恋連鎖 | ナノ

それからも互角な戦いが繰り広げられていた。


やっぱりあたしの体力は限界近いらしい。動きが少し鈍くなっている。ドリブルをついていても、すぐに追いつかれて結局さっちゃんさんや他の皆にパスを渡してゴールを決めてもらった。
疲れた。そう思った時、さっちゃんさんはタイムを出した。


「予想どおりね」

あたしが水を飲んでいると、まだまだいけるという態度のさっちゃんさんは一言呟く。ごめんなさい、と謝りたい。あんなに偉そうにして…こんな様じゃあ駄目だよ。
でもだからって交代もできない。あたしは結局足をひっぱるしかないのだろうか。せめて、せめてもう少しだけ動きを抑えられるんなら良いんだけど…。

「…疲れてるんでしょう?」

「……」

「次からディフェンスはゾーンディフェンスでいくわよ。それならいいんじゃない?」
「え!!」

「いい?お妙さんはココ、貴女はこっちで貴女はそっち、あたしはここでいくわ。…で、結はここをお願い」

全てをしきってくれるさっちゃんさんを見て、また不甲斐なく思った。
彼女に任せきりな自分が恥ずかしい。…感謝しなくちゃ。

「ありがとうさっちゃんさん。…じゃあそれでやっていこう。何がなんでも抑える!妙ちゃんは無理しなくていいからね」

「ううん、私ももう平気よ。全力でいきましょう!」

時間になる前に、あたしは応援席の方に少し目を向けた。
3Zの皆はタイムだというのにお構いなく応援を続けている。…嬉しい、ただ単純に。だからあたしは、それに応えなくちゃ。

「残り半分。頑張ろう」

まるで疲れが吹き飛んだみたいだった。みんなの応援に応えるんだって、誰かのために勝ちに行くためなら疲れなんて感じなくなった。


ゾーンディフェンスとは、自分の決められた陣地でディフェンスを行う事である。
それを始めてからは、今まで障害にもなってた味方からの邪魔が無くなってスムーズにやりたいようにできる。部活の方でならった知識を思い出してあたったら、なんかボールが取れた。
それが嬉しくてただ走る。でもスリーポイントラインの中で3Dの人たちが待ちかまえているから、あたしは前に進む事が出来ない。


…こうなったら一か八か。苦手なんだけど、ここからシュートを打とう。

運よく入れば逆転にもなる。
深呼吸をした。目線をただゴールに向けて、ボールを離す。

「……きた…!」


シュッと、網にだけ触れてボールはゴールへ入った。



「逆転や!流石結ちゃんっ」

「いや、…えへへ」

「気を抜かないで。勝負はこっからなのよ」

本当はあたしがキャプテンなんだけど、さっちゃんはあたし以上にキャプテンらしく皆をしきる。
いっつもMっ気たっぷりな彼女だけど、こうして見るとカッコいいなぁ。少しだけ見とれて、その後はまた走った。


あと、1分…!




***






「じゃあ素直に白状してくれるんだよな?新谷くーん」

「先生、何かエロいです」

「何言ってんだ新八。普通エロいっつーのはだな、結ちゃんみたいな女の子に使うんだぜ」

「知りませんよ!!」

「って事で本題に戻ろうか新谷君」

なんか悪い事考えてそうな弁護士みたいだよ銀ちゃん。

胸の内でそう考えて、一人その二人の様子を眺めるあたし。…試合は終わり、なんと1ポイント差で勝ったあたし達は、今現在進行形で3Dの皆を正座させて見下ろしている。
新谷君は理由が言いにくそうで、ずっと目を泳がせたまま。
途中あたしと目が合うと照れたように逸らした。何故??


「…分かった。是が非でも答えねェつもりだな」

銀ちゃんが新谷君から少し離れる。すると「おい」と首で新谷君の方を指すと、次に総悟とさっちゃんさんが出てきて何やら縄をピンッと張って待ちかまえていた。


「結、目瞑って」

「え?わわっ」

突然銀ちゃんに視界を塞がられる。何が始まるのかと思っていたら、次の瞬間新谷君らしき人物の断末魔が聞こえた。…と、同時に鞭を打つような音。まさか、まさかあのSMコンビ……!


