真面目先輩と宇佐美9*


ナマエが「門倉部長!」と大きな声で呼びかけると彼はゆっくり振り返った。丁度欠伸をしようとしていた所だったらしい。大きく口を開けたのを無理やり噛み殺して目に涙を滲ませていた。
呼び止めたのが上司である天獄であるならまだしも、部下の前なのだから欠伸ぐらいナマエとは言えど目を瞑るのだが、そうしない所が門倉が慕われる一因だと思う。例えうっかりで茶碗を割ろうが転んで豚の餌箱に突っ込もうが日頃の行いと多少の哀れみもあって手をかしてやりたくなってしまう。ちなみに今日は見た所まだ手を貸す必要性はなさそうだ。

「門倉部長。おはようございます」
「よぉナマエ」
「丁度良い所にいらっしゃいました。探してたんです」

門倉の元に駆け寄り、ナマエはほっと安堵の表情を浮かべた。この広い網走監獄でそれなりに忙しい門倉を捕まえるのは自分の空いた時間だけでは中々難しい。幸い探しはじめてからまだ大した時間はたっていなかった。偶然宿舎の廊下を歩いているのを見つけなかったら次はいつになってたことやら。

「何、なんかあった?」
「いえ。実は後輩のことでご相談がありまして」

真剣な面持ちでこそっと声を潜めるナマエに、門倉は目をこすりながらちらりと視線をくれる。
何を隠そう本日の相談事とは宇佐美のことである。すきあらば身体を貪る宇佐美にいい加減耐えきれなくなってきたナマエはせめて新人担当を外してもらえないかと門倉に相談しようと思っていたのだ。しかし宇佐美はそれを見越してかおはようからおやすみまでずっと離れない。仕方なく同僚に引き留めてもらっている間に抜け出して、ようやく門倉を探すことができた。この時点でナマエはもう全てをやり遂げた気持ちになっていた。

これであの悪魔から解放される、全て元通りだ―!

「後輩?って言うと……あいつのことか?」
「え?」

門倉がふいに気だるそうな表情で皺深い指でナマエの後ろを指さした。背後には様々な部屋に繋がる扉がずらりと並ぶ長い廊下が続いていて、門倉が指を指していたのはその廊下を走ってくる男だった。遮蔽物もなく見通しのいい廊下が男の足に拍車をかけ、あっという間にナマエの横にぴたりと止まる。時間にして数秒。しかし一歩一歩確実に近づいて来るその顔を見てナマエはぞっと身震いした。

「ナマエ先輩ー!」
「急ぎの用事でないなら走るなとあれほど」
「すみません」

噂をすればなんとやら。一ミリも謝る気がない薄っぺらな謝罪を口にしながら宇佐美はえへっと笑った。

「でも急ぎと言えば急ぎですよ!これから書信室の掃除しなきゃいけないのに勝手にいなくなるから」

そう言って今度は丸い目をちょっとだけ釣り上げて可愛いらしい怒り顔でナマエの腕を掴んだ。見た目とは裏腹に、思い切り指に力が入っている。服に宇佐美の指が食い込んで細かく深い皺が刻まれ少し痛い。すぐ振りほどくか叩き落としたい所だが、門倉の手前であることを思い出して歯をくいしばるに留めた。それよりも宇佐美の言った言葉が気になって、頭の中のスケジュールをひっくり返す。

「もうしっかりして下さいよ」

いやお前のせいで俺の調子は絶不調なんだけど、とナマエは内心で文句をたれる。そもそもこうして相談内容がこの男なのだからナマエの言い分はもっともなのだが、だからと言って全てを門倉に打ち明けることはできない。
お見通しだと言わんばかりに両頬のホクロをにっこりと持ち上げた、絵に書いた笑顔で詰め寄ってくる宇佐美は恐怖以外の何者でもない。この笑顔に何度丸め込まれたことか。ギギギとぎこちない動きで笑顔から逃れるために顔を背けたナマエは隣でこの茶番をじいっと見ている門倉に目で訴えかける。

(門倉部長、頼む!せめて一言、何か言って、あわよくば叱ってくれ!)

