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噂のアレ




※全サイトからの移設になります。文章の稚拙な部分が多く見受けられると思いますが、ご了承ください。








「ふぅ……」

エントランスに入った瞬間、つい安堵の息を洩らしてしまう。今日は特にこれといって疲れたわけではないのだが、やはり戦場でピリピリと張り詰めている空気は、少し疲れる。それに比べたとしても、まだ今日は楽だった方だろう。二人だけで出撃したにしては、疲労感が少ない。

なんてったって今日のパートナーは、第一部隊の隊長さんだ。新人の頃は、いろいろ戦術指南等していたというのに、今は俺では彼女の足元にも及ばないだろう。
そんな優秀なユリだが、第二部隊が人員を要請したときは、必ずと言って良いほど来る。少ない休みを削ってやって来てくれるのだ。俺としては、ありがたいとしか言いようがない。
等と考えていると、ユリに声をかけられた。

「ミッション完了報告に行ってきます。先に戻っていてください。」

「あぁ、解った。今日はありがとう。」

いえ、と答え微笑むユリ。その笑顔に少し胸が高鳴ってしまったのは、誰にも言えない秘密だ。
ユリを見送り、さて俺もそろそろ自室へ戻ろうかと、エレベーターに乗り込んだ時、
「ブレ公!ありがたく飲め!!」と
ドアが閉まる直前、タツミが何かを投げ込んで来た。
閉まるドアすれすれに入り込んできた『ソレ』は、ナイスショットだったが、その何かを識別したときには、むしろ怒鳴りたくなった。
投げられてきた『ソレ』は、見覚えのあるピンク色。そこにギラギラとした目に優しくない配色のペイントで、初恋ジュースと書いてある。
チン、と言う音と共にエレベーターが目的の階層に着いたことを告げる。エレベーターの中でうだうだと考えるわけにもいかない。一先ずエレベーターを降り、直ぐそばのベンチに座る。

「さて、どうしたものか……」

取り合えず、タツミに殴り込みたい所だが、それは後にするとして、………この物資不足の世の中だ、流石に捨てるわけにもいかない。何がありがたく飲め、だ。全くうちの隊長は…。ユリとは大違いだ。
後輩に三馬鹿の一角等と、不名誉なことを言われてもこれは仕方が無いなと、大きなため息をつき、うなだれていると、先ほど自分が乗り込んできたエレベーターが、再び止まった音がした。
ふと顔をあげるとそこには、意中の隊長さんが。隊長さんは、エレベーターから降りると、ベンチに座る俺に気付き、律儀に挨拶をしてくれる。

「あ!ブレンダンさん。先程はどうも……どうか、されましたか?」

心配そうに、ベンチに座ってうなだれている俺を覗き込んでくる。彼女にまで心配されるとは、どこまで絶望的なオーラを出していたんだ、俺は。

「あぁ。大丈夫だ。」

そう微笑んで、心配するなと手を降るが、溜め息は止まらない。そんな俺をいぶかしく思った隊長さんは、俺の手元に視線を移した。

「あの……ブレンダンさん…、そのジュースいただいてもいいですか?」

何かを察したようににっこりと笑って、俺の手の中のジュース缶を指す。

「私、そのジュース大好きなんです。あ、勿論ただでとは言いませんよ?新しいジュース買わせてください。」

隊服のポケットから小銭入れを出す彼女。もしかして、気を使ってくれているのだろうか…?

「いや、これは元々貰ったものだからいいんだが…、本当にいいのか?」

「はい、ほんとに大好きなんです。初恋ジュース。」

なら…と、ピンクの缶を彼女に渡す。
すると、隊長さんは俺の隣に座るとすぐさまプルタブを開け、ごくごくと喉をならして飲み始めた。
……良い飲みっぷりだ…。

「……あ、ちょっと、行儀悪かったですかね…?」

その姿を見つめていると、あはは、と顔を少し赤らめて笑う。そんなところも愛しく思う。

「いや、良い飲みっぷりだ。」

「それ、フォローになってないですよ。」

この様子を見るに彼女は、本当に初恋ジュースを好んで飲むようだ。というかむしろ、まともに飲めている時点で少し驚きだが。隊長なるもの、これぐらいのものは飲み干さなくてはならないということか…。
いや、でもタツミはこれを飲んで丸一日まともに機能しなかったな。そんなことを考えながら、ごくごくと目の前で美味しそうに初恋ジュースを飲んでいる彼女を見ていると、不意に、そのジュースが飲みたくなった。
ユリが缶から口を離したときに、缶をユリの手ごと引き寄せ、口をつける。甘酸っぱく、苦い。以前のんだ時と同じ味だ。でも、不思議と以前のような気持ち悪さはない。

「え、ぶ、ブレンダンさん!?」

顔を真っ赤にして、あたふたとするユリ。そんなに、飲んだのはまずかったか?

「あぁ、すまんな。どうも、こうやって目の前で旨そうに飲まれるとのみたくなった。」

「それは……良いんですけど…、か、か…かん、」

さらに顔を真っ赤にして、口ごもる彼女。

「缶?あぁ、俺の一口で最後だったか。悪いことしたな。」

「い、いえ!元々ブレンダンさんのものですから!あ、えと、私このあと任務が入ってるんで、し、失礼します!!」

視線をあちらこちらと泳がせながらそこまでまくし立てると、ぺこりと頭を下げまるで脱兎のごとく、エレベーターに乗り込んでいった。

「……どうしたんだ?急に…」

そういえば、と口に残るジュースの味を思い出す。
甘酸っぱくて、苦い。以前興味本意で飲んだときは、ただただ不味かったのに、今は、そんなこともない。美味しいとは思えないが、特別不味くもない。
しかし、多分もう一本一人で飲めと言われれば、無理な気がする。彼女が飲んでいたからこそ、ほんの少しだけだが、美味しい……とまではいかないものの、不味くはないように感じたのだろうか。
甘酸っぱくて、苦い。初恋、か……。




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