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もう十分も待った



casa、管理人コマコ様よりいただきました。

待てない5題より、『もう十分も待った』です。

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「おーい、桜ー。」

俺は後ろから愛しい彼女に抱きついた。
彼女…桜は手元の書類から目も上げずに冷徹な言葉を浴びせてくる。

「今仕事中。ちょっと待って。」

もうこのやり取りをこの五分の間に十回ほど繰り返している。改めて考えると俺も懲りないなー。でも当たり前な気もする。
元々ここ一週間ほど俺も彼女も忙しく、中々会う事が出来なかった。にも関わらず、久々の対面だというのに、彼女の視線はずっと手元の書類に落とされたままで、一度もこちらに向いていない。
彼氏に対するこの反応、一体何なんだろう。
彼女のその手の中にある、たかが紙切れ(こんなこと口にしたらマジで桜に殴られそうだけど)にすら嫉妬の念を感じる。
当の彼女は、俺のそんな焼け焦げるような気持ちには気づいてないのか、こちらに背を向け、ツナに頼まれたと言う書類を整理している。
その背中だって久々で、肩甲骨のラインや肩幅の厚みが堪らなく愛しい。
先程振り払われたというのに、つい、またその背中に抱き付いてしまう。

「……武。ちょっと待ってっ…んッ!?」

いい加減にしろとでも言いたげに眉間にシワを寄せ、本日何回目か俺を振り払おうとした彼女の顎を、抱きついたまま後ろから捉え、唇を合わせる。
突然のことに呆けたのか、いつもキスする時は俺が言うまで頑なに閉じられた口が、今は少し開いている。その細く開かれた口から舌を侵入させ、桜の舌と絡める。
あ、やっと、俺のこと見た。
今日初めて俺のことを映したその瞳は、直ぐに恥ずかしげに閉じられてしまったけど、それでも充分だ。俺は、彼女の目が好きだ。はつらつと輝いた目も、悲しみに沈んだ目も。こういう時の情欲に染まった潤んだ瞳も、艶っぽくて大好きだ。
反射なのか、俺の腕を縋るようにギュッと握りしめるその様子もまたかわいくて、つい深く深く口付けてしまう。

「ん…ふ、…ぅん…。」

堪らず洩らす声も、狂おしいぐらいに愛しい。
好きだ、大好きだ。絡めた舌でそのまま歯列をなぞってやれば、彼女はまた一層甲高い声を漏らした。

「…た、武…。待ってって…」

ハァッと、熱い息を吐き出して、整わない呼吸のまま俺を睨んでくる桜。
桜、その行為はむしろ俺を煽ってしかないっていい加減気づいた方がいいと思うぜ。好きな女に濡れた瞳で(睨んでいるとはいえ)上目遣いで見つめられれば、どんな男だって理性が吹き飛ぶと思う。

「もう、十分も待った。我慢できねぇ。」

そんな彼女と話している時間も勿体なく、また深く口付ける。
桜は、抵抗のつもりで暴れるが、先程のキスで力が入らないのか、何時もより弱々しくて、抑えこむのは容易だ。勿論積極的な桜も好きだが、微かな力で抵抗してくるというのも、なかなか嗜虐心が煽られていいと思う。手篭めにしてる感がいい。
後ろから抱きついていたのをくるりと回し、正面から桜の腰に手を這わす。顎を捉えていた手で後頭部も固定して、逃げられないようにする。
とうとう桜も諦めたのか、抵抗をやめ、俺のシャツを両手で掴む。

「…たけ、し………」

それでもまだ掻い付くように震えるその声に、唇を離し桜の様子を見る。
やっと開放されたとばかりに俺の肩に額を預ける桜の耳は真っ赤で、肩で息をしている。
その赤く染まった耳がすごく甘そうに見えたものだから、つい舌を伸ばす。
舌がその赤い耳をとらえた瞬間、小さな悲鳴をあげてビクンと、彼女の体が跳ねた。うん、やっぱり甘い。

「武………やめ、」

「可愛い………桜…。」

少し焦ったように顔をあげた額に口付ける。あぁ、愛しい。その蕩けた顔は、俺だけのもの。他の誰にだって、あげる気どころか見せる気もない。

「…なー、桜ー。俺、おあずけって苦手なんだよなー。」

また軽くキスをあらゆる所に落としていく。
彼女の潤んだ大きな瞳に映る俺は、自分でも怖いくらいに飢えた顔をしていて。まるで獣みたいだ、なんて、そんで今から俺に食われようとしてる桜は小さな小さな兎みたいで。あ、なんかそう言う想像するだけで興奮してきたかも。

「…ふっ…ん、…」

頬を赤く染め、涙をにじませる瞳。
俺の理性は崩壊寸前だ。

「もう十分も待ったし、いいよな…桜…?」

唇を離し、彼女の背中にいやらしく手を這わせながら、ニヤリと笑って尋ねると、桜は、ビクッと怯えたようにこちらを見る。なんかほんとに兎みたいだな桜。

「…や、ほんと、これが終わるまで…待って…、…」

回りに散らばる書類を気にしながら、最後の抵抗とばかりに桜は俺の肩をぐっと押した。桜もなかなか懲りないなー。ここまでされて、まだ仕事のことを頭に残せるのか。だけどまぁ、それもここでおしまい。桜の最後の抵抗も、悠々と抑え込んでまた彼女の唇を塞ぐ。そして、桜の細い身体を書類の上に押し倒した。

もう十分も待ったし、いいよな?
俺、待つの嫌いなんだよな。


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