ES21
2016/10/11 13:20
よく耳にする話がある。
そんな下らない話なんて沢山あって、そのどれもが思い出したように雑談のネタになって、消えていく。
パスワードについての話もそんな下らない話の1つだった。
「ねぇ、キッド。
携帯のパスワードなに?」
目の前にあった、ガラケーと言われるそれを握りながら聞く。
若いのに、未だにガラケーとは彼らしいなんて思いながら。
「んー?
いきなりどうしたいんだい?」
彼はいつものように、ゆったりとした動作で視線を此方に向けた。
「いや、下らない話を思い出して。
パスワードってよく、単純な数字は辞めましょうって言うじゃん?
だから、私は誕生日なんだけどキッドもそうすると1111って単純になっちゃうじゃん?」
「てっきり、浮気を疑われたかと思ったよ」
疑われたかと思った。
そう言うくせに、彼から焦ってる様子はない。
「で、何番?」
「誕生日だよ」
「ふーん」
1を4つ連打したところ、パスワードは解けなかった。
「…ねぇ」
「あー、違う」
手元の携帯をそっと取られた。
「君と足して、だよ」
優しく微笑んで、彼と私の誕生日の数字を足した数字を目の前で打ち込んで見せた。
「ほらね」
パスワードの話なんて、下らない雑談のネタの1つだった。
なのに、そのネタは私を幸せにしたのだった。