よい子の投薬日記 後


モストロラウンジの裏口はオクタヴィネルの寮に直接繋がっているようだった。
似たような扉がずらりと並ぶ、深い海中のような薄暗い廊下を通り、連れ込まれたのは大きなベッドが二つ並んでいる部屋だった。おそらくジェイドとフロイドの二人部屋だ。「よいしょっと」ようやく肩から下ろされ地面に足をついたのもつかの間、背後からぬうっと腕が回ってきた。

「離せ!何するつもりだ!」

不意打ちの羽交い締めを振りほどこうとナマエは暴れた。
ポケットに突っ込んだマジカルペンを取りだせればこちらの勝ちだというのに、抑え込む腕がそれを許してくれなかった。

「ナマエうるさぁい。黙って言うこと聞いてろよ」
「黙ってられるか!」

謎の実験台にされようとしているのに黙っている人間などこの世にいるだろうか?ましてやこの信用ならない兄弟相手に。
必死の抵抗すら軽くいなすフロイドにナマエが噛みついている間に、部屋の中を闊歩するジェイドは部屋に備え付けの棚の中からほっそりした硝子の小瓶を取り出した。

「大丈夫ですよ。ちょっと天国を見てきてもらうだけですから」

わざわざナマエの目の前に掲げ、小瓶の中身をたぷたぷ揺らす。
透明の板越しに見えるそれは蜂蜜のような輝かしい金色をしている。それがジェイドのいう試したい“アレ”なのだろう。ひとまず禍々しい見た目でないのはありがたいが、毒々しくもなく、むしろ甘そうにも見える液体は逆に言えば何の効果があるのか皆目検討もつかない。

「ラウンジでボロ雑巾みたいになるよりずっとマシじゃね?」

呆れたようなフロイドの声が耳元に当たってくすぐったい。勢いよく首を反らし、「ボロ雑巾の方がマシだ!」と言いながらフロイドから遠ざかる。

「わがままな人ですね。大人しくこれを飲んでくれと言っても難しそうだ」

ナマエは目だけで様子を伺った。特別高価なワインの栓を開けるように、丁寧に小瓶の瓶を開けたジェイドがニィと口端を持ち上げて笑みを作る。これは悪巧みをしている顔に違いない。

「当たり前だろ!誰がそんな得体のしれないもの口にするかよ」

ジェイドはコツコツと靴音を響かせながら近づいてきて、それをナマエの口元に持ってくる。
何の種類とも分からない、熟れた花の甘ったるい匂いがした。これがジェイドが研究している何かだと知らなければ素直に味わってみたいと思ったかもしれない。けれどこれは絶対に口にしてはいけないものだ。ナマエは断固として口を開けるつもりはないとキュッと唇を結び、ジェイドを睨みつける。

「それでは仕方有りませんね」

しょうがないという諦めを装いながらもジェイドの動きには迷いがない。ナマエが口を開けないのは当初の想定内とでも言いたげだ。
モストロラウンジの制服の一部であろう白い手袋がまっすぐにナマエの顔に伸ばされる。

「ん!?」

突然息苦しさを感じてナマエは息をつめた。白い指先が小ぶりな鼻を掴んで呼吸を妨げていた。

「いつまで持つかなぁ」

楽しげなフロイドの声とは正反対にナマエは少しずつ苦しくなってきた。鼻はつままれたまま、かといって安易に口を開ける事もできない。どうすればこの状況を打開できるか、なんて思案している間に体内の酸素は薄くなるばかりで、いよいよ顔も赤くなってきた。
酸素が薄くなった身体が悶え、ぷるぷると震える。
口を開けたら終わりだ。分かっている。けれどもう限界だ。

「はぁ、っんぐ!」

酸素を求めて大きく開いたナマエの唇に、冷たい硝子瓶が触れた。
小瓶を傾け、中身を口内に流し込まれる。どろりとした液体が舌にからまり、陸にいるのに溺れそうだ。吐き出すという選択肢がすっかり抜け落ちたナマエの喉からごくごくと喉を鳴らして液体を嚥下する音がする。

「さぁ一思いに飲んで下さい。大丈夫、これは薬ですから」

上下する喉仏を確認したジェイドはさらに瓶を傾けた。
飲み込んでも飲み込んでも黄金の液体が注ぎこまれる口内はどろどろだ。酸素が欲しくてぱくぱくと口を開いても、息苦しさは変わらない。やがて小瓶の中身が空になり、何度か咳き込んだ後に異変に気が付いた。

「ん……?」

フロイドの拘束はいつのまにか解けていて、ナマエは自分の心臓に手をやった。
なんだか身体の奥がじわりと熱くなってきたような。額にも薄く汗がにじむ。突然現れたこの症状は薬の効果だろう。けれどまるで熱に浮かされたような症状は薬というよりは毒に近しい。

「おい、何飲ませた……?」

少しでも熱を冷ましたくて、ハァと小さく息を吐き出しながらジェイドを睨む。

「あぁ言っていませんでしたね」

硝子瓶をベッド脇のチェストに置いたジェイドは思い出したようにそう言ったが、あまりにもしらじらしい口ぶりだ。

「これは僕が作っている媚薬です」
「っ」

ナマエは驚いて声も出なかった。ただ身体が熱いと思っていたものが、媚薬による効果だと思えば納得できると同時になんだかイケないものに支配されてしまったような気になった。

「なにしてくれてんだよ……!」
「ふふ、その調子だと効いているようですね」

ジェイドはにっこりと笑って机に置かれたバインダーを持ちペンを走らせる。何を書いているのかは分からないが、インクが紙の上を滑る速度は早い。その姿を見ていれば、まるで錬金術の授業を受けているような真剣さもうかがえる。

「ばぁ」
「ヒッ」

ビクッと全身が跳ねた。首筋にざらりとした何かが触れ、同時に熱が一度あがったように身体がカッと熱くなる。反射的に首筋を抑えながら振り返る。

「触るなッ」

犯人は一人しかいない。フロイドが触れた手を引っ込めながら薄く笑っていた。垂れた瞳がナマエの一挙手一投足を観察するようにじっとりと見つめている。

「あは、おもしれぇ。ねぇどんな感じ?むずむずする?それとも熱い?」
「う、うるさい。こんなの別に、なんでもない!」

今のは少し驚いただけだ、そうに決まっている。なのに粟立った肌も、首筋の毛がざわざわと逆立つこの感覚も時間がたった所で引きそうにない。

「本当に何でもないんですか?」

真正面に陣取るジェイドは至って普通の、所詮すまし顔でバインダーにペンを添えたまま小さく首を傾げている。

「ない!ないから、……実験はこれで終わりだ」

ゆっくりと腕を組んで、ナマエはジェイドを見上げ強がって見せた。
本当は身体の奥からじわじわと発せられる熱が全身に巡っていくのが自分でも分かる。自分で触れた腕すら布の擦れる感覚を意識してしまう。悔しいが薬は完成しているようだ。けれどまさかそんな事を悟られでもしたらどうなるか分かったものじゃない。
このまま逃げ切って、早く自室に帰らないと。

「俺は帰る」

そう思って、数歩後ずさるとまだ背後に立っていたフロイドにぶつかった。
思いのほかあつい胸板に当たった後頭部がぐらりと揺れる。白い手袋が額に触れ、ぐっと後ろに抑えつけられ真上を向いた。

「どこ行くの?」

冷えた声が降ってきて、ナマエはこの手に捕まったことをすぐさま後悔した。
直角に見下ろすフロイドの顔は真顔だった。ネジの緩んだ微笑みが鳴りを潜め、整った顔立ちに影が落ちている。おかげでぎらついた黄色い瞳がより恐ろしく見えた。

