……ひッ」

額に一筋の汗を流して、艶っぽい声と一緒に短く息を吐きだす。
思わずぐったりと下を向くと、敷かれた外套が目に入った。ぎゅっと握りしめると、更にその下に敷かれた適当な木の葉がガサリと音をたてる。すっかり忘れていたが、ここは外なのだ。思い出した羞恥心が一気に身体の中を巡っていく。

「今日はっ、ずいぶんと…よさそうだなッ…ふぅ」
「だってッ!…ふぁっ…あァ、ん」
「触ってもいないのに…っぐ、…なぁ?先走りが、あふれてるぞ」
「っう、」

ナマエが背を少し丸めて顔を外套に擦り付けると、膝をついているあたりに耐えきれなくなった先走りがぼたぼたとこぼれていた。触れていない自分の逸物から、波打つように皺を作る外套の上へとしみを作っていく。

じゅぶじゅぶといやらしい水音に頭を犯されながらも、また羞恥に身体が燃えるように熱くなった。

「ハッ、どこの誰だか知らないが、ラッコに感謝しねぇとな」
「ッ、んぁ…ッ…」

無意識でギュッとしまった尻の筋肉が、尾形の言葉への返事のようだった。ずっぽりと咥え込んだ陰茎を締めあげ、「ぐ、」と尾形が苦しみに耐える声がわずかに聞こえる。それでも止まる事なく、肉壁を削るように突き動く逸物は確実にナマエの身体を支配していた。

「あっ…くぅッ、きもちい、」
「!ぐッ…お、まえッ」
「ッうァっ」

ラッコ鍋のおかげだろうか。ぽろりとこぼれた小さな本音に、尾形は勢いのままゴリッと奥を突いた。そのまま亀頭の先でぐいぐい押せば、ぎゅうぎゅうと絞るように壁が動く。

「ひっあ、そこ、」
「っあぁ、くそっ」

まるでうわ言のように「きもちいい」と言うナマエに、尾形は荒い息を繰り返しながらずるりと竿を抜き、ぱくぱくと動く中へと差し入れる。そしていやらしくうねる肉壁を何度も何度も強くゆすった。その度に甲高く艶っぽい声が聞こえ、尾形の逸物にまた熱が集まっていく。

「おがたぁッ…!もうッ、はぁ、イきそうだ…」

擦れる度に、ずどんと奥を突き刺す度に痺れるような快楽突き抜ける。
ナマエはもう限界だった。

言葉にならない矯正を吐息混じりにこぼしながら、もっともっとと後孔を締め付ける。尾形は襲い掛かる恍惚の波をどうにかやり過ごしてから、その身体を支えていた腕をぐいっと引っ張った。

「ナマエッ」
「んぐッ」

傾斜を描く背は何の前置きもなくまっすぐ立ち上がると、ぴたりと尾形の鍛えられた胸板にくっついた。そしてナマエの腹筋にぐるりと腕をまいて、ギュッと力をこめる。抱きしめたせいで熱い肌と肌が触れ合い、ぐっと近くなった神秘的な美しい顔は、今やだらしなく口の端からたらりと涎をたらして喘ぐばかりだ。

姿勢が変わり、ナマエの中を抉る逸物も今まで触れなかったイイところに突き当たったのだろう。壁がヒクヒクと痙攣を始める。

「も、だめだっ、ふ、あぁッ、」
「くっ俺も、限界だッ」

絞り出すようにそう言うと、尾形はさらに抜き差しを早め、ナマエの身体を激しく揺する。一際震えるイイところを抉り、ぐっと奥まで差し込んだ。

「はぁッ、!イっちゃ、ッぅあァッ!!!」

そういうや否や、ナマエの目の前は一瞬の閃光に包まれ、身体の内側で我慢していた快楽が全身に広がっていった。ビリビリと痺れるような刺激が指先にまで到達すると、立ち上がった陰茎からはぼろぼろと白い精を噴いた。

一筋、吐き出された精液がどろりとが結合部へと伝い落ちると、そこは尻肉ごと強く尾形の陰茎を締めあげていた。耐えきれずにぎゅっと目を瞑ると、中で大きく脈打つ尾形の精を絞ろうと必死にうねっているのが分かる。

「はっ、…ふぅっ」

尾形は更に身体をぎゅっと抱きしめ、肩口に顔を埋めて竿を震わせた。熱い精を、ぴったりと吸い付く愛おしい中へと吐き出す。腕の中でびくりびくりと震えるナマエが、愛おしくて仕方がない。緩いカーブを描くその肩へと唇を這わせると、口を開いてその快楽に戦慄いた。

「ナマエ」

強く抱きしめていた腕を少しだけ緩ませると、ナマエの身体からはだらりと力が抜けた。そのまま前へと倒れそうになった身体を慌てて抱きとめる。くたりと首をもたげ、薄っすらと汗で光るその姿は、遊女なんぞは比べ物にならないほど綺麗だった。

抱きしめた手を少しばかり動かして、指先で恥丘の上をなぞる。そして少し圧してみれば「んん、」と誘うような吐息混じりの声がすぐ傍で聞こえるのだからたまらない。いまだにこの腹の中には自分が入っているのだ。そう思えば、彼の栓をしている陰茎にまた熱が集まっていく。

「なぁ百之助。……もう一回、」

自身の中で熱くなる陰茎に、内心驚きながらもナマエは少し身をよじって尾形を見た。それだけでもとろけるような甘美な痺れが訪れる。未だに彼の顔も、自分の顔も赤く、部屋の中の匂いは相変わらずだった。逝ったばかりのだらしなく緩んだ顔で、強請ってみれば呼応するように肉壁がきゅんと動いた。

「っお前からそんな事言ってくるなんてな」
「…全部ラッコ鍋のせいだからな」

そう、全てはこの匂いのせいなのだ。だから匂いが消えるまでは、このままでもいいだろう。

すっかり毒された唇で、「ん」と口づけを求めると素直に唇が重なる。その唇は最初に口づけた時よりも熱く、息苦しい。けれど、恍惚に飲まれた二人には夢心地の気分だった。


**

「ん……」

ふるりと長い睫毛がふるえる。パサパサ。何度か瞼が瞬いて、眠そうにゆっくりと目を覚ます。と、同時に襲い掛かる寒さにナマエは一気に目を見開いた。勢いよく身体を起こすと、腰を中心に穏やかな快感がさざ波のように広がる。「う、」とわずかに息を止めると、すぐそばで燃やされていた焚火が小さな火花をあげた。

「起きたか」
「尾形……」
「お前の外套。洗っておいたぞ」

その声に、ゆるりと顔を上げた尾形は妙にスッキリとした顔でナマエの元へやってきた。手に持っているのは二人がずっと身に着けている外套だ。肩からふわりとその身体を覆うように優しくかける。たった一枚の布ではあるが、ないよりはマシだ。

少し前の熱に浮かされた交わりを思い出しながら外套ごとぎゅっと自身を抱きしめると、指先がぽっと暖かくなったような気がした。

「ありがとう。あの、悪かったな。今度から人にもらった物は食べないようにする」
「そうしろ。あぁ、でもラッコはもらえ。昨日のお前は素直で可愛かった」
「ッ絶対もらわない」
「なんでだ」
「なんでもだ!」

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薬品棚様

リクエストありがとうございました。やっぱりラッコ鍋は裏にするしかないですよね!
性に淡泊気味なナマエ君も、ラッコ鍋の前には素直になっちゃうんじゃないかなぁ。尾形は何度も自分の理性メーターが振り切れそうだなぁと思いながら書きました。

ありがとうございました!


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