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あかいかお




夏だな。毎朝会う度に日に焼けていっている幼馴染を見て、私はそう思った。毎日毎日、日照りの中で白いボールを追いかけている奴は、この時期になると見事に真っ黒になる。元々焼け辛いのか肌のターンオーバーが早いのか、普段はそこそこ白いのだが、流石にああも日に晒されていれば、日焼けのひとつもするだろう。

「馬鹿。」

「……う、……反省してるってー……。」

手早く部屋の戸を閉めて、クーラーの温度を確認する。二十八か、少し下げてもいいな。一応緊急事態ではあるわけだし。そう思って、リモコンに手を伸ばそうとすれば、向こうのソファから弱々しい声が上がる。

「下げなくていい……」

「……お前な……」

「だってよぉ……」

ソファまで歩んでいけば、額に乗せてやった濡れタオルで目元まで隠している武が。クーラー嫌いなら、精々体調管理をしっかりしろっての。

八月も半ばを目前にして、日中ともなれば外出することを躊躇うほどの気温だ。茹だるような暑さ、とはまさにこの事で。うちの店先の花も、しっかり手入れをしているのに少しだれてきてしまう。
そんな気候の中で、こいつはまぁいつもの様に、日を遮るものが何も無いグラウンドで走り回っていたようで。そして、これもまたいつもの様に自主練までしっかり終わらせて、商店街まで帰ってきたところで配達帰りの私と出くわした、と。顔を合わせて初めに感じた違和感は顔の赤み、そして返ってくる声の覇気のなさ。頬に手を伸ばせば、驚く程に火照っていて、問答無用で我が家に突っ込んだのがつい先程のことだ。

こいつは本当に、心臓に悪い。
ひとつため息を大きくついて、部屋の端でサーキュレーター代わりに置いていた扇風機を引っ張ってくる。

「……悪ぃ……」

「そう思うならちゃんと自己管理しろ。」

扇風機の風を緩く当てるようにしてから、新しいタオルを水に濡らしてやる。顔を真っ赤にして、珍しく息を荒らげていたお前を見て、こちとら逆に胸が冷たくなったぞ。

「氷枕は……まだ大丈夫そうだな。保冷剤変えるぞ。」

「んー……ありがと……」

首や脇の下に入れていた保冷剤を抜き取って新しいものに変えてやる。つめたい、と、ぼやき声を漏らす幼馴染の額を軽く叩く。まぁ、文句を言うようになっただけ、まだ回復してきたという事だ。

「来週試合だろ。あんま無理すんな。」

「んー……」

珍しくしおらしい武の額に手を当てながら、一つ息を吐く。軽い熱中症と言った所か。このまま涼しいところで休んでいれば、良くなるだろう。大事にならなくてよかった。

「桜……ごめん。」

すると突然、眼下の幼馴染から謝罪の言葉が漏れる。濡れタオルから覗く目は、どこか気まずそうで。こいつにしては珍しい。

「どうした。急に。」

「いや、なんか……心配かけたなー、とおもって……」

歯切れ悪くポツポツと答える武は、いつもの快活とした表情からは想像もつかないほど沈んでいた。あぁ、まさか。

「確かに、すげぇ心配はしたけど、いつもの事だろ。お前はいっつも無鉄砲で考え無しのアホだ。」

「う……ごめん。」

ペシと、軽く濡れタオルの上から額を叩く。少しづつ冷えてきたな。さっきよりは随分とマシになった。
人は身体が弱ると、同時に心まで弱くなってしまうものだ。特に、この馬鹿はそれが顕著なようで。風邪をひいたりしようものなら直ぐに弱気になる。怪我なんかもそうだな。

「……でもま、私は、そんなお前に世話焼くところまでを楽しんでるんだ。」

みんなの前では太陽のように笑うこいつが、私の前だけでは弱った姿を見せてくれる。それが、私の存在意義だと思う。お前が羽を休められる、唯一に。お前を元気づけられる唯一に。

ほとんど何も考えてなかった。強いて言うならこいつのこの落ち込んだ気持ちを少しは上げてやろうとか、そんなことを考えていたんだが。
私は少しぬるくなった額のタオルを取り上げて、ゆっくりと顔を近付ける。武は、急に明るく光が指した視界に、瞬きを繰り返していた。睫毛、長いな。そんなことを考えながら、ゆっくりと、その鼻梁に口付けを落とした。
ふむ、やっぱり少し冷えてきてるとは言え、まだ少し熱いか。濡れタオルはもう一度作ってきてやった方が良さそうだな。

「なっ……」

ぼんやりとそんなことを考えていた所で、目の前の幼馴染は収まりかけていた顔の熱が、また上がったかのように真っ赤になって震えていた。
暫くそんな顔を楽しんでいれば、武は潔くそっぽを向いて、小さな声を漏らす。

「今そういうのずりぃ……」

両手で顔を覆う幼馴染が、ついつい愛おしく思えてしまって。いつもこんなことをされるのは私の方だから、なんだか新鮮な気分だ。

「今日は存分に甘やかしてやろうか?」

立ち上がりざま、漏れる笑いを抑えることも無くそう尋ねてやれば、武は恨みがましそうな視線を向けてきた。

「……いい。いつまで経っても熱いの収まんなくなる。」

そういう奴の顔は耳まで赤くて、いつもはそんな初心でもないくせに。こういう時ばかりは体調不良様様だな。


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