門倉は宇佐美とナマエを見比べ、口をへの字に結んでいる。いかにもこれからありがたいお言葉を言ってくれそうな神妙な面持ちで顎の髯を手でなぞり口を開いた。

「なんだ、仲いいなお前等」
「はぁっ?」

思いがけない言葉が出て驚いたナマエは素っ頓狂な声をあげた。開いた口そのままに門倉を穴が開くほど見つめる。気難しい顔でうんうんと頷く門倉は何故か満足気だが、ナマエはいやいやいやとツッコミをいれる。誰がそんな面持ちから和やかな言葉が出てくると思うのだ。思わせぶりにも程がある。

「いい先輩後輩で安心した」
「いえ、俺が言いたいのはそういう事ではなく」

すかさずナマエが肩の高さまで手をあげる。このまま流されてはいけない。せめてもの抵抗で挙手という手段を取るあたり、真面目と言われる由縁である。だがおおよその人間は「はいナマエくん」なんて先生よろしく指してくれる訳でもなく、おおよそは門倉のようにさらっと無視するのが定番だ。

「じゃ書信室の方よろしく。おじさんこう見えてもちょっと忙しいから」

そう言うなり門倉はくるりと背を向けて困惑するナマエを無視してそそくさとこの場から立ち去って行った。あまりの早足に呼び止める余裕すらなく、小さくなる背中を追いかけようにも腕は宇佐美に捕まっている。この手はきっとちょっとやそっとじゃ解けないのだろう。試しもせずに無駄だと思ってしまうのは今まで散々宇佐美に植え付けられた観念のせいだと言うことにナマエは全く気付かなかった。

「ほら先輩行きますよ〜」
「ちょっ、待てまて」

人の腕をぐいぐい引っ張りながら進んでいく宇佐美はさながら言うことを効かない大型犬に似ている。ナマエの制止の言葉など一切聞かない。その上人一人を無理やり連れているにも関わらずその足は普段歩く速度となんら変わりなく見える。

「お前どこ行く気だッ!」
「どこって書信室に決まってるじゃないですか」
「そ、そうか。ならいい」
「やだなぁ先輩。どこでナニしようと思ってたんですか」

前を向いていた宇佐美がくるりと振り返り、怪しげに笑った。もう猫を被るのはやめたようだ。あれはあれでゾッとしたが、結局普段通りでもその笑顔が恐ろしいという事はそう易々と変わらない。ぐいっとナマエの腕を引いて横に並ばせたかと思えばしがみつくように腕を絡めた宇佐美はケラケラ笑った。



網走監獄に収監されている囚人達は皆一級の悪人だが、囚人とは言え一人の人間。外には家族や友人もいるわけで、外部との連絡手段として面談の他に手紙のやりとりが許されている。
書信室とは監獄に収監された囚人達が外にいる家族や友人に手紙を書くための部屋を指す。そんな書信室での看守の仕事と言えば、囚人が何か手紙を書く以外の怪しい動きをしないか監視し、書き終えた手紙を検閲する。そして利用されていない時には掃除をしつつ、部屋に異変がないか確認するのが主であるのだが今静かなはずの書信室はある者には天国、ある者には地獄の様相を呈していた。

「あッ、はぁっ……ッ!」

ナマエは耐えきれずに嬌声をあげて熱い唇にしゃぶられた竿を震わせた。目の前がチカチカ点滅して、射精の痙攣にガクガク足が震える。上体を反らせて後ろに肘をついていたナマエはガクンと落ちそうな身体をギリギリの所で保っていた。
フラフラする頭をもたげて見ると、膝をついてこちらを見上げていた宇佐美がもったいつけてゆっくりと竿から口を離す。薄い唇からはもうとろみがかった真白はこぼれていない。もうこれまでに散々出し切ったのに、それ以上を求めてくるのだから宇佐美は全く際限を知らない男だ。

「はぁ、あっ」
「んはぁ……先輩ってばもう本当になーんにもでないんですね」

うっとりした表情を浮かべて、宇佐美はすっからかんになった睾丸を両手で包む。指がなめらかに波打つように動く度、腰をひくりと動かしてナマエが苦しそうに顔をしかめた。それが面白いらしく今度は指で包み込み、手の中で転がしてじっくりと愛撫する。

