愛は儚い。
一体どこのポエマーだと、俺を少しでも知ってる人間だったらこう言うだろう。自慢じゃないが、自分はこんなことを言うキャラではないということは自覚済みである。そしてそんなことを言った奴を馬鹿にして、片っ端から鼻で笑ってやるくらい性格がねじ曲がっているということも自覚済みだ。

それでも。
銀時は窓から外を見る。梅雨が開けない今の時期には珍しくもない。さらさらと小粒の雨がここ二三日、続いていた。雨は少し苦手だ。雨上がりの空には虹がかかるし、雨が降らないとうまい米だって出来ない。そんな当たり前のことは分かっているつもりだけれど。それでも、一定の早さでシトシトと零れるものは見ていて気持ちのよいものではない。雨は総てを洗い流すとよく言うが、なら俺のこのモヤモヤも洗い流してくれたらいいのに。なんてまた、馬鹿なことを考え望む。一体今日で何度目だろうか。ピチャッ、とガラスに雨粒がかかり音をたてた。隣には珍しくまだ寝ている土方がいる。布団に包まるその姿が愛おしかった。

例えば、例えばの他愛のない話だが、土方はどれほどまでに俺を好いていてくれているのだろうか。聞いたって照れてどうせ答えやしないだろうが。例えば、愛を計るバロメータなんてものがあったとして。0から100まであったとして、計ってみたら一体いくらと数値は出るのだろうか。

例えば、例えばの話だけれど俺が歳をとってこの男も歳をとって二人。その時になってもこうやって一緒にいることは可能性としてどのくらいあるのか。歳を老いても俺はこの男を好きでいるのだろうか。歳を老いてもこの男は俺を好きでいてくれるのだろうか。ベッドでこうやってまどろむ穏やかな日々はあるのだろうか。

例えば、あと数年したら俺はどうなるのか。今は慕ってくれている神楽や新八は果たしてどうなるのだろうか。三人一緒にやっている万事屋はもうなくなってしまうのか。あいつらにだってそれぞれの人生があって、だから。いつか離れてしまうのではないか。それに俺は素直に喜べるのだろうか、あいつらの門出というものに。

きっと無理だ。

雨が、しとしと降るように不安が一気に心を巡る。
みんなみんな、形があればいいのに。いびつだろうがなんだろうが、形があって目に見えてわかりやすい形が。もしあったなら、それが欠けてしまっても壊れてしまっても俺が何度だって直してやれるのに。形だって変わってしまうかもしれないけれど、でもそれならまた何度でも作り直すから。愛でもなんでもまた、こめて注いでやるから。

人の気持ちなんて変わってしまうものだ。いつもずっと一緒にいた、幼なじみなんて可愛いものでもない腐れ縁の男の気持ちだって今じゃもうわからなくて。でもそれがもし目に見えた形があったなら。もしそうなら俺達は今きっと――――


「んっ……」


溢れてしまいそうな感情が、思考が、目の前で調度起きた男の声で止まった。見つめすぎたのだろうか、寝起きのまだぼんやりとした顔付きでこちらを見た。相変わらず、寝起きの姿はすこぶる可愛い。


「何、泣きそうな顔してんだよ…」


少しかすれた起きぬけ特有の声で、小さく笑いながら俺に手を伸ばした。そして、キスをしてくれた。

(なんだよ、そんなに泣きそうな顔してたのかよ俺は。)
(なぁ、何笑ってんだよ)
(なぁ、土方)
(土方、土方、土方)


「もっかい寝んぞ」


ふわり、大きなあくびを一つして口に当てた手を俺の後頭部へ回す。そのまま引き寄せられて頭は土方の胸におさまった。トントンとあやすように襟足を数度撫で頭を掻き回された。


「大丈夫だから…」


最後にそうだけ言って、頭にあてられていた手はパタリと地面に落ちた。再び眠ったのだろう。雨音はいつの間にか聞こえなくなっていた。



12.09.01
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あぁ、俺は怖いんだ。
失うことが。



















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