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4/14 先輩の好きな食べ物がわかった






「今日の晩飯、何が良いですか?」

とある休みの日の朝ごはんの最中に、桜からなんとはなく放たれた言葉。多分敬語ってことは、俺じゃなくて先輩に向けられてるんだろうと思う。まぁでも、いつも俺と先輩に向けて尋ねてきたら、先輩が答える前に俺が自分の希望言っちゃうもんなぁ。だって桜のご飯美味しいし、好きなもん言いたくなるよなぁ。だから桜、今は俺じゃなくて先輩だけに聞いてるんだろうけど。

俺が桜の意図を汲み取って、静かに味噌汁を啜っていると、先輩はそんな俺の方を不思議そうにしばらく見つめたあと、首をかしげた。

「ん?俺に聞いとるのか?」

「先輩以外に誰に聞くんですか。」

桜が呆れたように少し笑えば、俺も味噌汁を飲み込んでコクリと頷く。

「いっつも俺が好きなの言ってるんで、今日は先輩の日ッス。」

「そういう訳です。何が良いですか?」

そうして俺たち二人からの視線を受けた先輩は、少し困ったように目を泳がせる。

「とは言っても、貫薙の飯は美味いからな……、メニューはなんでも構わないが……。」

先輩はそう言って美味しそうに茄子の浅漬けを口に運んだ。先輩、箸使いキレーだよな。美味そうに食べるし。飯の作りがいありそう。今度俺もなんか作りたいなーって、そうじゃなくて。

「先輩、それ駄目ッスよ。」

「ん?なにがだ?」

突然の俺からのダメ出しに、先輩は少し驚いたようにこちらを見る。

「桜がこうやって献立のリクエスト聞いてくるってことは、決めあぐねてるってことなんスよ。だから、『なんでもいい』は、困っちゃいますよ。」

俺だってそうなんだけど、リクエスト聞く時って言うのは、基本的にいつも何にしようか思いついてない時だ。他の家はどうだか知んないけど。だから、その返答が『なんでもいい』って言うのは、作る側としてはちょっと困る。毎日毎日、毎食毎食、メニューを考えるって言うのは、結構大変なことなんだ。皆、ちゃんと毎日ご飯作ってくれる人に感謝しろよ。

「なるほど……そうだったのか。」

先輩は、俺からの言葉に真剣に耳を傾けたあと、興味深そうに深く頷いた。先輩のこういうとこ、俺結構好きだなぁ。年下だろうが後輩だろうが、ちゃんと人の意見しっかり聞いて頷く所。
そんな様子を見て、桜は少し苦笑いを浮かべながら食べ終えた皿を下げ始めた。あ、手伝わねーと。基本的に、こういう休みの日とか時間のある日の片付けは三人で分担してやってる。俺が皿洗って、先輩がそれを拭いて棚に直して、そうしてる間に桜が食後のお茶を入れてる。

「リクエスト…………か……。」

先輩もそのいつものルーティーンに移るべく、自分の皿をシンクへと運びながらも、眉根にシワを寄せて、先ほどの桜の問いを考え込んでいる。すごい真剣に考えるなー。その先輩から皿を受け取りながら、水を流し始める。

「なんでもいいんすよ?なんとなく今食べたいなーとか、それこそ、先輩の好きな食べ物とか…………。」

思ったよりも真面目に考え込む先輩に、笑いながら助言をしようとしたところで。あ、そういえば……

「そういえば……笹川先輩の好きな食べ物ってなんですか?」

隣でコンロにやかんをセットしてる桜も、同じことを思ったらしい。俺が今心の中で思ったことがそのまま、隣から放たれた。

「そういや、俺も知らないかも。」

俺の左隣で俺が洗い終わった皿を拭いてる先輩の方へ視線を向ければ、先輩は盲点だったというように目を少し丸くして、ぼんやりと虚空を見つめる。

「好きな食べ物……」

少しの静寂。みんな各々の作業をして、先輩の陶器のこすれる音と、俺の水音、そんで桜のやかんの水が茹だる音。俺、この時間好きだなぁ。なんか、なんて言っていいかわかんないけど、良い時間だ。

なんて思っていたら、先輩が答えを見つけたみたいで、隣から探るようにポツリポツリと言葉が聞こえる。

「肉料理はなんでも好きだな。特に好きなメニュー、と言われると……」

そこで先輩は、また迷うように口を閉じた。でもこれは多分、答えを探してるとかそう言うのじゃなくて、ただ単純に言うのをためらってる感じ。なんでだろう。好きな食べ物くらい、言っちゃえばいいのに。あ、俺はちなみに大トロな。

突然の沈黙に、桜と二人揃って隣を見つめれば、先輩はその視線に気づいて、照れたように笑った。

「唐揚げ、だな。」

少し恥ずかしそうにはにかんでいう先輩が、なんかちょっと可愛いなーなんて思ったのは、黙っといた方がいいかも。年上の男の人、しかも先輩に可愛いとか、失礼な気する。女の子じゃないんだから。

「あー、いいっすね唐揚げ。俺も好きっす!」

なんだか少しだけ釈然としなかった心持ちはどこかへ押しやって、目の前の皿に意識を移しながら、先輩へ返答する。
唐揚げかぁ、最近食べてなかったかも。

「じゃあ、今晩は唐揚げにしますか。」

桜がなんだかちょっと微笑ましそうな雰囲気を漂わせながら言う。そろそろお湯が沸いたのか、コンロの火を止めた音がした。

「おー。」

俺今日予定ないし、桜の買い出しついて行こっと。





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