鈍感でも、意地悪でも

「平子隊長!おめでとうございます!」

……まただ。朝から来客が絶えない。女の子の。あんな大きな包み、何が入ってるんだろう。おおきに〜なんて言う真子の声もなんだかデレデレしているのは気のせいだと思いたい。少し前に来た子は花束を持ってたっけ。……ってかそういうの普通男が女に送るんじゃないのかな。

「いいんじゃなーい?私は素敵だと思うけど」

……違う。そこはそうねなんて同意して欲しかった。自隊にいると真子にプレゼント持ってくる女の子のばかりが目に付いて。逃げ場所に乱菊をチョイスしたのは間違いだったか……。

「ところで、アンタは何あげたの?」
「……なにも…何もあげてない」

……あげられなかった。私が選んだのは小瓶に入った香水で、なんだかみすぼらしい。色は金色、月を思わせる主張しすぎない香り。本当は一生懸命選んだ、これなら似合いそうって。

「はぁ?それじゃ今頃血眼でアンタのこと探してるんじゃないの?」
「……なんで?」
「なんでって……はぁ…平子隊長も苦労するわね」

何に呆れられたのか分からないけどため息混じりに乱菊が言うには、いっそリボンでも巻いてプレゼントはわ・た・しとか言えばいいって、そんなことできるわけない。ドン引きでもされたらどうしてくれる。はぁーぁ、お煎餅が美味しいわ。

「なんで真子ってモテるんだろ……」
「そりゃあ隊長だし、話うまいし?」
「イケメンやし、優しいし、モテ要素しかないもんなァ」

イケメン……んーまぁ私は好きな顔だけど。優しいかそうでないかで言えば優しいか、ってこの声!ソファから起き上がって見ればやっぱりそこには真子が立っていて。

「げっ……」
「げってなんやねん、お前いつまでサボる気や!」

あらぁ王子様のお迎えね、なんて乱菊これはそういうのじゃない、明らかに怒ってるもん。なんか気まずくて、二、三歩後ろを歩くにも歩くペースがいつもより早い。

「俺、今日誕生日やねんけど?」
「存じております……」
「もう仕事終わったし帰ってまうで?」

花束持って来たあの子ならここで、もっと一緒にいたいですとか言っちゃうんだろうか。私が言えるのはお疲れさまなんていう可愛げもないことで、心底自分が嫌になる。

「あぁぁァァああ阿呆ォ!ぼけ!おたんこなす!」
「へ?!」

な、なに?突然真子が頭抱えてしゃがみ込んだ。頭が痛い?具合悪い?この鈍感の何がええねんとか小さい声で言ってる気がするけどうまく聞き取れなくて、わけがわからない。てか私今悪口めっちゃ言われた?!

「俺まだ1番祝われたい奴に祝われてないんやけど」
「なに?その人呼んできたらいいの?」
「……お前ぜッッんぜん、分かってへんな」

眉間にシワを寄せてこちらに向ける鋭い瞳は明らかに苛立ちを含んでいて、分かってないって何を分かればいいの?そんなに強調して全然とか言わなくていいじゃん。なんか傷つく……。

「もォ知らん。誕生日やし、貰いたいもんもらうかんな」
「話がよく分かんな……いッ…」

突然立ち上がったと思ったら、ぐっと腕を引かれて、私が飛び込んだ先は真子の懐だった。

「は、離して、苦しッ…」
「いーやーや!貰いたいもんもらう言うたやろ」

は?……え?理解が追いつかない。酸素を求めて胸を突き返しても背中に回された腕がそれを許さない。……まさかそんなこと。

「1番祝って欲しい奴は、俺のこと放ったらかして十番隊で煎餅食うてた。そんで今俺の懐におる」
「……そ、それって…」
「好きやて言うてんねん!俺にはお前が1番可愛く見えるんや、鈍感でも、阿呆でも!」

真子の言葉一つ一つに胸が高鳴る。

「お、おたんこなすでも…?」
「……ッ、名前はどうやねん」

す、好き……。意を決して自分の気持ちを言った割には消えてしまいそうな声で、それでも恥ずかしくて顔が熱い。

「聞こえへん」
「う、嘘!!聞こえたでしょ?!」
「聞こえへんかった!もっぺん言え」
「うー……大好き!バカ真子」

悔しい。真子は意地悪だ。強引だ。でも、私はずっとずっと真子が大好きで。

「あっ……真子、誕生日おめでとう」
「……遅いわボケ、おおきに」


ほんま遅いねん。朝からどんだけ待ったと……。気ィ引くつもりで他の女構っとったら隊舎からおらんくなっとるし。貰ったもん返されへんからな、覚悟しとけ。

##

「名前、手出し」
「ん、何してるの?」
「マーキングや」

ニヤニヤと意地悪い笑いを浮かべながら私の手首に振りかけられたのは、誕生日にあげたあの香水。同じ匂いがすれば男が寄ってこないだろうって。変なの。真子のほうが女の子いっぱい寄ってくるくせに。