「じ、自分の部屋だよ……」
「なんで?どうして?何でもないならそんなにすぐに帰らなくてよくね?」

並べ立てる言葉はまるでナマエを追い詰めるようで、真綿でゆっくり首を絞められているようだ。なのにどこか舌ったらずな声を耳元に直接に直接注ぎ込まれると背筋がぞくぞくして、頭の芯にじわりと痺れが広がる。慣れない感覚にナマエは困惑した。

「だって効果ないならいる必要ないだろ……ッ」
「失敗でも経過観察は必要ですよ」

目の前にいるジェイドも、こちらを見下ろしているフロイドも、双子であっても顔立ちや立ち振る舞いは違うはずだ。けれどナマエを逃がそうとしない。それだけはひどく似通っていた。双子というのは心の底では繋がっているのだろう。

「完成したつもりではいますが、何せ人体実験は初めてですから何が起こるか分かりませんし」
「そ、そんなものをよく人に飲ませようと思ったな……!」

反ったままの首が痛み、半ば無理やり正面に向き直る。

「作った薬は遅かれ早かれ誰かに飲ませて試さないといといけませんから。たまたまあなたが初めの一人になっただけの話ですよ」

ぽんと肩に白い手袋をはめた手が置かれる。その柔らかい衝撃にすらナマエは小さく声をもらした。体の内側でぐらぐらと滾っていた官能をその手で直接叩き起こされたような。
これ以上はダメだ。一度踏み外してしまえば元に戻れなくなる気がする。
ナマエはすぐさま唇を噤んで、はらいのけようとしたが逆に手首を掴まれてしまった。

「あなたは私達の実験に付き合ってくれる約束でしょう?」

あぁモストロラウンジで浮かべていたあの微笑は作り物だったのだ。ジェイドは鋭い歯を覗かせながらにやにやと意地の悪い笑みを浮かべている。

「だからって媚薬なんて!」
「いいじゃないですか。なにも毒薬ではありませんし……この薬はきっと天国に連れてってくれますよ」

掴まれた手は痛いほど力を籠められ、圧倒的な力の差を見せつけられているようだ。事実薬に酔ったナマエには振り切れる力がなかった。

「さぁ、フロイド。ベッドまでご案内を」
「はーい」

間延びした子どもみたいな返事と共に背後から伸びてきた手は大人だって逃げられない強さがある。再びナマエを捕え、簡単にベッドに放り投げた。

「うっ」

かたいマットレスが軋み身体を跳ね上げる。ナマエは小さく呻いて手をついて起き上がろうとしたが、なんだか力が入らない。指先にまで瞬時に走るはずの指令がうまく伝わらないみたいだ。思いのほか強い薬効にナマエは驚いて力を抜いてしまった。
その一瞬の隙にフロイドがナマエの上へ馬乗りになった。

「何すんだよっ」
「何って、ナマエが暴れないようにすんの」

力の入らない両手首を片手で抑え、首元に引っかけていたストールをしゅるりと引き抜く。
抵抗しなくては。そう思ってもフロイドの手はびくともしないし、足で蹴ろうにも腰を抑えられてはどうにもならない。
あっという間に両手首が縛られ、余ったストールはベッドの支柱にくくられた。少したるみがあるものの、ベッドからは下りられない長さだ。

「おや、ナマエさん。心無しか頬が赤いように見えますね」

ベッドの端に腰を下ろしたジェイドが、ナマエの頬にそっと手をそえて耳元に声を吹き込む。親指で頬の上をなぞられ、囁かれてしまうと触れられてもいない背筋がゾクゾクして落ち着かない。

「気のせいだろ、あっ」

一瞬、腹にぐっと体重をのせられて口から短い叫びがもれた。フロイドはジェイドと反対に座り込むと、にんまりと二人の様子を伺っている。

「いいえ、これは間違いなく薬の効果です」
「さっきも今もジェイドに触れられて感じてんじゃん」

事実なだけにナマエは言葉よりも先に頬を染めた。
一度見て見ぬふりをしたならばそのまま突き通してくれればいいのに、こうして逃げられないようにしてから掘り返してくるなんてやはりこの兄弟は質が悪い。

「感じてなんか、」

頬に触れていた指先が顎のラインを伝って顎に触れた。それだけで下腹部がじんわりと疼き、じっとしているのが苦しくなる。
口で言っている事が事実ならばどれだけ良かったか。腹が立って仕方がないはずなのに、それよりも本能に訴えかけてくる切なさに苛まれてしまう。

「さぁナマエさん、私の目を見て。私の質問に貴方は正直に答えなければいけません」

艶を含んだ低い声で囁きながらジェイドが顔を覗き込んでくる。近づく美しい顔立ちと仕草はまるで寝たきりのお姫様にキスをする王子のようだが、生憎と彼らには悪役の方がぴったりだ。
右を見ても左を見ても浅瀬の海の色で、逃げ場がないナマエは縛られた両手に力を籠める。金色の四つの瞳がナマエを射貫いて逃さない。

「ショック・ザ・ハート」

その言葉を聞いた途端、心臓がトクンと小さく跳ねた。乾いた唇が静かに動き、声を引き出す。
「熱くてたまらない……どうにかして、いや、俺の身体を触ってほしいっ……っ!?」

今、勝手に口が動いた。ナマエは信じられない思いジェイドを見つめた。
これは間違いなくユニーク魔法だ。人を操る類の魔法なのだろう。悪戯っぽい笑みを浮かべながら「それが貴方の本音ですね」とジェイドが嘯く。

「本音って、どういう事だ」
「僕のユニーク魔法は相手の本音を語らせる事ができるんです。さっきの貴方のようにね」

魔法によって引き出された言葉が言わされたにしろ本音だなんて。「そんな馬鹿な」呟いた言葉が勢いもなく地に落ちる。
だってそんな事、望んでいないはずだ。触って欲しいなんて淫らな願いを口にした事だって驚いているのに。
二人は一度顔を見合わせて、にこりと細めた瞳に欲情の色を浮かばせる。

「ふふ、そんなに潤んだ瞳で見られても」
「俺達がゾクゾクするだけだって」

息を合わせたように手袋を纏った手がナマエのジャケットのボタンを外し、脇から腰骨にかけてそっと手を這わせてきた。くすぐったいだけのはずのふれあいに、今ばかりは身体が高ぶって肌がざわめく。

「うぁ…っ!嫌だ、やめてくれ」

口からついてでる上擦った声にナマエはまた驚いた。
こんな声が出るなんて、全身にもう薬が回り切ってしまったのだろうか。ジェイドの手にするすると薄い腹筋の上を撫でられると甘いため息を吐いてしまう。

「感度は良好ですね」
「媚薬なんだからいいじゃん」

そう言いながらフロイドの手が胸元をまさぐった。薄いシャツ一枚を隔てて感じる手はなんだかもどかしく、たまらず身を捩ると少し張り出した突起に指がかかり、肩が跳ね上がった。

「ヒッ」
「ん〜?ここ?」

かぎ爪のように曲げた指先がまた突起を引っかいた。反射的に反った胸が小さく震える。

「やぁ、あっ」

なんだこれ、こんなのありえない。胸なんて女でもあるまいし、触られても何もなんともなかったのに。
今は触れられた胸の先からじぃんと痺れて身体の内に広がっていく。まるで神経を直接触れられているような、感じたことのない感覚だ。

