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- ナノ -

幸せとは




「違うよー!!」

「ナナは四六時中その事だろー!!」

「私もその考えには同意しかねます。」

その日、私は昼からの任務だったため、少し遅めにエントランスに出てきたのだが、エレベーターから降りると、聞きなれた声たちが論議を交わしているようだった。

「あ、ユリ!ちょっと聞いてよー!!」

ナナが降りてきた私をめざとく見つけ、声をかけてきた。苦笑いを浮かべながら振り返れば、そこには、ナナにシエル、それにコウタという中々に異色の取り合わせがあった。

『どうしたの?そんな大きな声だして…。』

酷く憤慨している様子のナナを落ち着けながら聞く。

「あのね、コウタ先輩がご飯食べてお腹一杯になるのは幸せじゃ無いって!!」

元々すこし抜けている子だとは思っていたが、ここまでとは…。話の要領が全くつかめない。

「ちょっ、せめてちゃんと説明してよ!!」

「あのですね隊長。今私たちは人生の中で何が一番幸せか、ということについて議論してまして、その中で、ナナはご飯を満腹まで食べること。が、一番幸せだそうです。」

冷静に解説してくれるシエルのお陰で、なんとなくわかってきた。

『あー、それで、コウタ先輩はご飯お腹一杯食べることじゃなくて、なんか別のことだったんだね。』

「そう!そういうこと!!」

コウタ先輩が、ナナの誤解が生まれそうな発言を払拭できたことに安心したようでほっと息をつく。

「俺はやっぱり家族が元気に暮らしてることだとおもうな。母さんとか妹の顔みたら、元気出るし。」

そう言って幸せそうに破顔するコウタ先輩は、本当に家族が好きなんだと思う。

『へぇ〜、…じゃあ、シエルはどうなの?』

隣の無表情な、副隊長をみると、すこし恥ずかしそうにうつむきながら話す。

「わ、私はやっぱり自身の職務を全うして、上官からの評価を貰うことかと…。」

仕事がうまくできたら幸せってことかな?

『シエルは相変わらず真面目だな〜。』

そう言えば、モジモジと指を絡ませるシエル。

「私はやっぱり、ご飯だと思うけどな〜、」

少しむくれた顔で言うナナを諭す。

『人の数だけ、幸せも違うんじゃないかな?』

幸せっていうものは、沢山あって困るものでもないだろうし。

「そうかな…、じゃあユリは何が幸せ?」

訊ねられ、少し考える。なんだろう、考えたことなかったな…。う〜ん…。

『………ご飯…、でもないし。家族も大切だけど……なんか違うような、仕事って訳でもないしな〜…。う〜ん……。』

頭を捻っていると、出撃ゲートの方から声がかかった。

「おーい、ユリー、そろそろ任務時間だぞー。」

ヒラヒラと手を降りながら呼ぶ少し低めの声は、緩く延び、発声者の性格がよく現れている。

『あっ、ハルさん!!ごめんね、これで。』

「おう!頑張ってこいよ!!」

ちゃんとした答えを出していなかったが、仕方ない。後日、答えを用意しておくことにしよう。
三人に頭を下げ、出撃ゲートで待っている人のもとへ急ぐ。

『すみません。少し話し込んでしまって…。』

「んや、そんなに時間、押してる訳じゃねーから大丈夫だ。」

そういって飄々ととらえどころない笑みを浮かべる彼は、真壁ハルオミ。
極東支部第四部隊隊長で、頼れる兄貴分、といった感じの人だ。実は今、私と恋仲にあったりする。
そう言えば、と先程の話題をハルさんに振ってみる。

『ハルさん、人生の中で一番幸せなことってなんだと思いますか?』

神器を整備班から受け取り、調整していたハルさんが、此方に目線を向ける。

「ユリが俺のムーブメントを実行してくれたら、幸せだな。」

ニヤニヤと笑いながらヘリに乗り込むハルさんに、呆れながら私も乗り込む。

『セクハラですよ、ハルさん。』

「でも、俺はお前の彼氏だからな。少々のセクハラは許されてもいいんじゃないか?」

隣に座り、腰に手を回すハルさんの癖の悪い手を払いながらにこやかに笑う。

『確かにハルさんは私の彼氏ですが、その前に一人の上司でもあるんですよ。』

う、と詰まって律儀にも腰から手を離すハルさん。すると、窓の外を眺めながら、ハルさんが考えるような声を漏らす。

「そうだな…、幸せ……な。」

ボーッとヘリの窓から見える青い空をみて、穏やかに笑う。

「……愛しい人が…、隣で笑っていれば…。それだけでずいぶんと幸せだと、俺は思うな。」

そういって優しげな雰囲気を纏いながら、こちらをみるハルさん。

『………そう、ですか…。』

そのセピア色の瞳にとらえられながら、考える。ハルさんが私の隣で笑っている姿。それって、なんだかとても……。

『………私も…、そうなのかも、しれません。』

そう言うと、ハルさんは微笑みながらポンポン、と頭をなでてきた。

「てことは、今、凄い幸せだな?」

イタズラっぽく笑うハルさんは、実際の年よりも幾分か若く見えるようで。

『………そうですね…。幸せです。』

任務前ではあるものの、二人肩が触れ合うくらいに寄り添って、こう言った取り留めもない話が出来る。
とても、とても幸せ何じゃないかと、そう思って、はにかむと、ハルさんはよりいっそう目を細めて、さらに幸せそうに、顔を破顔させたのだった。
あぁ、幸せ、だなぁ。



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