「もう出るわけないだろぉッ」

絞り出した声は勢いがなく弱弱しい。ナマエの胸は大きく上下し、息も荒れていてとてもじゃないが叱責などできやしない。座り込みたい所を無理やりにでも立っているのがやっとなのだ。「下あんまり綺麗じゃないから、座らない方がいいですよぉ」なんて宇佐美が言っていたが、それなら太腿が震えるような事をしないで欲しいものだ。散々竿を嬲った舌が掌で弄ばれていた睾丸をベロリと舐め上げ、ナマエを見上げた。

「もう数えるの忘れるくらいイキましたもんね」

あははッと口を開けて笑う宇佐美の口にどうしても視線が行ってしまう。咥内は恐ろしく熱くてとろけそうな気持ちよさをナマエにもたらしただけでなく、果てた末の精ですら飲み下したのだ。薔薇みたいな鮮明な赤に留まる白が妙に扇情的だった。

「きもちよさそうだなァ」

ナマエは現実から目をそらすように瞼を下ろし、強く噛みしめた歯と歯の間を通り抜けて熱い吐息をふーっふーっと吐き出す。息遣いだけ聞けばあたかも獣のそれだ。

腕を掴んだまま書信室にやってきた宇佐美は有無を言わさずナマエを一人分に区切られた一室に押し込んだ。手紙を書くために用意されているスペースは腰の高さに机代わりの板があり、看守から見えるように正面は壁がなく、両隣は仕切りで見えないように作られている。背後は簡易の扉で出入りができる、小さな箱が連なっている。看守から見れば何人もの囚人の胸像が手紙を書いているのが観れるというわけだ。
ナマエはその一室に入り板の上に肘をついて、宇佐美の恥辱に耐えているのだが、表から見ればただ背中を向けているだけにしか見えないのだから宇佐美に言わせればなんとも素敵な箱である。

「これ以上はァッ、無理だから……!」
「えぇ?もうちょっとやってみません?もしかしたら意識飛んじゃうかもしれないですケド」

高ぶった性欲を吐き出してへにゃりと下を向く竿に宇佐美が「おーい」とアホみたいに声をかけるのでナマエは泣きたくなった。事実開いた目の端には涙が浮かんでいた。宇佐美から見ればよがり泣きに見えていたのだがナマエはそんな事を知る由もない。
枯れ気味の声を飲み込んで、なんでこんな奴に毎度食われているんだ俺が何をしたんだと自問自答する。しかし今回は明白な理由がある。間違いなく告げ口をしようとしたからだ。いつだって宇佐美はナマエの全てを搾り取ろうとする勢いで貪っていたが、こうも何度も竿だけをねちっこく辱めたことは……あまり思い出したくはないがあったような、なかったような。大体一度ならず二度、三度と絶頂を繰り返すと、思考力は極限にまで鈍っていてナマエはよく覚えていなかった。

「悪かったから!もうやめてくれよ」
「何が悪いと思ってるんですか」

問いただすためか立ち上がった宇佐美が目と鼻の先までスッと顔を近づけて額をコツンとぶつける。まるで恋人が寄り添う距離感だが、そんな甘ったるいものではない。猫みたいなまるっこい目がカッと見開いていて、ナマエから逃げ出そうという気を奪う。この目に捕らえられるともうどこへ行っても例え地の果てだろうと追いかけてきそうだとすら思える。ではこの笑っているようで怒っているらしい男を今すぐに宥める方法と言えば、もう今まで散々提示されてきた。”素直になること”だとナマエは学んでいた。

「門倉部長に」
「うんうん」
「お前のこと、報告しようとしたから」
「そうですよね。これは僕と先輩だけの秘密ですから言ったらダメですよ」

富士山の形をした唇が一字一句言い聞かせるために囁き、それはまるで呪文のようにナマエに沁み込んでいき、勝手に背筋がゾクゾクするのを感じた。まだかろうじて残っている思考が何を馬鹿な事を言うのかと思っているのに、あたかも身体が支配されていく快感に喜んでいるふうに思えて相反する反応に戸惑ってしまう。こんな事望んではいないのに、まるで期待してるみたいじゃないか。

「っう、分かったからもういいだろ!」

馬鹿げた思考を振り払おうと声を荒げると、宇佐美が耳元で「よくないですよ」と散々張り付けていた笑顔を引っ込める。熟れた耳元にかかる吐息は熱く、間接的に興奮しているのがナマエにも分かった。ひたすらにナマエを虐めることに集中していたのだから今までの宇佐美の行動を振り返れば当たり前とも言えるかもしれない。