「なんだ、これ…ッ!」
「乳首が敏感になってるんじゃない?」

シャツ越しにぷっくりと硬くなった乳首をつままれ、指先で転がされるとなぜか腰の奥がきゅっと切なくなる。胸への刺激がそのまま下半身に直結してナマエの理性に訴えかけてくる。

「あ、あッやめろ……!変、変だからっ」
「ふふ、気持ちがいいの間違いではないですか」

口からこぼれる抵抗の言葉も途切れて喘ぎ混じりになる。それすら面白がっているジェイドがニィッと鋭い歯を見せて笑ったかと思えば、荒っぽくボタンを開け放つ。
熱がこもっていたシャツがはだけて解放感があるが、これからの事を思えば心もとない。

「これ邪魔〜」

鬱陶しそうに自分の手から手袋を抜き取りそこらに放り投げたフロイドに倣い、ジェイドも手袋を外す。そして露わになった胸元にゆっくりと触れた。肌の感触を確かめるように、焦らすように突起の周りを少し冷たい体温が寄り添う。

「気持ちいいですか?」

左右が違う手に触れられ、刺激されている。その事実に途方もない羞恥心がこみあげてくる。同時に体内で煮詰まる欲情がたしかにナマエを興奮させていた。

「っはぁ…んんッ」

だからこそ頷くことも首を振る事もできなかった。問いかけから逃れたい一心で首をもたげて自分の胸元に視線を向けると、上から見下ろしていた甘い顔立ちがナマエと同じくらいの目線まで腰を曲げ、低く屈んでいる。

「なにを…ッ」
「これうまそう」

フロイドはおもむろに無防備な胸元に顔を埋めた。瞬間、薄い胸筋に温かい何かが吸い付いた。それがフロイドの唇だということがしっかりと目に映っているのに理解するのに一拍間が空いた。

「ひぁっ」

赤くなった突起をちゅうと音を立てて吸い上げられる。背骨を一気に快感が抜けて、ナマエは瞠目し、反射的に胸を反らせ、フロイドに突き出した。
柔らかく垂れた目が視線だけこちらを伺う。目が合うと、とろけた微笑みを浮かべながらまた一段と吸い付いて来た。

「あっ!あ、ああっ」

自分のものだとは思えない高い声が口からこぼれていくのを止められない。驚くほど敏感になった突起が濡れた舌先で転がされ、突かれる度に色づいて硬く尖った。フロイドの気ままな性格をそのまま反映した熱い口内はナマエに苦悶の表情を浮かべさせる。
すると反対のぷっくりと膨らんだ尖りをおもむろにつままれて、熱を帯びた肢体をくねらせる。ニヤリと笑ったジェイドが「寂しそうにされていたので」と思ってもいないようなことをいう。

「っぁ、や、ダメ、そこ…!」
「ダメ……ですか。僕には良さそうに見えますが」

そんな事あるわけない、と本当は口にはっきりしたかった。
ナマエは耳まで真っ赤にして、言葉を紡ごうとしたがキュッと抓られると言葉が喘ぎになって鼻から抜けていく。片方の突起をしゃぶられ、もう片方を指先でくにくにと弄ばれる。異なった刺激にさらされた胸の先から痺れるような快感が注がれる。

「今までここを触って、気持ちよかった事はありますか?」
「あっ、ぅ」
「前から敏感だったらどれほど効いているのか分からないですから」

ジェイドの事務的な質問は頭に入ってくるものの何て返せばいいのか分からない。
ナマエが戸惑いの色を浮かべるとしびれを切らせたようにジェイドも胸に顔を埋めた。二つの突起が濡れた唇に覆われ、しゃぶられた瞬間に一段と高い声が出た。

「あ、ぁあ、わかんないっ!」

乳首なんて自分で触ることはない。意識した事すらあまりないのだ。どうかと聞かれた所で分かるはずがない。けれどこんなに触られて、身体が反応してしまうなんて間違いなくこの薬のせいだ。
思い思いに弄られ、たまらない刺激にピクンと腰骨が震える。

「なら、今度は媚薬がない時にでも触らせてもらいましょうか」

リップ音をたてながら離れた唇がそう呟くものだからナマエはかぶりを振って髪を乱した。
絶対にきてほしくない未来だ。けれど身体はそれを期待するように火照っている。これもきっと薬のせいに違いにない。
ふいに顔をあげたフロイドがねぇと甘ったるく話しかけてくる。

「下はどーなってんのぉ?」

いつのまにか胸の上を這っていた手が下腹部に伸びていた。するりと脇腹を撫で、ナマエのベルトに手をかけるとあっという間にスラックスを引き下ろした。

「見るなよぉ…!」

まだ下着という壁があるものの、下着姿も剥かれた足もこうやってまじまじと他人に見られたことなどない。
頭のてっぺんまで恥辱に染まったナマエはカッと身体が熱くなるのを感じた。じっとしていられない両膝が自然とぶつかり合う。

「あ!」

その膝に二人の手が重なった。ぐっと左右に引っ張られ、まじまじとそこを眺められる。

「何このだっせぇの。お土産?」

一瞬何のことを言っているのか分からなかったが、大口を開けて笑うフロイドが「どっかで見た事ある……アトランティカのだっけ。買う奴いたんだ」と言ってようやく気が付いた。
今日の下着は友人が面白がって買ってきたアトランティカ記念博物館のお土産パンツだった。貝殻柄の派手なデザインは捻りもないダジャレ仕様だ。

「フロイド、人の趣味趣向にそう言ってはいけませんよ。それにしても、えぇ個性的ですけれど」
「う、うるさいッ!」

笑われた上に下着には隠しようもないシミが浮き上がっていてナマエは泣きたくなった。ぐっと唇を噛んで熱い吐息をかみ殺そうとする。

「ねぇジェイド。こっちシてもいい?」
「むしろ彼もそれをお望みでは?」

似た色の双眸がにこりと細まってナマエを見下ろした。二人の視線が肌に絡み付いて見られているだけでも心とは裏腹にゾクゾクしてしまう。

「ジェイドがいいって」

最初からジェイドに聞くあたり、フロイドはナマエの言葉を聞く気はないのだろう。

「お、俺はよくないッ」

ナマエが大きく首を振っても、心臓は高鳴り、その手の行方を目で追ってしまう。
最早心と身体は隔絶されていて、ナマエの意思はとうに身体の欲望にぶら下がっているだけだ。長い指が焦らすことなく真っすぐにゴムに引っかかり、下着を脱がせると抑えがなくなったものが勢いよく飛び出た。

「あっ嘘」
「もう勃ってんじゃん」

薬を飲み、胸を触れられただけだ。それだけでも下腹にそって屹立した性器は自分の想像以上に昂っていた。深海を思わせるひんやりした空気に晒されただけでもひくついている陰茎は先走りの雫にまみれている。
これは薬のせい、薬のせいだー!
そうは思っても身体は淫らな感覚に敏感に反応し、あられもない姿を曝け出してしまっている現状はどうしたって恥ずかしい。

「俺のせいじゃ…!」
「えぇ、ちゃんと薬が効いて気持ちよくなってるようですね」
「じゃあもっと気持ちよくしてあげんね」

そう聞こえた時、ナマエの身体がビクンと跳ねた。腰骨を一撫でした指が期待に満ちた陰茎に触れ、先走りを掬い上げる。無防備な下肢はフロイドにのされるがままだ。何をしようとしているのか、分かっていても止められない。

「はぁ、ん!」

身体が求めていた、跳ね上がる程の強烈な快感が下肢から爪先まで広がった。
絡みついた長い指に握り潰されてしまうんじゃないかと思う程握りこまれ、根本から先端まで強く扱き上げられる。

