キャッチミー!!

初夏の風はいい。
これから楽しい夏を連れてくるとウキウキさせてくれるから。
月曜日からこんな晴れてるなんて、いつもなら嫌な授業でも少しは受ける気になれる。
ただ、今日の私は…


「もー!!!最悪…!!」


そう、最悪。
綺麗に晴れた青い空に、まだらに浮かぶ白い雲。
まだ半袖の制服に衣替は早い時期。
セーターを脱いでベストに替えた。



「どうしたの、名前?」
…織姫ぇぇぇえええ!!!
「わわ!?」
「…フラれた」
「へ?」



私は織姫のふくよかな胸へと半泣きになりながらダイブした。



「フラれた…って、誰に?」
「3年の市丸先輩…」
「え…名前って市丸先輩が好きだったの?」
「…うん」
「ほんとに?」
「う、うん…」
「いつから?」
「え、えっと…「絶対嘘やろ、それ」



私が首を縦に振るのと同時にドギツい関西弁が被さってきた。



「そんなん嘘やな」
「な!?あんたに分かるわけないでしょ、真子!!」
「いーや、オレには分かる」
「何が分かんのよ、言ってみなさいよ!」
「そんなん、自分で気づかな意味ないやろ。それにどこがえぇねん、あんなヤツ」
「はぁぁあ!?何それ!?



まぁまぁ、と私と真子の間に入って私たちを宥める織姫。
先生が授業のために入ってきたので、私たちの睨み合いは一時中断となった。


平子真子

私や織姫と同じクラスで、市丸先輩と同じ関西弁を話す長身のヤツ。
ただ、市丸先輩よりも話し方は乱暴だし、行動にも品がない!



「…ぜった…い…せんぱい…の…」
「おい、こら、名前!!!」
わ!?
「いつまで寝とんねん、アホ」
「え、何時!?」
「17時」
「えぇ、嘘!?てか、何であんたがまだいんのよ」
「えぇやろ別に。ほれ、帰えんぞ」
「うわっ!?」



勢いよく私のカバンを投げつける真子。
私はそのカバンを受け取ることはできたが、その場から動くことはなかった。



「…名前?」
「…市丸先輩はこんなことしない…」
「はぁ?」
「真子はさっき市丸先輩のどこがいいのか聞いたよね」
「あぁ」
「市丸先輩はこんな乱暴じゃないし、私に優しくしてくれる!」
「それはあいつが…」
真子より絶対にいいに決まってる!!
「…」


私は涙声で真子に叫んだ。
すると、真子はいつもみたいな乱暴な話し方じゃなくて、私を諭すように言った。



「お前さ、市丸のヤツとデートでも行ったんか?」
「…え?」
「一緒にメシ食ったり、ずっと喋ったりしたか?」
「…」
「こんなに…」



すると、真子はズイっと私の目の前にまで責めてきた。
私は心臓が一瞬止まったような気がして、真子をまともに見ることができなかった。


「こんなに近くで…アイツの顔、見たことあんのか?」
真…
「オレのほうが…」
「え?」
「…別に。先帰るわ」
「え、ちょ!」


夕日に照らされた私の顔はきっと、夕日以上に真っ赤だったに違いない。





※    ※    ※





土曜日。
私と真子、その他数名の生徒は歩行のため午前中だけ学校に来ていた。
補講終了後、途中からぶっ通しで寝ていた真子の鼻をつまんでみた。


「…んがっ!?
「あは!何その声」
名前〜!!
「ねぇ、今日アイス食べに行こっか」
「…へ?」
「めっちゃ天気良いしさ。…なにその顔」
「いや、あの…まじで?」
「嫌だったら他の人と行くけど」
行く行く!!
「あはは、なにそれ!」



私は急に起き上がり、口から垂れていたヨダレを拭う真子を見て笑った。
そして真子のカバンを彼に投げつけた。


「ほら、さっさと行くよ!」
「名前…」
「これでおあいこね」
「…根に持ちすぎやろ」
「なんか言った?」
「別に…」


すると真子はギュッと私の手を掴んだ。
ドキッと心臓が撥ねるのを私は感じた。


「…ありがと」
「へ?」
「別に〜」
「なんやねん」
「あ、そういえば市丸先輩ね、いろんな女の子に手出してるんだって」
「へ〜」
「人は見かけによらないよね」
「…お前はもうちょい見る目を養ったほうがえぇんとちゃうか?」
「どういう意味よ!」
「別に〜」
「ちょっと!」


そういいながら、私は真子の手を強く握り返した。