「ねぇ先輩」

宇佐美が露出された太腿をするりと撫であげた。休憩は終いだという合図に、ナマエはとっさに腰を引こうとする。けれど一歩下がろうとすると背後には手紙を書くための板がありどうやっても逃げ出せる訳がなく、唯一の出入り口は宇佐美が塞いでいた。それでもナマエはこの状況がどうにかならないものかと何かに縋りたい気持ちだった。
どれだけナマエが体力を消費しようと宇佐美はまだピンピンしていている限りこの地獄は終わらないのだ。むしろこれからが本番と言っても過言ではない。やることはきっと今までと何も変わらない、けれどごくりと息を飲んで真正面に迫っている男の動向を黙って待つのはまだナマエが可能性を捨てきれていない証拠だ。

「門倉部長になんて言おうと思ってたんですか?」
「お前が不真面目だから指導は別の奴にして欲しいって言うつもりだったんだよ、うぁ」

言い訳を並べている間に太腿から這い上がってきた手は上着と襦袢の釦を手早く外し開けさせると、肩を掴んでナマエを前を向かせた。足首に引っかかった軍袴が動く度に鬱陶しいが、丁度腰の高さにある板に寄りかかれてずいぶん楽になる。板についた肘の上に体重をかけ、乱れた息を整えるために深い呼吸を繰り返す。少しは落ち着きたいものだが、すぐ背後で聞きなれた音がすればナマエも身体が強張る。

「ひどいなぁ。僕ちゃんとやる事はやってますよ」

そう言いながら宇佐美は斜めに傾いたナマエの背にすり寄った。ピタリと密着した宇佐美の肌はこんな事をしているというのに自分より元々体温が低いのだろう、少しヒヤリとしていて気持ちいいと思えてしまった。しかし尻の谷間に擦りつけられた棒と言えるほど固くなった陰茎は熱く滾っている。

「今、してないだろッ」
「大丈夫ですよ。この後ちゃんと動けなくなる先輩の分まで働きますから」
「全然大丈夫じゃない!あ、あッ」

ナマエがくっと喉を引き攣らせた。いつのまにか腹に回っていた手が開けた襦袢の中に差し込まれ、乳首を探り当てて指でつまみあげたのだ。何度も果てた身体は敏感で指で引っかかれるだけでも身を捩ってしまう。けれど動く度に尻に当てられた宇佐美の熱量を感じて、どちらにしてもナマエに逃げ場などなかった。奥歯をぐっと噛んで大口を開けないよう努めてはみるが、所詮宇佐美からすれば無駄な抵抗だ。

「ふぅ、あぁッ」
「いいなァ。僕も早く気持ちよくなりたい」

宇佐美はぐいぐい腰を押し付けながら大した厚みもない筋肉に覆われた胸に手を這わせ揉みしだく。まるで女にするような強弱をつけた仕草はじれったく、同時にナマエの羞恥心を煽る。胸をまさぐられて声を出す自分なんて信じられない、信じたくはない。けれど時々指先でカリッと乳首を掻き立てられると心身共にいてもたってもいられなくなって、つい縋るようにナマエは後ろを振り返った。肩の上に顔を乗せた宇佐美は想像以上に近く、きょろりと目だけがナマエを見ている。

「先輩、僕も入れてもいいですか?」
「どうせぇ、あッ、ダメだって言ってもするんだろぉ!」
「当たり前じゃないですかァ。ね、いいですよね」

猫撫で声で囁きながら、その実ぐりぐり腰を更に押し付けて主張してくる。答えなんか最初からひとつしかないのに、丁寧に聞いて来るあたりそれを分かっていてなお言わせたいのだろう。ナマエは少し迷った後、「いい、いいから」と投げやりに答えてやった。それでもナマエが頷いたという事が良かったのか、フフンと気を良くした宇佐美は脱いだ自分の服から小さな缶を拾い上げた。缶の蓋を開き、板の上に置いて指先で中身を掬い上げる。