「いッ!あぁ、強い…ッ、あっ、ふぅ、やめ…!」

けれどそれが他人の手に触れられているとより実感させられる。そのまま触れて欲しいと思う部分を強くなぞられると、鋭い快感が骨の芯を駆け抜けた。ナマエは快感を逃そうと曝された足で白いシーツを蹴る。

「フロイド、少し力加減をしないと」
「えぇ〜?」
「あぅッ…!ひぁ、あッ」

強烈な刺激に身体が灼けたように熱くなり、そそりたつ股間が強く脈打つ。筒状にした手が上下に動く度にとぷとぷ溢れる雫を文字通り搾り取られそうだ。
あぁもうダメだ―。
絶頂の予感にかぶりを振って喘ぐと、ふいに愛撫の手が止まった。熱を帯びた肌で暖まった指が解かれる。

「もっと反応をよく見なくては……ねぇ」

波打つシーツの上で悶えるナマエを見下ろしながらジェイドの指先が欲望を滴らせる先端に触れた。
双子と見紛う兄弟だ。大きな手は同じなのに、エラの周りを這い裏筋をすぅっと撫でる。フロイドは強制的に絶頂を促すものだったが、ジェイドの手淫はナマエ自身をゆっくりと蕩けさせた。

「くぅ、あぁ…!あ、はぁ…っ!」

片手でゆったりと上下にこすられ、もう片手でやわらかく陰嚢をくすぐられると触れられた場所からこそばゆい快感が与えられた。気持ちがいい、けれどどこか決定打に欠ける刺激はある意味耐えがたい、このまま永遠に心地の良いまま快楽漬けにでもなってしまうんじゃないだろうかと頭のどこかで思ってしまう。

「ふふ、可愛らしいとろけた顔だ」

そう指摘されるとナマエはまた恥ずかしくなって、どんな顔を擦ればいいか分からない。ただ与えられる快楽に身体だけは素直に反応して、口がぱかっと開いたままになる。

「ふあッ」
「どんどん溢れてくる……これ、分かります?貴方のこぼしたもので、こんなに音がする」

ジェイドがおかしそうに囁いた。密やかに聞こえていた音が、煽られてようやくはっきりと耳に入ってきた。ゆっくりと指の腹で撫で上げられる度にくちゅくちゅと音が聞こえ、自分の乱れた呼吸音が混じる。
淫靡な音がナマエの琴線を激しく揺らした。腰の奥からずきん、ずきんと快感が突き上げて、陰嚢がきゅぅとしまる。

「じゃあ俺はこっちを可愛がってあげる」

じっと観察していたフロイドがナマエの耳元に唇を寄せ、赤くなった耳朶を噛んだ。海色の髪が、少し荒れた吐息が肌に触れる。ただ触れられるだけならくすぐったいと思うだけでやり過ごせるはずなのに、今はそれすらも気持ちがいい。

「っあぁ…!」
「耳、敏感なんだ?かぁわいい」

愛撫するように触れる唇から直接声と水音を注ぎ込まれる。まるでフロイドの言葉は魔法みたいだ。指摘されれば意識してしまい、より神経が過敏になる。

「それ、っいやだ…!ぁ、んんっ」
「もっとして欲しいそうですよフロイド」
「やぁ、だめ…!そんな、」

容赦ない声が聞こえた瞬間、耳の内側がねっとりと舐め上げられた。同時にジェイドの指先がくびれをくすぐると、薬の回った身体はとても耐えきれない。上下から与えられる容赦ない愛撫が体内で混ざり合い、下肢がびくびくと痙攣する。

「いっちゃえ」

大きく内腿が震え、きつく閉じた瞼の裏がゆっくりと点滅した。
感覚の鋭くなった身体を弄ばれ、元より崩壊していた我慢はフロイドに押されてあっという間に快楽の海に落ちる。

「だめ、や、あぁあ…ッ!」

あられもない嬌声をあげながら、ナマエは浮き上がった腰をがくがくと震わせた。張りつめていた陰茎から白い蜜を勢いよく噴き出し、身体の芯まで絶頂に酔いしれる。

「んあ、っはぁ…!」

身体も心もぐずぐずにとろけてしまいそうだった。何も考えられなくなるほどの強烈な快感に、一度では飽き足らずドクドクと脈打って蜜口からたっぷりと白濁を吐き出しジェイドの指を汚していく。白いそれに濡れた指はまだナマエの蜜を絞ろうとゆるゆると動きだした。

「はッ…はぁ…、もう…はなせよぉ……っ!」

全身に行きわたった余韻に浸る余裕すらない。ナマエは息を整える暇もなく喉を反らせ喘がせる。精路に残る一滴まで扱き出されてしまい、きゅうと下腹部が引き締まる。

「あは、離してだって」
「どうしてあげましょうか」

汗で張り付いた前髪をフロイドの指がさらりとのける。
うっとりとした二人がこちらを覗き込んでいて、そこでようやくこの二人の前でいってしまったのだと凄まじい羞恥がナマエを襲った。
薬のせいとは言え、乱れ、よがり、あまつさえ絶頂まで導かれるなんて。本当なら今すぐこの場から逃げ出したいくらいだ。それができないのは腕の拘束もあるが、すっかり脱力した身体は重いばかりで役に立ちそうにないからだ。

「も、やめろ……ッ!」

おまけに薬はまだ効いているようで一度解放された熱い血が、じわりじわりと股の間に集まっているような気がする。
もうこれ以上羞恥にまみれて、飲み込まれてしまうのはごめんだ。情けないと思いつつもすすり泣く事を止められない。嫌だと全身で訴えるように縛られた腕を中心に身じろぎをすると、ようやく二人の手がそっと離れた。
気怠い身体を横たえて、ナマエはやっと熱い吐息を安堵に変える事ができた。

「なぁに安心した顔してんの?」
「まだ薬は切れていないようですから、このまま続けます」
「えっ」

力が入らなくなった両足の間にフロイドが腰を下ろすのをナマエは拒むことができなかった。
敏感な内腿をするりと撫でられ、ビクッと身体をわななかせる。さわさわと肌の感覚を楽しむ指先がするりと臍の周りを撫でたかと思えば、身体の中心に向かって這ってくる。芯を取り戻し始めた陰茎の裏筋をつうっと撫で、そのまま陰嚢の表皮をくすぐる。

「次はこっちだっけ?」
「えぇ。そちらもしっかり確認しないと」

そしてその指先は誰にも触れられたことのなかった後孔の周囲をまさぐった。その瞬間ビクッと足先が震え、全身に緊張が走る。

「んッ、あッ!?なに…!?」
「大人しくしてくださいね」

フフと笑い声をこぼすジェイドの声が一枚布を隔てた向こう側から聞こえてくるみたいだ。意識がフロイドの指先に集中して、感覚が鋭くなる。
吐き出した蜜を纏った指が窄まりの周囲を柔く揉み、ぐっと曲がった指先が入口を広げた。

「うッ、んぁ…あぁ、んッ!!」

外部からの侵入など違和感ばかりで気持ち悪いはずなのに、痛みはなく代わりに感じたことのない不思議な快感がこみ上げてくる。
中を探るように差し込まれた指が狭い壁を広げようと内側をこすりあげられると、それはさらに確実なものになった。直接陰茎を触られていないのに、身体の芯からとろけそうな熱が広がっていく。
これは間違いなく快感だ。乳首を触れられた時に感じた切なさを埋めてくれる、欲しかったモノだ。けれどこんな所を触られて感じるなんて、そんな馬鹿な。
ナマエがそんな事を考えていると、フロイドが小さく唸った。

