男の手、というのはゴツゴツとしていて不器用だ。指先は嫌味なほどに器用に動くくせに、広くて暖かい掌は笑ってしまうほど繊細で不器用だ。柔らかいものを触るのも臆病で、撫でる行為に近いものがある。何もかも、触れたら壊れるとでも言いたげに優しく、下手をしたら空間のみをなぞるようにそっと。


同じ屋根の下に住まう少女を撫でる時、男は必ず少しだけ躊躇する。一瞬、手が頭の少し上で停止して触れてもよいものなのかを無意識的に確認して。冗談の上で叩くときも、嬉しさを隠すためにやや乱暴に撫で付けるときも、男の腕は少しの躊躇いを忘れない。
少女は、チャイナ娘はそれをわかっていて。それでも、何も言わずにただ触れられるのを待っている。女というものは幾つであっても鋭い勘を持っているらしい。小突かれても髪型が変わるくらいぐしゃぐしゃにされても、嬉しそうに笑うものだから、恐れ多くて寛大だ。

少年は少しだけ、男に触られた後に眉を潜めている。少しだけ、ほんの一瞬、誰も気がつかない程に刹那に。男の躊躇いを、この少年たるメガネもわかっていて、それに何も出来ずに口にすることにも躊躇ってしまう自分が情けないとばかりに寄せられる眉。思春期で心の優しいこの少年は考えてしまうのだろう。色々なことを、男についてたくさんのことを。そうして考えて、答えなど出なくて、いつしか躊躇いを捨てて無遠慮に触れてくれるのを待っているのだ。自分たちは決して壊れないのだと、傍に寄り添いながら。

夜中の、行為が終わり空気がひんやりと冷めていく中で思うのは、自分の傲慢さと男の掌の優しさだ。同じ男である自分を壊れる心配をするのも忘れて夢中で求めた後に男に訪れるのは後悔のような感情なのだ。滅茶苦茶に抱いた後、指一本さえまともに動かない俺を見て正気に戻る。行為の処理を甲斐甲斐しく行う男の手は、荒々しく触れたそれと違い、チャイナやメガネに向ける優しさが含まれていた。
不器用なのだ。坂田銀時という男は。
優しくしたい、優しくしたい。暖められたタオルで体を拭う端々から漏れる思い。数時間前に戸惑いのない、本能に犯された乱暴な手付きをしていた男と同じ手とは思えない優しさ。この瞬間がとても好きだ。獰猛な獣が捕食だけを目的として力の限り押さえつけてくるような手口も好ましい。貪欲に求められていることに嬉しさを感じるから。
それから、欲を粗方吐き出して正気に返った男も同じくらい好きだ。薄い煎餅蒲団の上、荒い呼吸を繰り返す俺に対してバツの悪そうな顔をする。癖である後頭部をバリバリと掻いた後に、躊躇いがちに先程までかたが付くのではないかと思われるくらいに握っていた手のひらに触れる。ピクリと反応を返してやれば、やはりバツが悪そうにそっぽを向いた後、ゆっくりと体全体に手を這わすのだ。その感触を楽しみながら、俺は目をゆっくりと閉じて寝た振りをする。

男の掌は優しい。
かつて戦場を駆け巡り、血まみれになりながらも刀を手放しはしなかった。白夜叉なのだと自分の正体を明かした男の心は強い。それでいて、おかしなところで脆い。
壊れはしないのだと何度告げても、男はチャイナやメガネに触れる手を、一度止めることをやめはしないだろう。自分に対して、欲を感じた時にだけしか躊躇わない掌は酷く後ろめたい感触がして。それでいてとても好ましかった。




13.11.24
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掌って暖かい















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