恋連鎖 | ナノ
それからというもの、30分間ほど暇だった。
あたしが欠場したってことは、妙ちゃんが試合に出ているのだろう。近藤さん、はしゃいでるのかなぁ……。妙ちゃんには後で謝らなきゃ。
でも、試合の方はきっとあたしがいるよりも順調に進んでいると思った。やべ、泣けてきた…。
「結!!!!」
「っ―――」
不意打ちだった。
保健室に銀ちゃんが勢いよく駆け込む。そのせいで別件で浮かんだ涙がホロリとこぼれた。
あら、何だか嫌な予感。
「お前っ泣いてんじゃねーか!そんなに辛かったのか?…だよな、悪かった。俺がお前にちゃんと付いていれば怖い思いしなくてすんだのにな……」
「ぎっ銀ちゃん!?そんな深刻になんないで!あたし泣いてないから!そ、そりゃぁ…怖かったけど……」
勝手にズーンと暗いムードになってしまった銀ちゃんを励まそうと頑張って両腕をブンブンと振る。
すると銀ちゃんがあたしを抱きしめた。
「俺が怖くなった」
「……」
大事なものを包む子供のように、銀ちゃんの姿が幼く見える。
あぁ、やっぱり心配かけちゃったなぁ……ごめんね銀ちゃん。そう呟いてあたしも抱きしめ返す。
……抱きしめ返して、「やっぱりすごく怖かった」と改めて感じて呟いた。そしたら銀ちゃんの腕の力が一層強まった。
高杉先生とは違う感じだけれども、安心する。本当の事を言うと高杉先生よりも安心する。
好きだから、一番大切にしたいって思ってる人だからなんだろうと思う。銀ちゃんという存在が居てくれてよかった、とひどく心の底から強く思った。
「これからはずっとお前の側に付いてやるから」
「……他の人たちにあたし達の関係がバレない程度にね」
「抑えられねェかも」
「それは駄目だよ。ずっと一緒にいるんならなおさら…ね?」
「そうだな」
なんだろう、銀ちゃんがすごく幼く見える。さっき感じたものとは違って、何ていうか…全体的に。
今度はあたしが強く抱きしめ返した。何故だか母性というものが働いた。守ってあげなくちゃって……
なんで思ったんだろう?
「邪魔するぞ」
「「うわぁぁぁぁっ!!!!」」
「俺だよ俺」
「なんだ高杉かよ…」
でも、うひゃぁぁ心臓バクバクする!それと恥ずかしい……
「元気になったか?結」
「へっ、あ、はい……」
銀ちゃんのおかげで。
高杉先生はそう言わずとも分かっているようだ。目元がフッと綻んだ。うわ、綺麗な顔っ
「あと銀八、お前次男子バスケの審判だろ?行ってこい」
「でも俺は…」
「俺がついてやるから心配すんな」
銀ちゃんがさっきあたしと約束した事を守ろうと、弱弱しい表情で「嫌だ」とせがむが、高杉先生は分かっているみたい。あれだけ言い残せば「本当はコイツと二人きりも怖ェけど、じゃあな」と頭を撫でて銀ちゃんは保健室を出た。
全く、あの人はまわりに敵作りすぎ…。でも、その分愛されているんだって自覚すれば自然と顔が赤くなった。
「どうする?休んどくか?」
「はい…。元気になりましたけど、まだ不安定な状態で…」
「そうか」
あ、無理矢理出したりはしないんだ。
「そういえば総悟には言ってくれましたか?」
「ん?―――あぁ、言っといた。アイツも銀八みたいにこっちに来そうだったけどよ、俺が止めといてやったから」
「先生優しい」
そう言って苦笑。
高杉先生って最初は怖い人だと思っていたけれども本当に真逆だ。
むしろ見えないところであたしを支えてくれているような存在。不思議な人だ……。
「戻るんなら俺に言えよ。それまで寝てろ」
「…ありがとうございます」
一礼をして布団をかぶる。
冷たい保健室のシーツは今のあたしにはなんだか心地よくて、不安がやっと取り除いてくれたのか、安眠する事ができた。