招き猫の夏


「よく聞けAクラスの皆の衆〜。なんと私が差し入れをもってきましたー、ぱんぱかぱーん」
「うおおおおキンキンに冷えたスポドリ!アイス!タオルまで冷えてやがる」
「女神か!」
「一人1個ずつ持ってきたからね〜じゃんじゃん消費してね」

立ってるだけで暑いというのに、そんな中でも未来のために訓練を欠かさないヒーロー科は私にとっては本当に尊敬の念しかない。
両手にぶら下げたビニールからアイスやスポーツドリンク、タオルを配布すると皆生き返ったように顔をほころばせるのだから、差し入れに来てよかったと心から思えた。

次々となくなる差し入れをちらりと確認すると、まだ一人分残っているようだ。
皆の様子を見るからに、受け取っていないのは轟君だ。皆から少し離れた所で一人休憩している轟君の元へ行くと、皆ほど汗はかいていないらしい。

「轟君はあんまり汗かいてないね」
「個性を発動してる時は今はむしろ涼しいからな」
「そっか。氷結。今の時期にはぴったりだねぇ。あ、隣座ってもいいかな」
「あぁ」

よいしょ、と轟君の隣に座ると最後の差し入れを渡して任務完了だ。
座り込むと私も皆ほどとはいかないけれど汗をかいていたようで、額からたらりと汗が流れた。適当に手でふき取ってもじわりじわりと汗がにじみでる。
訓練をしていないというのに皆と同じようにだらけてしまう。

「暑い」
「…」

言った所で何も変わらないのだが口は勝手に暑いと言ってしまうのは自然の摂理だ。
焼けるような暑さにうなだれていると、ふと隣からひんやりとした空気が流れてきた。それはまるで冷蔵庫を開けた時のような感じだ。

「ほら、これで冷やせ」
「と、轟君…いや轟様…!!」

冷えの原因は氷結の個性を発動した轟君だ。先ほど渡したタオルをほどよく凍らせてそれをこちらに差し出してくれた。

「いや、でもこれ轟君への差し入れだから」
「?俺は汗をかかないし、今必要なのはお前だろう」

それはあくまでも彼らへの差し入れなのだ。
轟君の好意はとてもありがたいのだけどなんとなくそれを素直に受け取れない自分がいる。冷えたタオルは魅力的だ。けれども、いや、でも受け取らないのも…。と口をもごもごさせていると、ぴたりと冷たい何かがおでこに当てられた。

「うひゃあ」
「これならいいだろ」

それはふわふわで冷たくてとても気持ちがいい。
おでこから頬へとぽんぽんとあてられるそのタオルは轟君が私の汗をふいてくれているのだ。恥ずかしいような、でも気持ちがいい。

されるがままにタオルで拭かれていると、ふと遠くの方から蝉の声が聞こえてきた。夏の終わりになると聞こえる蝉の声はいやがおうにも夏休み終了のお知らせに思えてしまうのだ。

「夏ももう終わりだねぇ」
「…そうだな」

ぽつりと独り言のようにこぼした言葉に、轟君もまるでうわごとのようにそう言った。冷たいタオル越しに見えた轟君の顔は、なんとなく寂しそうだった。

----
【招き猫の夏】
蝉の声を聴いて夏も終わりだねと寂しげにつぶやく君がなんとなく儚げでセンスに隠れてくちづけた

キスしてないよ!

拍手ありがとうございました!

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -