恋連鎖 | ナノ
「失礼します!!」
威勢よく、ガラリと音を立てて教室の扉を開く。
一同の視線がこちらへ集まるのを気にせずに、ただ結は呼吸を整えつつもこのクラスの中心である人物を目だけで探した。
そんな中、ある男子が「新谷さん、園江さんが来ましたよ…!」と、少々慌てているように声をかけているのを目撃し、結はズンズンと足を進める。
まるで怒ったように、否、現在進行形で怒っているのである。
「あんたが首謀者だよね」
ドンっと机を叩く音が教室に響いた。薄暗い教室の中でその中心だけ、妙に浮いて見える。
静まり返った生徒の中、結が声をかけた男、新谷は
「……こりゃあ驚いた」
とだけ呟いて目を見開いていた。
「何がよ」
結がぷくーっと頬を膨らせたまま尋ねれば、新谷は答える。
「いや、まさか一人でここまで来るとは思わなんでな…」
「…なんか、随分な驚きようですけど」
それに、なんかあたしの事を知っているような口ぶり……。そう声に出してみれば、新谷の目が少し泳ぐ。
何だろうかと思って、結は新谷に再度問い詰める。
「何戸惑ってんのよ」
「いや、いや…その……」
見た目に反して戸惑う新谷に疑問を抱き続ける結は、次に大きくため息をついた。何だか脱力してしまったのだ。もっと少年漫画みたいな展開になるかと思って切羽詰まったオーラを出していたというのに…。
でも、大切なクラスメートを傷つけられたのはどうしても許せない。
「まぁいいや。とりあえず、どうしてあんな事をしたのか教えて」
「あんな事…とは」
「トシと総悟に集団で襲ってたじゃない!立派な傷害罪よ?! ちゃんとした理由があるんでしょうね」
ついに声を少し荒げて怒りだす結。新谷は「まぁまぁ落ち着けって」と、思わず宥めてしまうのだが、「何が落ちつけよ、元凶はアンタでしょうが!」まぁごもっともですけれども。
「……」
「………」
沈黙が続く。
それを断ち切ったのは、新谷だった。
今まで戸惑っていた彼は、落ち着きを取り戻したのか…フッと口角を上げれば言った。
「園江ちゃん、答えてやってもいいが…それは最後の試合で俺たちのクラスに勝てたらだな。」
「なっ……!?」
「それが嫌なら何も言わないんだぜ?それに、この話を受けたら他に被害は出ないという事も保障できるんだがなぁ…」
「っ……分かった」
勝手に約束してしまってよかったのだろうか、と結は少し後悔する。
しかし、何が何でも傷害を与えた新谷の真意が聞きたかったのだ。今は自分一人だし、ここまでの事しかできない。
それに、他の3Dのクラスメートが何かしでかすかという事だって分からない。男子も女子もまだ信用できない、悪いけれども。
「じゃあ、最後のバスケの試合で」
このクラスは今までほとんど無敗らしい。姑息な手を使っているという噂もあるが、ルールを反しなければ勝ちは勝ちなのだ。
だから結はゴクリと生唾を飲んで、少し緊張を誤魔化した。
最終試合まであと何試合もない。
それに
「……あと、あたしのクラスメートの居場所、教えてくれないかなぁ」
まだ妙ちゃんと九ちゃんとコタロが見つかっていないから。
そう言うと新谷は笑う。
「それは出来ねェよ園江ちゃん。一応、人質ってやつでよぉ」
「そんなぁ!じゃあ何?三人は、三人は無事なの?それだけは教えてよ!!!」
「っ」
ぐっと身を乗り出して懸命に聞きだそうとする結に言葉が詰まる新谷。そうか、そこまで真剣にクラスメートを思っているのか。
――これはますます…
「安心しな、今のところは無事だからよ」
「あ……そう」
ホッと安堵の色を見せた結の表情を見て、何故かホッとする新谷。
その後、結は時間になりそうだったため3Dを後にした。
3Dの教室がドッと疲れを見せる。
盛大なため息の嵐。
「あーやっぱりあの人も3Zの生徒だよなー」
「やっぱオーラが違うっつーか?」
「新谷さん流石っす!あの女の前であの態度…俺、しびれたっす!」
口々に取り巻きの男子だろうかが声を出す。
そんな中、教室の隅で一部始終を見ていたとある女子が新谷に対して口を開いた。それは普段教室で会話をするように軽い口ぶりで
「新谷ーあの態度は失敗だったと思うよ」
「おいテメ加賀ァ!何新谷さんに対して失敗とか言ってんだよ、しばくぞゴラ」
「黙れ阿呆。アンタ新谷から何も聞いてないの?」
「あぁ?」
女子の言葉になぜか肩を落としている新谷を見る取り巻きの男子。何故だろうか、と目が点になって加賀という女子の方へ振り返って尋ねるように首をかしげる。
それを見てため息をついた加賀は、静まり返った教室で、凛とした声で言った。
「だって新谷、あの子の事好きなんだよ?」