恋連鎖 | ナノ


時間が無い。点差は縮まりも広がりもしない。

また相手に点が入る。少し距離が短くなるのを感じ取り、結達は焦りと緊張を再び思えば体を引き締めた。

結の目の前にボールを持ったバスケ部員がいる。いつもなら大事なチームメイトであるが、今となると最大の敵。しかもよく考えたら彼女キャプテンだ!

目線が合った。
ごくりと喉を鳴らす結。ボールは5秒以上持ってはいけない。その隙をついてか3Zメンバーがかかる。

女バスのキャプテンである彼女はギリギリのタイムで投げた。
裏をかいていたのだ。おかげでノーマークの相手にボールが渡ってしまった。
流石だ。結はまた表情を引き締める。

キャプテンはパスした相手からまたボールを貰うと華麗にドリブルをついた。3年ともなれば昔からバスケをしている人の体格はしっかりとしてくるもの。結は突発的に始めただけであるが、そこそこうまい。しかしキャプテンは桁違いなのだ。
低姿勢で突き進む姿は猛獣のよう。

しかしゴールまで走らせない!そう決意した結は必死に食らいついていく。

対峙した時。


「結、クラスの皆がアンタの事超見てる」

「へっ!!?」


結がたじろいだ瞬間にキャプテンはあっさりと抜き去り、そしてそのままシュート。
一瞬の出来事だったため、傍から見ればキャプテンがただ抜き去っただけのよう。しかし

―――どうしよう

結の中にはまた不安が募った。





***







それからというもの、結はボロボロだった。

点数はというと、花子もキャサリンも段々と追い上げてきて点を入れ、九兵衛やさっちゃんなんかは3ポイントまで決めて3Zがいまだに有利な状況だ。

しかし彼女の疲労が半端なかった。
理由は先ほどのキャプテンの言葉である。


『クラスの皆があんたの事超見てる』

―やだぁ、見られたくないって言ってるのにぃ!

目をギュッと瞑って視線を逃れようと考えるけれども、そんな事は自分への慰めでしかなくて、今が試合中なのを思い出せばまた目を開く。
でも動きがついていけない。精神からの体力減少が響いているのだ。

「はっ、はっ…」

「結ちゃん!」

「あっ」


花子からのパスが来た。しかし追いつけなくてボールはコートの外へ。

ピーっとホイッスルが鳴り、ついに結は審判にタイムを告げた。


ベンチに戻り、チームメイトが集まる。


「貴女疲れすぎじゃないの?」

タオルを貰ったさっちゃんが怪訝そうに結の顔を覗き込む。
大丈夫、と言ったけれども声がかすれて聞えなかった。

でも、ここで膝をついたらそれに甘えてしまう。また走るために今は水分補給をしなくてはいけない。


―あと、3分…


すでに13分走っている結は、元々体力が無いせいでクタクタ。その上、精神状態が不安定になっている。
誰の声も聞こえない状態が続く。集中しているはずなのに足が動かない。そんな苦痛の中、苛立ちさえ芽生え始めていた。


「あと3分だ、このまま頑張ろう」

九兵衛が皆に勇気づけるように問いかける。

けれども結は、ただ早く終わってほしい、それだけを思っていた。




ホイッスルが再び鳴る。
選手はもう一度コートに立って試合を続けた。

先ほど結が取れなかったため次は相手チームのボール。


取らなきゃ。ボール、取らなきゃ…!



パスをした。キャプテンにめがけてだ。

よし!そう思って手を伸ばす。ボールを弾いた!そのままルーズボールを追いかける。
そして結は残る体力を振り絞ってドリブルをついた。走る走る。
いつもなら小さい、と感じるゴールが、今はなんだかとても遠かった。


「結―――行っけェェ!!!」


「!」


しかし今声援が聞こえた。
目を上げると3Zの人たち、いや、他の人も自分を見ている。当然だ、ボールを持っているから。

一気に力が抜け、泣きそうになった。
心臓が早まった。

「ぁっ」

「っち、だからあの子は…!」


ボールが結の手から抜け落ちようとした瞬間、足の速いさっちゃんがこぼれ球を取ろうと走り、見事に手に取る。

そしてそのまま切り出せばシュートを打った。3ポイントだ。


歓声が広まる中、結は罪悪感に包まれた。
そしてさっちゃんと目が合い、しゅん、と俯く。


「頑張りなさいよ。あんなに応援されてたんだから」

「でも…」

「言い訳するつもり?言っておくけど、私は負けてもいい、だなんて考えていないわ。ここまで勝ちあがってきたんだもの、変に負けて点を落としたくないの」


さっちゃんの言う事はもっともだ。結がそう思って「ごめん」と言葉を紡ごうとした。その時、さっちゃんは眼鏡をクイっとかけ直して言った。



「ま、何かあったら私がフォローするから、貴女の自由に勝ちに行きなさいよ」



そして相手のボールから始まろうとしている。
結はパァッと表情を明るくした。今度こそ本当の笑顔である。勇気がついた。



「ありがとう!」


そう叫んで頬をパシンッと叩く。
よし、そう呟いて残り1分の試合に全力をかけたのであった。





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