「ふふ。先輩が入れていいって言ったんですからね」

指先を覆いどろりと落ちるそれは薄くオレンジ色に色づいていて、甘ったるい匂いがハチミツみたいに見えた。花の蜜に誘われる蜂のようにナマエも指先を目で追い首を捻る。途中からは宇佐美の影になって見えなくなったが、すぐさま自分の後孔に冷たいものが触れてナマエは俯いてその動きに集中した。
肌になじませるために滑りをよくした指先が円を描くようにくるくる動き、やがて窄まっていた後孔の奥へ指を埋めた。外から内へより滑らせるために念入りに軟膏を塗り込んむ。それにかこつけて何度も往復する指にすら下半身が跳ねて仕方がない。

「んっ、……くゥっ……」
「もう塗ってるだけなのにたってるじゃないですか」

宇佐美の指摘にナマエはぐっと唇を噛んで瞳を潤ませた。事実に返す言葉もない。後孔をいじられて萎えていた陰茎が熱くなるのを自分でも感じていた。もう何も出やしないというのに立派にそそり立つそれと、内壁を擦りあげられて震える身体にかろうじて残っていた男としてのプライドを粉々にされた気分だ。

「さてと期待に応えますよ」

ずるり、といとも簡単に指が引き抜かれて再び閉じた後孔は小さく疼いている。誰にも知られることのない声のない悲鳴をあげたナマエに背後から宇佐美が狙いを定めた。慣らした窄まりに膨らんだ亀頭をあてがい、ためらいもなく腰を前に推し進める。

「んぐッ……!!」

ずず……と音を立てながら奥をめがけて太い塊が押し込まれる。軟膏で滑りがよくなったせいで痛みはないが、あまりにもすんなり身体が受け入れるせいでまるでナマエが誘って受け入れているかのようだ。
呼吸する度蠢く内壁をエラが張った先端が道を広げながら進んでくる。引き起こされる快楽に、ナマエはたまらずのけぞった。反ってくっきり浮き上がった喉仏からは声も出ない。

「うぁ……きもちいいなァ」

我慢していたというだけあって入ってくる陰茎はまさに棒と言えるほど固く、宇佐美も時々息が詰まっている。

「っひぁ……あァ……!」

何度受け入れても穿つ陰茎に慣れることなどない。エラが張った先端にいやにゆっくり奥をこじ開けられてナマエは打ち震える。一気に貫かれると気が飛びそうになるが、これはこれで宇佐美に嫌でも気が向くし、長く快楽に浸かることになって辛いものがある。宇佐美の腰とナマエの尻が触れ合う頃には自分の竿もガチガチに硬くなるくらいには興奮が蘇っていた。

「先輩の中に全部入りましたよぉ」
「んぅ!」

背をそらせるナマエにぴたりとくっついた宇佐美が律儀にも報告をしながら、再び手を腹に這わせて片手で飾りをつまみ、もう片手で固くなった陰茎に触れた。どこにも逃げ場はないというのにこれ以上離れないように抱きかかえられた身体はもう宇佐美の言いなりだ。糸でも撚るように擦られる胸に集中すれば埋められた陰茎がずるりと引き出され、握られただけの陰茎も刺激になる。全身を嬲られてナマエはすっかり翻弄されていた。

「んん?……先輩いつもより感じてます?こっちのせい?それともこっち?」
「ひッ」

試すように右手、左手と順番に攻め立てられ、ナマエは必死に首を振る。もうこれ以上やられたら頭がおかしくなりそうだ。弱まるどころか強くなる一方の快感に息も絶え絶えだ。なのに宇佐美は何を勘違いしたのか「あー、もしかして全部ですか?」と問いただしてくる。平時であったならば言い返せるというのに、言葉にならない声しかあげられないのがもどかしい。

「ふふ、欲張りだなぁ」
「あァッ!やぁめ、ッう!」
「じゃあこっちは先輩が、やってくださいねっ。今日、僕もちょっと余裕ないので」

陰茎を掴んでいた宇佐美の手が離れたかと思えばナマエの手を無理やり誘導する。汗でびっしょり濡れた手で自身を握らせ、強く上下にしごいた。瞬間ナマエは走った電流に後孔をギュッと締め付ける。再び硬さを持った竿は一度擦るだけでも震えそうだ。

「ほら、自分でして下さいよぉ」
「んっ……くァ……」

これ以上宇佐美に任せたらどんな事になるだろう。想像してナマエは仕方なくゆっくりと脱力気味の手を動かした。先ほどとは比にならないほど弱弱しく到底達することなどないだろう動きだ。それでも突然ずるりと陰茎が引き抜かれた刺激と合わさるとナマエの声に艶が出る。イキっぱなしの身体は全身の神経が鋭くなっていてぶわっと鳥肌が立った。

