季節物



僕は、彼女の名前を知らない。



いつも駅のホームで一緒になる女の子。

制服を着ていたから多分学生なんだと思う。




一目惚れだった。



僕が中学三年生の冬休み明けに、その女の子は僕と同じ時間にホームに立つようになり、僕も意識してその時間に駅にいるようになった。


おかげで遅刻は絶対にしなくなった。



最初は僕が一方的に見ているだけ。

2月が終わるころから、彼女も僕に気づいたみたいで

3月になるころにはお互い目が合うとお辞儀をするまでになっていた。


僕はそのたびに顔を赤くする。


気づかれてるんじゃないかって思うけれど、不思議と恥ずかしくはなくただその朝の挨拶は僕にとって日常となっていった。



しかし4月。



僕はその駅を使わなくなった。




「…もう、会えないのかな…」



3月まで使っていたところと正反対の駅。


珍しく早起きをした僕は、一人ため息をついてそう呟いた。



でもどこか、彼女はこのホームに立っていそうで…

電車が来るまでキョロキョロ周りを見渡す。




「……」




まだ通勤時刻になっていない駅のホームは、やたらと静かだった。






***







「新八―――久しぶりアルな!」

「あれっ、か、神楽ちゃん!? 神楽ちゃんもこの学校に来てたの…?」

「そうネ。いつ振りアルかなー。あ、小学校ぶりアルネ」

「そうだねー」



男子校にいた僕は、高校の制服を着た女子に少し違和感を持つ。

僕の友達の神楽ちゃんも、女子高に通っていたためか、「新八が制服を着てるなんてなんか…気持ち悪いアル」なんてしかめ面になる。

そこまで言わなくても…と言いかけたときだった。




「そうヨ、新八にはもったいないくらいの可愛い女子を紹介するネ!!」


「女子高の友達も一緒なの?」



神楽ちゃんは嬉しそうに「うんうん」と頷く。

そして僕の後ろの方にその子を見かけたらしく、ブンブンとその子の名前を呼びながら手を振る。


僕もどんな子だろうかって振り返ると…言葉を失った。




「あ。……あなたは」




目の前の彼女も驚いたように僕の顔を見る。



「…こんにちは」


僕は口を開いて、そう声をかける。



「3月ぶりですね。こんにちは」



天使のような笑顔を浮かべて、彼女も答える。


「何? 知り合いアルか?」

「駅でよく会ってたんだよ。でも話すのは初めてですよね?」
 
「はい」




桜がもう散り始めるこの季節。


あぁ、いつ彼女にこの思いを伝えようか。






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