「ねぇ中狭い。ナマエ、もうちょっと身体の力抜いてよ」
「うぁ、あぁ!そんな…っこと、いわれても…!」

そもそもそんな所に何かを入れた事なんてないのだ。力を抜けと言われても、逆にフロイドの指をきゅうとしめてしまう。
後孔をこじ開けるように少しずつ入り込んでくる指の存在にじっとしていられず腰が揺らめいた。

「ナマエさん、こちらを向いて」

ひんやりした指先が顎に触れて、誘導されるままジェイドを見上げた。優美に微笑んでいた唇が舌なめずりして、形の良い唇が艶めくのも束の間。

「はぁっ、あふぅ…!」

微笑むジェイドとの距離がゼロになった。
驚いて薄く開いたナマエの唇が舌で強引に押し開かれ、容赦なく中に侵入してくる。溢れんばかりの唾液が口内で絡み合い、ちゅくちゅくといやらしい水音が脳に響く。

「ふぁ、んっ!」

心の準備も何もしていない無防備な口内は一方的に蹂躙されるばかりだ。
戸惑う舌を絡めとられ、思い切り吸い上げられると視界がチカチカと点滅した。陸にいるのに窒息しそうだ。うまく息継ぎができなくて息苦しいのに、上顎の裏を舐められるとたまらなくなる。

「ジェイドばっかりずるい」

背筋にぞくぞくと快感が走り、必死になって口を開けていると後孔にぐっと圧がかかった。入口で留まっていた長い指が奥深くに入り込み、ぐちぐちと中をかき乱す。「んんっ」鼻から抜けた声に、嬉しそうにジェイドの眦が下がる。

「良い感じに力抜けたけど、俺もしたかった」

そんな声が聞こえてきて、ようやく深い口付けから解放された。心なしか離れた頬には薄く色が付いている気がする。

「ふふ、すみません。つい誘われてしまいました」

うっとりとした表情でナマエの唇をなぞったジェイドは愛撫の先を耳元へと移した。ぴちゃぴちゃと水音をたてながら耳朶を舐られ、足の間でゆるく勃ちあがっていたものが熱くなるのを感じた。

「あ、そうだ。ねぇジェイド、俺いい事思いついちゃった」
「ひ、あぁッ!」

埋め込まれていた指がずるりと引き抜かれる。それだけで腹筋にきゅうと力が入り、ナマエは悩まし気にフロイドの様子を伺った。
何を思いついたのか、一度ベッドを下りたフロイドは見覚えのあるガラス瓶を持って戻ってきた。ナマエに飲ませた媚薬が入っていたあの瓶だ。中には量は少ないもののとろみがかった液体が入っている。たぷたぷと液体を揺らしながら指先が再び後孔のあたりを撫でる。

「ここにさ、これをぶちこむの。陸にはそういう座薬?っていうのがあるらしいよ」

ナマエはヒッと喉を引き攣らせた。
飲んだだけでも身体が恐ろしく熱く、不快感すらも感じない程身体をとろけさせる薬を更に身体の中に、しかも粘膜に直接注がれるなど信じられない。一体身体がどうなってしまうのか、考えただけでも恐ろしい。

「なるほど。それは試して見る価値がありそうですね」
「でしょ?だから手伝って」
「しょうがないですね」
「は、あッ…絶、対…、だめだ…!」

平然とやりとりをする兄弟はナマエの意を全く介さない。足をバタつかせて抵抗を試みたが、足の間に居座るフロイドを蹴るには踵があがらない。

「お静かにお願いいたします」

眉をハの字にしてくすくす笑うジェイドが戯れに陰茎にちょんと触れられるだけでナマエはあっと声を漏らす。
その間にフロイドが両膝裏に手を差し込み、ぐっと力を入れられると腰ごと浮き上がってしまった。最早抵抗する余地もない。さらに羞恥心を煽るように身体をくの字に折られ、後孔をじっくり見られるとナマエはもう彼らの顔を見る事ができなかった。顔をそらし、縛られた腕で目を覆う。

「おや、これはこれは」
「また窄まっちゃったねぇ。でも今度はこれがあるから大丈夫だよ」

一度指を咥えた後孔は再びきゅうと入口を硬く閉ざした。瓶を開ける可愛らしい音がこれほど怖い事はきっともう今後ないだろう。

「い、やだっ!やめろ……っ!」

声だけの抵抗は突然ジェイドの指が中をこじ開けるように入り込み悲鳴に変わった。後孔にひやりとした感覚がした直後、液体が伝う指がぐっと深くまで一気に突き入れられる。

「はぁ、あ、んんッ!」

冷たい液体が熱い粘膜に触れ、目が覚めるような熱を身体の奥からカッと突き上げてきた。ただでさえ苦しい体勢が、体内で扇動する熱に耐えきれずに勝手に動こうとする。

「ダァメ。じっとして」

空中を彷徨っていた足先がピクンと震えた。抑えられた両足が更に深く抑え込まれ、足首が顔につきそうになる。

「どう?効く?」

フロイドが両足の間でケラケラと笑う。
何もかもが丸見えになって、さらに辱められると限界を振り切った羞恥心が快感にスイッチを切り替えた。さっきまでの愛撫とは桁違いの感覚が身体の体内で蠢き、その原因である指を再びきゅうきゅうと締め上げてしまう。
その狭い肉洞の中をジェイドの指は遠慮なく指の付け根まで深く潜り込み、ずるりと引き抜いてはもう一本を従えて内部をかき乱した。

「ひぃ…ああッ!やぁ、あっあぁ!」
「これは中々、良い顔をする」

ジェイドの低い笑い声が鼓膜を揺らす。いつのまにか三本にまで増えた指は甘い琴線に触れながらスムーズに動き回る。時折ひどく気持がいい場所をかすめて、絶え間なく込み上がってくる甘い痺れが唇を震わせた。

「いい感じじゃない?」
「こちらで使うならクリームの方がよさそうですね。別々に潤滑油を使う必要もないですし」

二人が何かを話しているのが聞こえてくる。けれどあまり中身は頭に入ってこない。入ってくる隙間がなかった。
口と同時に動くジェイドの指先に柔らかく解けた媚肉をぐちゅぐちゅと音を立てながら揉まれると、ナマエはひたすらに嬌声をあげた。そこをいじられるだけでたまらなく気持がいいのだ。

「むりっ、あ、たすけて…っ!あ、ひぁッ」

まるで生き地獄だ。このまま放っておかれたら身の内から高まる熱に何もかもが焦がれてしまいそうで、ナマエは懇願した。
もうどうなってもいいからこの昂りを沈めて欲しい。自分が何を願っているかなんてもう気にする暇もない。わずかに残っていた抵抗すら捨てしまうほど、腹の底からずくん、ずくんと疼く訴えは重苦しく、到底無視できなかった。

「ふふ、苦しそうですねぇ」

くっと指先が曲がり、中をこすられる。垂直に垂れ下がった硬い男根からだらだらと零れる白い蜜が己の腹を汚すのを、ジェイドが面白そうな目で見ているのに感じずにはいられない。むしろ纏わりつく視線すら気持ちいいような気さえしてくる。

「ジェイド〜。俺も見てるだけじゃつまんない」
「そうですねぇ。おそらくもう吸収されているでしょうし……こちらはフロイドに譲りますよ」

おもむろに持ち上げられていた腰が下ろされると同時にずるりと指が引き抜かれた。汗ばんだ身体が激しく跳ね、中をかき乱すものがなくなってた身体の奥が絞られたようにきゅうと切なくなる。

