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手首へのキス



2019/05/23『キスの日』SS
創作主的描写あり。

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彼女は随分と薄幸だ。そして慎ましい。僕からすれば考えられないくらいに。それは偏に彼女自身の性格なのか、それとも、ただただ無意識のうちに我慢してしまっているだけなのか。

「我慢しすぎじゃない。」

ポツリと、そう呟けば彼女は書きかけの書類から頭を上げ、僕の方を見つめた。あんなに綺麗な緋色なのに。

「なにが?」

「……色々と」

彼女は普段からこの調子で。寝ても起きても稽古か勉強か、はたまた学校での仕事か。僕だって人の事を言えたものじゃないかもしれないけど、それにしたって、彼女は働き過ぎだ。

「これでも、前よりは大分我儘言ってるよ?」

「圧倒的に足りないね。」

握りしめたままのどうでもいい書類を抜き取って机へと置く。彼女は追いかけるようにその書類へと視線を送るが、手を取ってそれを阻止する。君は僕だけを見てればいい。

「君はもっと僕に対して我儘になってもいい。」

「もう充分ッ……」

なにか反論を述べようとしていたその口は、突然の僕の行動にあっけなくそれを閉じた。素直な反応だ。普段ももっとそれくらいでいいのに。チロりと名残惜しく彼女の手首に舌を這わせれば、流石に振り払われて、真っ赤になってわなないている彼女。

「な、なに、急に。」

「我儘。」

「は?」

我儘ってのはこういうこと。理不尽で理解不能で、自分の欲望を満たすためだけの行為。君のは我儘にも入らない。そんなのはただの気まぐれ。

「言ってみなよ、何がしたい?僕と。」




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