「銀ちゃん、こ、怖い…」

「じゃあ目―つむってろよ、耳ふさいでやっから」

「っておい銀八、何普通にベタベタ触ってんだ。結から手ェ離せ」
「え、ちょ、高す…」

ギュッと目をつむっているから周りで何が起きているのか全く分かんなかったけれど、次の瞬間、さっきとは違う手の感触で耳を包まれて音が小さくなった。

高杉先生か。銀ちゃん、どうなったんだろ……。


しばらくしたら耳から手が離れた。ビックリして目を開けたら、新谷君が傷だらけで虫の息で目の前でくたばりかけている。
何があった!
視線をもう少し上げれば、何やら満足そうなSMコンビが目に入った。…あぁ、想像もしたくない。


「分かった、全部…話してやらァ」

「“話してやる”?そんなん当たり前だろィ、何自分中心で言ってるんでィ」

す、すみません!!!どうか、話させて下さい…」


すっかり二人に調教(?)されてしまった新谷君は、土下座をしてそうわめいた。
可哀想にみえてきた。総悟、そろそろ止めてあげようよ…。


新谷君は元に戻って話し始める。後ろにいる3Dの人たちも複雑そうに新谷君の背中を見つめていた。


しばらく沈黙が続いて、新谷君の焦っているような少し荒い呼吸が耳に入った。



「全部、俺の我儘だったんだ」

新谷君は切りだす。


「俺には、優勝する事に目的があった。チャンスだったんだ。こんなにスポーツ経験の豊富な奴らの集まっているクラスで、優勝を目指しやすくって…。勿論全勝していった。だが、そこに俺たちと同じ条件になったクラスが現れた」

「それが俺達3Zって事か」

トシの問いかけに頷く新谷君。


「…だから、そいつらの優勝はとにかく避けたかったんだ。そのために活躍していた奴らを隠して、全部園江ちゃんに押し付けさせたんだ」

「元から誰が出るかチェック済みって訳だったアルか」

「……」

「おい、何で私の時だけなにも答えないアルか、返事するネ!!」

「元々女子バスケ以外では都合によって3Zとは当たらなかったから勝ち続けてこれたようなものだ。そこが大きなミスだった」

「おい聞けヨ、おい、おいィィイイ!!!」
「神楽ちゃんうるさいわよ」

妙ちゃんがペシンと興奮する神楽ちゃんを叩いて彼女は治まった。新谷君は…まだ言いたい事があるようだ。


「結局、お前がどうして今回の事件を所望したのか分かってねーぞ」

銀ちゃんが追い打ちをかけるようにして言った。
すると彼は口を波にさせて口を開かないようにした。やっぱり言いたくないらしい。

しかしあたしのクラスメートたちがそれを許さない。総悟とさっちゃんさんがまたピシッと縄を張れば新谷君の肩が跳ねて「言います言います」と少し涙声になった。


「今回、こんな事をしたのは、全部……全部、――――、からです」

「聞えねーよ」


「…全部、俺が、園江ちゃんに告白したかっらからです!!!!



言いきった。言い切ったよ新谷さん…。

3Dの生徒たちがヒソヒソと言い合う。
そんななか3Zの皆は固まってしまって、その内あたしなんかは「え?へ…?」と困惑状態に陥ってしまった。


「…ごめん、も、もう一回言ってくれない?」

「結、それはソイツには酷な事だ、止めておけ」

高杉先生に制止されて探究するのをやめた。結局、あれが本当でいいのかな……?



「……うわぁぁぁ……」

こんなに人がいる中で告白されたのなんて初めてで、ましてやつい昼休みには敵意むき出しにしていたあたしなのに、そんなあたしを好きでいただなんて、と思うとますます照れくさくなった。
やっぱり告白は嬉しいもので…でも、ごめんなさい。



「あの、も、申し訳ないんですが……あたし、貴女の事よく知らないし、今は付き合う気とかないから……ごめんなさい」



そういう事なんです。





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