「ふぅ…ふぁ、んんッ」

投げ出した足の間でフロイドがベルトを緩め、己を取り出した。おそるおそる視線を下げると、下着の中から露わになったそれにナマエの目が釘付けになった。

「なに、するんだ…ッ」
「何ってもっときもちいいコト?」

他人の下腹につきそうなほど反り返った屹立した陰茎は青筋を浮かべ、凶器とも言える容姿をしている。同じ男だというのに、自分のモノとは何もかも違うような。
その熱い切っ先を解けた後孔に押し当てられた時、薬にとろけた身体はどくんどくんと強く疼いた。まるでそれを待ち望んでいたような反応に、心すらも引きずられていく。
こんなこと恐ろしいはずなのに。恐怖など塵のように消えて、早くどうにかして、どうにかなってしまいたいと強く思ってしまう。

「先ほども言ったでしょう?この薬は天国に連れて行くと。安心して力を抜いて」

ジェイドが幼子に言い聞かせるように告げる。
ナマエは不思議とその言葉に素直に従って、いつのまにか浅くなっていた息を深く吸い込んだ。直後後孔にぐっと圧を感じた。フロイドの男根が窄まりを押し広げ、蕩けた奥へと入り込んでくる。

「―い、やぁ、あっ…あぁあ…!」

求めていた淫らな欲望を満たすどころか溢れさせるくらいの甘い衝撃だった。待ちわびていた快感に歓喜してうねる粘膜越しに感じるフロイドは見た目以上に大きく、熱い。楔のようだった。
わざとらしいほどゆっくり腰を押し進められる度にナマエは足の爪先まで痺れた。

「くぁっ、ああッ、んぁっ!」

初めてそこに屹立を穿たれたというのに、身体に苦痛はない。それどころか骨の髄まで快楽にしゃぶられるような熱い快感だけがある。今度は気持ちよすぎて、頭の中が真っ白になりそうだ。
抑えられない喘ぎ声をもらすナマエを、ジェイドが意地悪な笑みを浮かべて見下ろした。

「もうとろけた顔になっていますよ。感じてらっしゃるんですね」
「ちが、ぁあっ、ひぃ…ッ」

より深く腰を押し付けられて、潤んだ襞がフロイドのものに勝手に絡みついて離れない。開かれた身体の中がゆっくりとフロイドで満たされていく感覚に、胸の内がかっと熱くなった。
身体の反応はジェイドにも、フロイドにも見抜かれてしまうのだろう。

「はぁ、ナマエん中やばぁ」

根元まで深く潜り込んだフロイドが一度短く息を吐き出した。その動きすら、直接触れ合う粘膜越しに感じてしまいナマエの背筋がぶるっと震えた。
潤んだ瞳でフロイドを見上げると、欲情に燃える瞳と目があう。
直後、ずるりと快感を伴って引かれた腰が再びナマエを嬲り始めた。

「あっあ、んぁっ!」

嵩張った部分で敏感になった襞を擦られると、全身が快感にわなないた。
こんな所で感じるはずないというのに、今のナマエはフロイドに突き入れられる度に打ちひしがれる程の快楽を感じてしまっていた。反った喉から言葉にならない声が響く。

「ふあっ、あっ、ひぁ!」

こんな快感、どうやったって耐えられない。足が逃れるようにシーツを蹴る。ほんの少しずり上がって開いた数センチの距離すらフロイドは許さず肉付きの薄い腰を掴んだ。
本能の赴くままのしかかってくる獣から逃れる術をナマエは持たなかった。火傷しそうな程熱い身体に汗を滲ませ、情けなく足を広げて受け入れるしかできない。

「あはぁっ、かぁわいい」

調律の狂った笑い声が突き動かされる度に自身の身体から響く淫靡な音と混ざり合う。身体も頭も興奮と快楽の渦に巻き込まれて、思考がすっかり置いてけぼりになってしまった。

「はぅ、うぅ…!そ、こ、そこダメ…ぇっ!」

思わず口をついて出た言葉の意味に、二人がにんまりと笑っていることにもナマエは気が回らない。
入口から奥まで一気に擦りあげられ、身体の芯が焼ききれそうな刺激が頭のてっぺんまで光の速度で駆け巡る。すっかり快感に酔いしれた媚肉がさらにフロイドにしがみついた。

「おねだり?いいよぉ。好きなだけしてあげる」
「それでは私も、こちらを手伝ってあげましょう」

中を暴かれただけで泣きそうなのに、ジェイドは優しく微笑んでナマエの下半身に手を伸ばした。
揺すられ、腹の上で揺れる陰茎はもう硬い芯を取り戻し、ジェイドの指に絡まれくちゅりと音をたてる。一度達した屹立は何よりも敏感で、指の輪がやわく表皮に触れるだけでも襲い掛かる快感はすさまじい。

「ねぇどっちのが好き?きもちいい?」
「ひぃッ!ど…、どっちも、いあっ!」
「どっちもイイですか。フフ、ナマエさんは欲張りですね」

うっとりとした艶のある声に、ナマエは顔を真っ赤にしてかぶりを振った。
二人の動きはてんでバラバラだ。だからこそ休む間もなく前も後ろも弄ばれて頭がおかしくなりそうだった。
他人の手に与えられた快楽に泣きたくなるなんて。

「ふぅ、んっ、ふあぁ…!」

鼻から喘ぎ声が抜けていく。突き上げる逸物は容赦なくナマエの奥を突き上げ、ずるりと引き抜く度に弱い箇所をこすりあげる。手の中で高められる逸物はもう限界まで張りつめていた。

「あ、はぁ!だめッ、やだァ、も、イっちゃう!」
「いいよぉ。いけよ」

珍しく少し荒っぽい口調だった。
行き場をなくした快感がナマエの中で渦巻き、小刻みに収縮する肉襞が荒れ狂うモノを強く絞り上げる。そのせいで意識したくなかった逞しい輪郭をはっきりと感じ、ナマエは悲鳴をあげた。
屹立が最奥を深く抉り、同時にやってくる快楽の予兆に目をぎゅっと閉じた。

「う…ん、アあっー!はあ、あぁッ!」

身体のどこかで何かがプツンと途切れた感覚があった。その瞬間、腰の奥から解放された愉悦が堰を切ったようにあふれ出した。身体の隅から隅まで、それこそ細胞のひとつひとつまでもが歓喜し、快感に打ち震える。
こんなの、知らない。自分で慰めた時とも、ジェイドに触れられた時とも違う。中で逝ったのだという事実をナマエは受け止めきれなかった。シーツの上で背を弓なりに反らせた、ジェイドの手の中で精を弾けさせた。

「あひぃ、いやぁ…っ!や、やめて…っ!」
「最後まで出しきれるようお手伝いしているだけですよ」

びゅく、びゅくと濃い蜜を吐き出す敏感な陰茎をねっとりと扱かれながら、もう片手で乳首をぎゅっと抓られた。さらに高みを促すようなその指先はお手伝いなどという可愛らしいものではなく、ナマエにとっては追い打ちをかけられたようなものだった。

「んっ」

脚の間からフロイドの噛み殺すような息遣いが聞こえた。
フロイドを受け入れていた媚肉が道連れにしようと大きくうねり、しゃぶりついて離れない。狭まったその中を、激しく何度も抉られて余韻を感じる暇もなく立て続けに逝ってしまう。

