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あぁ、好きだ。



あぁ、好きだ。どうしようもなく好きだ。
私はあの幼馴染のことが、何にも変えがたく好きなのだ。いつも何とはなくあしらってしまうけれど、ふとした時にその気持ちが首をもたげる。分かってはいるのだ。私が仕舞うと決めたこの気持ちを、武にこじ開けられ、暴かれ、そしてあいつの真っ直ぐな好意を受けて、それを受け入れて生きていくことを決めた。
あいつも、私と生きていく覚悟を決めていた。ならば私だって、自分がいくら頑固で面倒くさい人間だとしても、こういう日くらいは素直になってやってもいいんじゃないだろうかと思う。

「どうしたもんか…………」

とある平日の夕方。私は店先のバケツにつけた花々を前に、小さなため息をついた。
察しの良い皆さんならおわかりになると思うが、今日は私の幼馴染の誕生日。そのためいつにも増して女子達に囲まれていた奴を後目に、部活もなかった私は早々と帰宅して、父の店を手伝っているわけなんだが。
別に、武が女の子に囲まれていることに特段なにか思うこともない。一応恋人であるのに淡白だと思われるかもしれないが、生まれた時から隣にいて、学校中の人気者であった彼を見ていたのだ。その関係性が少し変わったところで、今更ながら可愛らしくすねるような自分が想像出来ないし、頼まれたってやらない。

そうではなくて、私が今気落ちしている理由というのは、そういうことではないのだ。前述したように、私と武は恋人である。少し前の私なら信じられないことであるが。まぁ、何はともあれ正真正銘の恋人なのだ。
恋人というものは、お互いを大切に思い合い、時には愛の言葉なんかを囁きあったりして、その気持ちを確認するものなのだろう。普通は。
武の方はどちらかというとその普通に分類されて、彼はこの関係になってから、よく私に好意を伝えてくれる。示してくれる。それは私にとって勿論嬉しいことであるし、私の心を温めてくれるものだ。
だが……、私はどうにも意固地なのだ。武からの純粋な好意を返せない。いつもいつも、突っぱねた可愛げのない反応をしてしまう。全く可愛くない女だと自分でも思う。それが簡単に直らないから今こうして困っているのだ。
勿論私は武のことを心から大切に思っているし、一生をかけて守り、そして愛していきたいと思っている。一人の人間として。一人の女として。
そう、そう伝えてしまえれば、きっと楽になれるのだろうけど。どこか意地を張る自分が邪魔をする。なんだか照れくさいのだ。
だからこそ、今日という記念日に肖って、武に自分の想いの少しでも伝えられればと思うのだが、伝えたい言葉を考えれば考えるほど、どう話したらいいのか分からなくなってきてしまう。そろそろ奴の部活も終わり、帰ってくる頃だろうに。
纏まらない思考に、迫る時間。焦る気持ちにまた私は一つ、ため息をついた。どうにかしないとな。




商店街の夜は静かなものだ。みんな明日への仕込みや準備で早々と寝静まってしまう。活気を失った商店街は、少し物寂しい感じもする。
ぼんやりと、薄暗い商店街を眺めていれば、向こうから見慣れた人影が走ってくる。
私は背中に隠したそれを握り直して、影がこちらへ来るのを待った。

「よっす、桜。」

目の前で立ち止まった幼なじみは、風呂上がりなのか少し髪が湿っている。そろそろ夜でも暖かくなってはきたから、風邪はひかないだろうけど、体温を下げるのはスポーツマンには宜しくない。要件をさっさと済ますとしよう。
 
「悪いな夜に呼び出して。」

「んーん。俺も桜に会いたかった。」

……ほんとにこいつは。こっちが精一杯やろうとしてることを意図も簡単にやってしまうのだから。腹の立つ。

「ほら。今日どうせ何回も言われたんだろうけど。誕生日おめでとう。」

可愛げのない私は飲み込んで、背中に隠していた一つの花束を渡す。こじんまりとしたそれは、赤いアネモネの花束。今日夕方、悩みに悩んで包んだ花束だ。
目の前の幼馴染は、少し驚いたような顔をして、すぐくしゃりと笑った。あぁ、私はこの笑顔が一等好きなんだ。雨上がりの太陽のような、自分が今まで悩んでいたことが全てどうでも良くなってしまうような。こいつの笑顔が。

「ありがと、桜。すげぇ嬉しい。」

溶けてなくなってしまうんじゃないかと心配になるくらいに顔を破顔させて、花束を大事そうに抱え込む武。そんな姿すら、どうにも愛おしくて。やっぱり私はこいつのことが好きなようだ。どうしようもないほどに。この花を贈って正解だった。

「な、桜。」

「なんだよ。」

「この花の花言葉ってなんなんだ?」

武は手の中の赤い花たちを眺めながら、無邪気にも首を傾げる。お前、普段そんなこと気にすらしないくせに、どうしてこんな時に限って。

「桜前に言ってただろ?花には全部花言葉があって、贈り物の時にはそれの意味なんかも考えて贈るんだって。」

くっそ、私の入れ知恵か。過去の私よ余計なことをしてくれた。おかげで今現在自分の首が絞まっている。
でも、決めただろう今日は素直になると。

「桜ー?」

「………………『君を愛す』。」

「え?」

あぁ、顔が燃えそうだ。熱い。

「赤いアネモネの花言葉は、『君を愛す』。」

少しの静寂が、その場に流れた。少しの後、いてもたってもいられなくなった私は、武の顔を伺おうと目線をもたげるが、その瞬間、なにか温かいものに包まれた。

「武、……花つぶすなよ。」

「わかってる。絶対潰さない。」

こいつこんなに大きかったっけ。まるで包み込まれるとでも言えるほどに、抱きしめられている。ゆっくりとその広くなった背中に手を回せば、また抱きしめる力が強くなった気がした。鼓動が聞こえる。やけに大きく響く、武の鼓動が。

「な、桜。」

「なんだ。」

「俺、自惚れてもいいのか?」

その声は、どこか少し震えているようで。そして私を抱き締める手も、まるで縋るようにその力を少し強めた。いつもは自信満々のくせして、こういう時に限って臆病なんだな、お前は。そんな所もどこか可愛くて、愛おしくて、私は武の肩に額を埋めた。

「……好きだよ。お前のこと。どうしよもないくらいな。」

今日くらいは素直な私でいてやるさ。おめでとう、武。


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診断メーカー『こんな書き出し文はいかがでしょう』https://shindanmaker.com/728045より
「あぁ、好きだ。どうしようもなく、好きだ。」
 



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