なにかと道連れ世は情け


※芸能パロ

小さな画面の中で並んだ4桁の数字が全てゼロになった。また新しい一日のカウントが始まり、暦上ではたった今日付が変わった訳だがミョウジにとってはまだ今日は終わらない。

スマホを鞄の中に仕舞いながら、すぐ後ろにある壁に寄りかかる。いつものミョウジならキチッと背筋を正して立っているが、溜まった疲労に身体が悲鳴をあげていた。

「今日の仕事はこれで終わりだ。帰るぞ」
「はい。ちょっと待って下さいね」

立ったまま眠りそうなミョウジとは裏腹に、壁を挟んだ廊下は真昼のように明るく騒がしい。さすがに針が1時2時と傾けば多少なりとも人も音も少なくなっていくのだろうが、いかんせん今は特番の撮影が立て込んでいる。どこもかしこも大忙しなのだ。

マネージャーとして働くミョウジも担当の宇佐美の撮影に立ち会い、こうして深夜まで働いている。

すっかりよれてしまったネクタイを緩めながら、「疲れた」とぽつりと呟くと荷物をまとめ終えた宇佐美が立ち上がった。財布とスマホ、それと飲み物くらいしか入っていなさそうな小さなリュックを背負い、ミョウジの隣に並ぶ。芸能人らしくマスクをつけると特徴的なホクロが隠れてパッと見は普通の若者だ。

「はぁ〜疲れた」
「へぇ、さすがの宇佐美も疲れたか」
「僕の事なんだと思ってるんです」
「体力馬鹿」
「失礼ですね」

いや事実そうだろう。
真面目は隣を歩く宇佐美を盗み見た。

ここ数日休みなく毎日深夜まで働いて疲労困憊だ。自分の足取りだってどことなくフラフラしている気がするのにも関わらず、隣の男はなんならスキップでもしそうなくらい元気に見える。
撮影中には仕事として笑顔でいるのは理解ができるが、終わった後も変わらずにいられるのは素直に尊敬すべき事だ。だが正直に言った所で宇佐美が調子に乗って面倒くさい。

すれ違うスタッフたちにもにこやかに挨拶をしながら、地下駐車場まで降りた二人はミョウジの愛車に乗り込んだ。何も言わずとも助手席に宇佐美が座るのはいつの間にか定着している。何を言ってもそこに座ってスマホをいじっているのだから今更後ろに行けと促すのもおかしな話だ。

「シートベルトつけたか」
「大丈夫ですよ」
「よし」

キーを回してエンジンが低く唸り出すと、車は寝静まった町に繰り出した。

宇佐美がスマホから適当に流している流行りの曲を聞きながらアクセルを踏む。行く手を阻む信号も示し合わせたように青に変わり、面白いくらいスムーズに駆けていく。スピードが途切れる事なく、実に気分のいい帰路だ。この調子なら想像より早く家につきそうだ。

「あ、ミョウジさん。僕お腹すいたので焼肉食べに行きたいんですけど」
「は?焼肉ぅ?お前この前身体絞るとか言ってなかったか?」
「はい。でもお腹すきましたし」

宇佐美がどんな顔をして言っているのかハンドルを握っているミョウジには分からないが、たしかにこの時間帯まであまり飲み食いせずに撮影していたから腹も減るだろう。だが時間は深夜帯。はたしてこんな時間に食べさせてもよいものか。悩む所だ。担当芸能人の体調管理もマネージャーの大切な仕事である。……なんて建前を言ってはみるがその実ミョウジは疲れているだけだったりするのだが。

「だからって焼肉ってなぁ」
「深夜の焼肉って背徳的でいいじゃないですか」
「いや良くはないだろ」
「お願いしますよ〜」

丁度進行方向の信号が青から赤に変わり、ゆるやかにブレーキを踏んで停車させる。ついでにチラリと助手席を見ると、喋りながらも宇佐美の視線はスマホに夢中だった。既に焼肉屋に行く気らしい。目にも眩しい画面の中で何軒か近所の焼肉屋が案内されている。これは何が何でも行く気だ。

「……じゃあ焼肉屋で置いてくから自分で帰れよ」
「えー!?ミョウジさんも一緒に決まってるじゃないですか。お腹減ってるでしょ」
「嫌だ。胃もたれする」
「じゃあ僕車から降りませんからね。このままミョウジさんの家までついてきますから」
「やめろ馬鹿。俺の安眠を邪魔するな」
「焼肉」
「ハァー……」

ミョウジがハンドルに寄りかかって下を向くと、宇佐美が「信号変わりましたよぉ」と言った。


「で、やっぱり会計は俺かよ」
「経費で落として下さい」
「経費は何でも清算できる訳じゃねぇ!あーこんなに食いやがって、くそ〜…」
「ふふ。ごちそうさまです」


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先輩は他の芸能人のマネージャーしてたのに、宇佐美の策略によって宇佐美付きになってしまいました。マネージャーの不運は続く。


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