「く、あぁ…っ!また、またイっちゃうッ!」
「う、ッもぉ無理」

ビク、ビクと身体を痙攣しているナマエの腰を掴む指がかすかに肌に食い込んだが、それすらも気にならない。フロイドがナマエの最奥に熱いものを叩きつけた。

「はぁ…、あッぁん!」

体の中でじんわりと広がる心地よさに、また達したナマエは下肢をふるりと震わせた。
これは薬のせい、薬のせいだ。中に注ぎ込まれたモノが気持ちよくてたまらないなんて。ましてや凶器が引き抜かれるのが惜しいと思ってしまうのは、間違いなく薬のせいなのに。

「そんな寂しそうな顔しないで下さい。すぐ埋めて差し上げますよ」

ジェイドにそう言われると、まるで自分が本当にそう思っているようだ。言葉にならない声しか出てこないナマエにとっては肯定も否定もできなかった。

「フロイド、呆けてないで下さい」
「はぁ、もっと楽しもうと思ってたのに。ナマエのせいだ」

大きく息を吐いて脱力するフロイドがベッドの脇にズレると、ふっと両腕が軽くなった気がした。うつろな視線をあげると両腕は未だ縛られたままだったが、腕とベッドを繋いでいた結び目が解かれていた。
逃げられないと思っているのだろう。事実ナマエは裸で、逃げ出した所でこの熱を持て余してしまうのだからできやしない選択肢だった。

「フフ、次は僕の番です」

投げ出された両足の間に代わるようにジェイドが座り込んだ。
スマートな見た目とは裏腹な強引さでほぼ放心状態のナマエの身体を無理やりうつ伏せにさせ、腰だけを高く持ち上げる。羞恥と余韻に震える窄まりがジェイドの目の前でぱくぱくと収縮した。

「おや。もう僕を誘っているんですか?」
「っちが、んんッ」

ほんのりと汗で濡れた丸い尻を愛でるように撫でられ、じっとしていられない腰がくねる。

「薬のせいにしてもいやらしい人だ」

くすりと笑われてナマエは枕を引き寄せて真っ赤にした顔を埋めた。
脱力した腕ではもとより上半身を支えきれないのだ。だが今はこの顔を誰かに見られたくないのだから丁度いい言い訳だ。ジッパーが軽やかに下りる音を聞きながら、ドクドクと高鳴る心臓をベッドに押し付ける。

「さぁ良い声を聞かせてくださいね」

熱くたぎった陰茎の先端が潤んだ粘膜に口付ける。その次に訪れるだろう目いっぱい押し広げられる感覚を思い浮かべて、ナマエは熱い吐息を枕で押し殺した。

「くぅ、うぅんッ」

ぬぷ、と太いくびれがナマエの中に入り込み、一気に奥までねじ込まれる。
一度男根を受け入れた熟れた媚肉はその暴挙にすら易々と受け入れた。びくびくと震えながらさらに奥へと誘い、根本まで入り込んだ男根にぐちぐちとかきまわされると止めどない快楽をナマエの全身に行きわたらせる。

「やっ、あぁ、ぁふ…!」
「ふ、これはたしかに食いちぎられそうだ」

揶揄するような言葉を囁きながら、ジェイドが律動し始めると全身が総毛だった。体勢が変ったせいか、それとも性格の違いか。本能的なフロイドと比べてジェイドはねっとりとナマエの敏感な部分を的確に抉る。

「ふか、い…っ、あぁ、んんッ!」

指を入れられた時に感じた、狂った快感をもたらす敏感な部分をごりごりと擦りあげられ、強烈な快感が目の前で弾ける。

「ここを触られるのがお好きしょう?それから、奥も」

ナマエよりもナマエの身体に詳しい口ぶりでジェイドがぐっと最奥の脆い部分を刺激する。そこに触れられると耐えがたい快感がこみ上げてきて、ついには快感を貪ろうと腰が勝手に動き始めた。
それを逃げようとしたのだと勘違いしたのか、ジェイドに腰を後ろから強く抱き寄せられ、また深くまで咥え込んでしまう。

「あぅ、うッ!おく、おくはやらぁ!」
「そんな顔をされて言われても、説得力がありませんよ…っ」

パンと肉と肉のはじける音がする。強く突き込まれる度にシーツと乳首が擦れて、人知れず与えられる快感にすらナマエはすすり泣いた。
涙とこぼれた唾液と嬌声を枕に吸い込ませ、もうぐちゃぐちゃだ。それでも必死に枕に顔を埋めているとおもむろに髪を掴まれ上を向かせられた。

「あは、ひっどい顔」

だらける時間は終わったらしい。正面に回り込んだフロイドが背を丸めて顔を覗き込んできた。潤んだ視界の中に映るフロイドは興奮に酔いしれたように赤い舌で乾いた唇を舐める。
その色っぽい動きに目を奪われている間に、両頬にそえられた手がぐっとナマエの顔を持ち上げた。

「っうァ!」

荒い息遣いを間近で感じたと思った時には涙の伝った痕を熱い舌が頬を撫でた。一瞬のぬるりとした感覚にすら腰の奥が引き絞られたようになる。「しょっぱい。塩水みたい」と笑いながら、愉悦に歪んだ口元はしまいにはナマエの唇を貪った。
閉じられなくなった口内に入り込んだ舌が別の生き物のようにナマエの舌に絡みしゃぶりつく。快感を無理やり引っ張り出すような口付けに夢中になっていると、小刻みに揺れていた下肢を強く穿たれた。

「ふぁ、ああッ…んふぅ…!」

ビクンと身体が跳ねる。一瞬意識がどこかに放り投げられ、戻った時には全身が激しい快感の波に飲み込まれていた。
がくりと上半身をベッドに付け、ぶるぶると痙攣した全身が背伸びをした猫のようにしなる。シーツを汚してしまう、なんて考える暇もなく精路から蜜があふれ出した。

「っは……すごい締め付けですね」

低い、息の詰まったような声がぼんやりと聞こえた。
前の解放感とは裏腹にみっちりと男根を咥え込んだ後孔はジェイドを粘膜越しに刺激し、ナマエ自身をも痺れさせる。わずかに身体が動くだけでも敏感な身体は感じてしまい、ナマエの両手はぎゅっとシーツを握りしめた。

「薬がなくても貴方は元々才能があったのかもしれません」

ジェイドの言葉に反論しようとしても、骨の髄まで悦楽に染まり切った頭には何も浮かばなかった。じんじんと痺れる心地よさに苛まれて呼吸するのが精いっぱいだ。短く息を吸い、吐く。それを繰り返す濡れた唇にフロイドの指先が触れた。

「ねぇナマエちゃん、俺のもシて」

無理やり開けた隙間に先端があてがわれ、ナマエは一瞬戸惑って、ぎこちなく口を開けた。
今やこの身体に与えられるのは快感だけだ。目の前にある強い雄の匂いを漂わせる男根はもちろん例外ではない。こんなことを受け入れるのは初めてだったが、不思議と受け入れている自分がいた。

「っんぐ、ふぁ―ッ!」

薄く開いた口の中に割り込んできた逸物はもうすっかり硬さを取り戻していて、ナマエを恍惚とさせる。先端が上顎をこするだけでしなった背筋がふるふると震えた。

「そちらばかりに集中していないで下さい。少し妬けますから」

体内で硬さを保って静観していたジェイドがナマエを責めるように再び腰を掴んで激しく突き上げた。瞬間、衝撃を逃そうと動いた身体がフロイドをさらに奥深くまで受け入れた。
喉の奥にまで先端が触れ、えずきそうになる。口を封じられ、息も苦しくてナマエは知らぬ間に舌でフロイドを刺激した。

「そう、上手上手」

フロイドの少し感じ入るような声が上から聞こえてきて、ナマエは何故か嬉しくなった。少しでも責め立てられた立場が逆転したような気がしたのかもしれない。身体を揺さぶられながら必死に唇をすぼめて脈打つ表面を扱くと、答えるように髪の中に手をさしいれられて柔らかくくすぐられる。