「あ"ああーッ!」

ここが書信室であるということも忘れてナマエは叫んでしまった。宇佐美がナマエの腰を掴んで強く打ち付けた。もうナマエの良い所は分かっているとばかりに硬くなった前立腺を刺激しながら最奥へ突き入れては引き抜き、嬌声に混じって肉と肉がぶつかりあい、軟膏と汁が混ざり合ってぐちゃぐちゃと音を立てる。ただただ溜まった熱を解放するためだけの動きに、脳天を突き抜けるような快楽を感じてしまうナマエはもう自分の陰茎を擦ることなど忘れてしまっていた。
揺すぶられているだけで意識が飛びそうだというのに宇佐美は勢いを殺すことなく腰を穿つ。ついにはナマエが耐えきれなくなって板の上に上半身を倒した。板はヒヤリとしていてそれがまた気持ちよかった。

「っハァ、う、うさみ……!」

汗で襦袢が張り付くのもおかまいなしに尽きることのない性欲を余す所なくぶつけられ、ナマエの中で押し寄せる快楽の感覚が短くなってきた。情けないことに堪え性という言葉からは今一番遠い所に立っている。適当に動いているように思えるのに的確に攻め立ててくる宇佐美には白旗をあげるしかできない。もうダメだ、またいってしまう。うわ言を呟いたナマエの目にはあまりの気持ちよさに涙が伝っていた。

「ん?しょうがないなァ」

あっと思った時にはナマエは宇佐美に抱き起こされていた。骨がおれるんじゃないかと思うほど強く腹を片手が抱き、自身の陰茎を握り込んだだけのナマエに宇佐美の熱を帯びた手が重なる。そしてナマエの手でナマエの陰茎を強くこすりあげた。

「ほらッ、ン、早く楽になりたいでしょ……?」
「ひッ、あァあ!」

最早喘ぎ声を通り越した叫びに喉を震わせる。これ以上はダメだと頭のどこかで警報が鳴っている。けれどこのままなんてそれこそ地獄だ。恥ずかしいと思う余裕すらないナマエはついに指先に力を入れて熱の塊を扱き上げた。上下に動かすと、砕けそうな腰を支える宇佐美が尻に挟まれた陰茎を奥までねじこんでくる。狭まった後孔を太い陰茎が押し広げて、ナマエを更に突き動かす。二人の額には汗がにじんでいた。

「ーん"ぁあアアアッ!」

限界まで高まった快感が腹の底からこみ上げてきて、心臓がどくん、と大きく脈打った。宇佐美に抱きすくめられたまま、びくびく痙攣するナマエの手の中では陰茎が震え、異物を絞り上げようと後孔がきゅうと狭まる。朦朧とする意識の中でも厄介なことにナマエの身体はきっちり快感を拾い上げる。精を搾り取ろうとする後孔に身を任せて動くのを止めている宇佐美に歓喜して脳を揺らすのだ。

「ひ、ァあ、フゥ……ハァーッ……はァーッ」
「ふぅッ、危うく釣られちゃう所でした」

まるで全力疾走した後みたいに息を乱すナマエに宇佐美がフゥッと後ろから風を吹きかける。するとビクゥッと身体が揺れ、面白くなった宇佐美は腕に引っかけているだけの上着の襟をどけ、汗で光るうなじをぺろりと舐めた。俯いていた顔が振り返り、ようやく宇佐美を見る。その目はすっかりとろけていて、赤みを帯びた頬は熱に浮かされていた。

「先輩、すっごくそそる顔してる」
「ふぁ……ハァ……」
「続き、しましょうか」

ナマエを舐めた舌で、自分の唇をなぞる宇佐美はまだまだ終わるつもりはない。埋めたままの陰茎を悪戯に突き上げ、今にも崩れ落ちそうなナマエの腰に指を食い込ませた。



今週の宇佐美読んだらちょっと解釈違い起きた。
書信室の実物は明治村にありますので気になる方がいましたら検索してみて下さい。網走監獄には実物展示はない上、あったという歴史も見当たらないのでもしかしたら書信室はなかったかもしれません。
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