人は生まれてくる前に、神様から寿命を伝えられ、それでもいいとその寿命に決意したものだけが、この世に生を授かるらしい。
なら俺は、この終わりなき寿命に決意してこの世に生まれてきたのだろうか。
かの有名な八百比丘尼も、800年生きたが、終いには絶食することで命を絶ったという。
それ如きで命が絶てるのなら、俺はもう随分と前に死んでいたことだろう。
死ねない。傍から見ればそれは随分と羨望の対象である事のように思えるが、現実は随分と違うものだ。
腕を落とされようが、頭が吹っ飛ぼうが、腹を貫かれようが、死なない。
風邪をひくこともなければ、八百比丘尼のように断食して死ぬこともない。
死なないのではなく、死ねないのだ。
ヒーローなんてものを始めたのも、危険な仕事の多いヒーローの事だ、もしかしたら、俺の死に場所が見つけられるかもしれない、という一抹の可能性に期待したからだった。
死ねないというのは随分と恐ろしいことだと思う。人、いや、万物に共通に与えられるはずの『終わり』が無いのだから。
生き物は最後には死に、形あるものはいつか壊れる。
親しい人、愛しい人、全ての人の終わりを俺は見届けなくてはならない事だろう。
そして『終わり』のない俺は、愛しい人のいなくなった世界でも、こうして命を紡いでいかなくてはならない。
そんなもの、辛すぎる。
彼女に出会う以前は、よく、どうやったら死ねるかなんて事を考えていた。
彼女に出会って、そんな事を考えることは辞めたんだが、これから先、彼女に『終わり』が訪れた時。彼女のいなくなる日々を思うと、如何せん、以前のように死ぬ方法を考えてしまう。
以前は『終わり』の来ない自分自身に決別するため。
今度は、彼女の元へ行くために。
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