それからというもの、結はボロボロだった。
点数はというと、花子もキャサリンも段々と追い上げてきて点を入れ、九兵衛やさっちゃんなんかは3ポイントまで決めて3Zがいまだに有利な状況だ。
しかし彼女の疲労が半端なかった。
理由は先ほどのキャプテンの言葉である。
『クラスの皆があんたの事超見てる』
―やだぁ、見られたくないって言ってるのにぃ!
目をギュッと瞑って視線を逃れようと考えるけれども、そんな事は自分への慰めでしかなくて、今が試合中なのを思い出せばまた目を開く。
でも動きがついていけない。精神からの体力減少が響いているのだ。
「はっ、はっ…」
「結ちゃん!」
「あっ」
花子からのパスが来た。しかし追いつけなくてボールはコートの外へ。
ピーっとホイッスルが鳴り、ついに結は審判にタイムを告げた。
ベンチに戻り、チームメイトが集まる。
「貴女疲れすぎじゃないの?」
タオルを貰ったさっちゃんが怪訝そうに結の顔を覗き込む。
大丈夫、と言ったけれども声がかすれて聞えなかった。
でも、ここで膝をついたらそれに甘えてしまう。また走るために今は水分補給をしなくてはいけない。
―あと、3分…
すでに13分走っている結は、元々体力が無いせいでクタクタ。その上、精神状態が不安定になっている。
誰の声も聞こえない状態が続く。集中しているはずなのに足が動かない。そんな苦痛の中、苛立ちさえ芽生え始めていた。
「あと3分だ、このまま頑張ろう」
九兵衛が皆に勇気づけるように問いかける。
けれども結は、ただ早く終わってほしい、それだけを思っていた。
ホイッスルが再び鳴る。
選手はもう一度コートに立って試合を続けた。
先ほど結が取れなかったため次は相手チームのボール。
取らなきゃ。ボール、取らなきゃ…!
パスをした。キャプテンにめがけてだ。
よし!そう思って手を伸ばす。ボールを弾いた!そのままルーズボールを追いかける。
そして結は残る体力を振り絞ってドリブルをついた。走る走る。
いつもなら小さい、と感じるゴールが、今はなんだかとても遠かった。
「結―――行っけェェ!!!」
「!」
しかし今声援が聞こえた。
目を上げると3Zの人たち、いや、他の人も自分を見ている。当然だ、ボールを持っているから。
一気に力が抜け、泣きそうになった。
心臓が早まった。
「ぁっ」
「っち、だからあの子は…!」
ボールが結の手から抜け落ちようとした瞬間、足の速いさっちゃんがこぼれ球を取ろうと走り、見事に手に取る。
そしてそのまま切り出せばシュートを打った。3ポイントだ。
歓声が広まる中、結は罪悪感に包まれた。
そしてさっちゃんと目が合い、しゅん、と俯く。
「頑張りなさいよ。あんなに応援されてたんだから」
「でも…」
「言い訳するつもり?言っておくけど、私は負けてもいい、だなんて考えていないわ。ここまで勝ちあがってきたんだもの、変に負けて点を落としたくないの」
さっちゃんの言う事はもっともだ。結がそう思って「ごめん」と言葉を紡ごうとした。その時、さっちゃんは眼鏡をクイっとかけ直して言った。
「ま、何かあったら私がフォローするから、貴女の自由に勝ちに行きなさいよ」
そして相手のボールから始まろうとしている。
結はパァッと表情を明るくした。今度こそ本当の笑顔である。勇気がついた。
「ありがとう!」
そう叫んで頬をパシンッと叩く。
よし、そう呟いて残り1分の試合に全力をかけたのであった。