幽霊の夏
暑い。とにかく暑い。
世間は温暖化なんて言っているが温暖なんて甘い言い方じゃこの暑さは表現できないだろう。おそらく卵を割ってフライパンにのせておけば目玉焼きができるとか、そんなレベルだ。
それだけ暑ければ当然恋しくなるのが冷たいものだ。よく冷やしたアイスコーヒーやシャリシャリのアイス。そして極め付けはシュワシュワしたあれだ。
「喰らえラムネ攻撃!」
「っ!?!?!」
持っているだけでも指先がすごく冷たい、キンキンに冷えたラムネ瓶を暑さでやられているセブルスの頬にぴたりとくっつけると、あまりの驚きで何も言う事ができなかったようだ。声なく肩が跳ねた。
「何をするんだ…」
「暑さで怒る気力もないセブルスにプレゼントだよ」
あまりにも暑いせいか本格的に死にそうなセブルスへのささやかなプレゼントだ。
見た目的にもさわやかな服に着替えればいものの譲れないのか夏だというのに黒いセブルスはここ最近は夏のせいかぼーっとしている事が多くなった。今はラムネ瓶のおかげで怒ったような顔をしているが。
「…これは、たしかラムネというものだったか」
「そうそう。日本で売ってるマグルの飲み物だよ」
ラムネ瓶を開けて手渡すと、開けたラムネ瓶からはシュワシュワと耳に心地いい音が聞こえる。ラムネなんてイギリス、しかも魔法界ではほぼ見ない代物だから、きっと珍しいのだろう。じろじろと瓶を見てからそっと口づけた。
「…悪くはない」
「でしょ。いっぱい買ったから今年の夏はこれで決まりだね」
僕も同じようにラムネ瓶を傾けるとしゅわしゅわとバタービールとはまた違った炭酸が口の中ではじける。さわやかな口当たりが夏の暑さも吹き飛ばしてくれるようだ。
ぐびぐびと飲めばあっという間にラムネ瓶は空になって、ビー玉だけがからからと音を立てて中に残る。
「…」
空になっても瓶はいまだに冷えたままで、このまま抱えて身体を冷やそうかと思ったが喉を鳴らしながらラムネを飲むセブルスを見て少しだけ悪戯心が湧いてしまった。悟られないように自然を装って近寄ると、今度は頬ではなく首にぴたりと瓶を当ててみた。
「ふん。もう先ほどのようには行かないぞ」
「む、バレたか」
しかし先を読まれていたのかぴたりとくっついても先ほどのようには驚かなかった。冷たいものが来ると予想していればそれは大して驚かないだろう。二度も同じことをやったせいか、珍しく困ったように笑っているその表情は、いつもと違ってきゅんとしてしまった。
「お前のやる事など手に取るように分かる。舐めないでいただきたい」
「!!」
勝ち誇ったようなそのセリフは、セブルスは気づいていないようだがかなり僕にとっては殺し文句だ。一気に熱くなった己の顔に、冷たいはずのラムネ瓶をくっつけてみたけれどその熱は全く冷めるという事をしらなかった。
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【幽霊とセブルスの夏】
よく冷えたラムネの瓶を暑さにぼーっとしている君の頬に押し当てる。怒られるけどついやってしまう。困ったように笑うその顔がたまらなく好きだから。
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