一年で最も素晴らしい日を貴方と

「これとかどう? 似合いそう」

「お前オレを人形か何かと勘違いしとらん?」

「うん、これがいい」

「おい人の話聞けや!」


二人が今居るのは、男性がターゲットの少々値の張るアパレルショップである。前日の夜に待ち合わせの時間と場所を名前の告げられただけなので真子はこれからの予定を把握しておらず、更には所持金もごく僅かだ。
名前はそんな真子の財布事情や好みなどを無視して着々とアイテムを揃えて行く。
そして颯爽とレジのカウンターへ向かい、支払いをする。レジで提示された値段のゼロの数を数えて真子は驚愕した。


「お前そんな大金持っとんのか」

「もちろん。じゃあこれに着替えて来て。その間に私も準備してくるから」

「待てやお前」

「1時間で戻る!」


名前はそう言い残してショップから出て行き、真子はその背中を見送った後に店員に案内されて更衣室へと足を運んだ。



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「お待たせ」

「オウやーっと来た…か」


真子は先程強制的に選んだカジュアルなスーツを身にまとい、真っ直ぐに切られた金髪を簡単に後ろでうまく纏めている。
そして、名前は膝が隠れるか隠れないか程度のオレンジと黒のパーティドレスとそれに見合ったヒールのある靴で着飾っていた。


「馬子にも…「衣装とか言ったら後で痛い目見るわよ」嘘、似合っとる」

「時間無かったから巻いてスプレー振るくらいしかできなかった」


真子はきれいにコテで巻かれた名前の髪をひと束手に取って率直な感想を述べる。この場でこれ以上冗談を言える雰囲気ではないと悟ったのだ。


「ドレスがこんだけキラキラしとるで髪はそれくらいの方がええと思うで」


それもそっか、と呟くと手配していたタクシーに乗り運転手に行き先を伝える。
外の景色が流れるように変わって行き、目的地である高級ホテルへ到着するとドアが開いた。名前は真子の為に、ここのホテルの最上級のレストランを予約していたのだ。
レストランの入り口で予約した時の名前を告げると、見晴らしの良い窓際の席に案内された。
グラスには赤ワインが注がれ、そのグラスを持って二人は顔を見合わせる。


「真子、誕生日おめでとう。これからもよろしく」

「誕生日なんて忘れとったわ」

「年齢は聞かないでおいてあげる。これからもよろしく」

「コチラコソ」


軽く持ち上げて乾杯のポーズをしてグラスに口をつける。口の中に程よいアルコールの薫りと独特の渋みが広がった。