「あぁ、貴方のここ、フロイドのもので泡立ってますよ」
「やぁ、ああッ…あ、ふぅッ!」

じゅぷじゅぷと淫靡な音が聞こえる。それは後孔だけでなく、唾液まみれの口内からも聞こえた。無理やり上下の口を塞がれて苦しくてたまらない。けれど同時に身体が溶けてなくなりそうな程熱く、気持ちが良かった。なんだか自分がひどく淫らな存在になってしまった気がして恥ずかしいが、それすらも今は興奮材料になってしまう。

「ずっとされてるのも飽きるなぁ」

髪に触れていた両手がナマエの身体とベッドの間に滑り込んだ。見えない部分に這いまわる指はおかしな生き物みたいだ。赤く熟れた乳首を探り当て、指と指の間に挟みこりこりと転がされると身体の芯に電撃に似た刺激が走る。

「はぁ、ッん!?」

シーツで擦れるよりも直接的で強烈な快感だった。内側に咥え込んだままのジェイドを巻き込んで、強制的に促される快感に淫蕩な身体を震わせる。
言葉すら封じられた身体に積もる快感は身も心も焦がしそうな程燃え上がりナマエをよがらせた。

「くあ…っああッはぁん!」
「ふぅ……貴方の中、すごく絡みついてきますよ。そんなにそこをいじられるのが好きなんですか?」
「へぇ。そうなの?」

まるでいい事を聞いた時のようにフロイドが弾んだ返事を返す。その手に乳首を強くつままれると同時に粘膜の感じる場所をごりごりと抉られてナマエはまた背筋で曲線を描いた。
身体の奥底から恐ろしい程の悦楽がこみあがってきて、またあの凄まじい感覚に支配されるのだと思うと胸が期待のような何かでいっぱいになる。

「震えてますね。そろそろイキそうですか」
「ぅん、んんんっ!」
「あは、そうだって」

必死に小さく頷くと、フロイドが笑いながら背後にいるジェイドに目配せをする。すると腰を掴んでいた指に、ぐっと力が入り、内臓を直接揺するように深く突き入れられた。

「ぐッ、はあぁッ―!」
「いいですよ。僕もそろそろ、限界です」

絶頂を予感させる注挿にナマエは喉の奥から叫び声をあげた。開けっ放しにした唇から唾液をだらだらとこぼしながら衝撃を受け止める。その快感を共有するように口の中にあるフロイドのモノにしゃぶりついた。肉がぶつかり、粘膜同士が絡み合う音がナマエを超えてはいけない一線の向こう側に押し出した。

「はぁッ、あふぅっ…ぅああッ」

最奥にまで突き入れられる肉棒を自ら腰を寄せて受け入れた。瞬間ずうんと響く愉悦に頭の中が真っ白になった。
それでも胸元に触れていた指に強く乳首をつねられ感じた強すぎる刺激はしっかり背骨を通って頭にまで光の速度で走る。

「っうぅん」

息が詰まり、身体がとけてなくなってしまいそうな程熱くなる。その熱が限界を振り切った時、身体の奥底からとてつもない快感が弾けた。がくがくと四肢が戦慄き、体内に居座る男根を強く締め付ける。

「うぅッ、ゃあぁあッ!」
「っぐ」

短いジェイドの呻き声が聞こえたと同時に太い茎がピクと震え、深部に熱い迸りがかけられた。その感覚すらしっかりと感じてしまい、もう元の身体には戻れないのだとナマエは思った。
舐ったままのフロイドのモノが口内に吐き出した白濁もツンと鼻を抜ける青い匂いごとごくりと飲み下した。

「あーん」

フロイドの指が歯と歯の間に滑り込み、口を開ける。赤い舌の上にねっとりと絡む白を見て、にやりと笑うフロイドは満足気だった。ナマエの前髪に手を差し込んで、「いい子いい子」と誉めそやしてから一転じとジェイドを見つめる。

「ねぇジェイドはいつまでそのままなの?」

ナマエの中で未だどくんどくんと大きく脈打つ男根は最後の一滴まで注ぐように中を擦りあげる。ただでさえ深いが絶頂が長引き、身体はピクピク震えて止まらないのに小さく揺すられるだけでも目の前がチカチカする。

「ふぅ……。そう急かさないでください、フロイド」

ゆっくり息を吐きながら杭を引き抜かれると入口が一瞬広げられる感覚に短い叫び声が口をついて出た。
二人を咥えていた窄まりはヒクヒクと収縮し、白い唾液をこぼしている。後孔から太腿につぅと滴り落ちたそれは、脱力して崩れ落ちた身体と共にシーツに染みこんだ。

「はぁ…あ……ん、あぁ……っ」

必死に息を整えようとナマエは大きく胸を上下させる。まだ足の爪先までじんわりと快感に支配され、とてもじゃないが指の一本ですら動かせそうになかった。
だと言うのにまだ身体の中に燻る熱は冷める気配がない。まだ、もっと欲しい。中をひどくこね回して、気を失うくらい逝かせて欲しい。衝動的に思ったその言葉を舌の上にのせた所で声にしないだけ、もしかしたら少しは落ち着いて来たのかもしれないが。

「ナマエ大丈夫?さっきから痙攣してんじゃん」
「気持ちいいんですよ。触られなくてもいってしまうくらいですから」

ジェイドに横たえていた足を左右に開かれナマエは気だるげに閉じていた目を見開いた。いくら乱れた姿を見られたからと言って羞恥心がなくなった訳ではない。ただ足を広げる手を跳ねのけることもできず、結局睨むことしかできなかった。

「あぁッ」

羽を触るようにやわらかい手つきで股の間を触れられる。そこにはだらだらと蜜をこぼすナマエのモノがあった。そこでようやくジェイドの言っている意味が分かり、ナマエの羞恥心が燃え上がる。
後孔を穿たれて逝ってしまった事実がひどく淫猥で我ながら信じられなかった。

「もう、いやだっ!こんなの……ッ」

ナマエが身を捩ろうと足に力を入れたが、白く塗れたものをやわくもみこまれてしまうと言葉が出なくなった。
切なげな喘ぎ声が二人の鼓膜を揺らすと、気をよくしたのか二人分の手が肌に触れ、撫で上げる。ちりちりと焼け付くような快感が忍び寄ってきてナマエを責め立てる。

「ダメに決まってんじゃん」
「こんな風にした責任は我々にありますから、是非責任をとらせてください」
「いらな、いぁッ!も、やぁ、だ…!」

甘い苦悶に満ちた表情を浮かべてナマエは二人を見上げる。眉を逆さ八の字に下げながら鋭い歯を見せて笑い、片や目じりを下げて薄い唇に微笑みを浮かべる。似ているようで似ていない兄弟だが、揃いの瞳には欲情の炎が揺らめいていた。
乱れた息遣いが、たしかに二人が興奮の中にいることをナマエに教えてくれる。

「大丈夫。安心して、僕達に身を任せてくれれば」
「そうそう。ナマエは気持ちよくなればいいんだよ」
「全て薬のせいにすれば、貴方も素直になれるでしょう?」

クスクスと囁くような笑い声が淫靡な空間に響く。
両腕はまだオクタヴィネルカラーのストールにきつく縛られたまま解かれる気配もない。きっとこれが解かれるのは、何もかもが終わった後なのだろう。
ナマエは与えられる快感を想像して身体をくねらせる。波打つシーツの上に横たわる姿は陸上の人魚のようだった。

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