季節物


『卒業式』

そんな文字が書かれた門の近くで、生徒たちは泣きあったり、おめでとうと言い合ったり、様々な様子を見せていた。


今日はいつにも増して風が強い気がする。


そんな風に思いながらも、あたしは愛しい人の前で涙を流していた。





「んな辛気臭ェ顔すんなよ。会おうと思えばまた会えるだろ?」





涙は止め処なくあふれて、あぁ、きっと今あたしはとても酷い状態になってるんだろうな…と思う。


さっきから頬を流れる涙が風に当たって冷たい。



春なのに…冷たくて

彼の言葉も伝わってこないくらい、何故か胸の奥では不安や悲しみがいっぱい詰まっていた。


「だって…ぇ、あたしっ…銀八先生の授業が、もっもう…受けられないって…、思う、と…」



やっとの事で口を開いたものも、泣きすぎたせいで言葉が上手くつながらない。

先生はヤレヤレと言いながら頭をかくと、そっとあたしの事を抱きしめた。



―――あんなに学校でイチャイチャするの拒んでたくせに…


そう思いながらも、あたしは彼に身を委ねる。
なんだかんだで、いつでもこうしてくっつきたかったから…何も言わずにただ先生の背中に腕を伸ばした。



「まぁさ、これからは先生と生徒じゃなくなるんだし、こういう事だってできるだろ?
ホラ、こっちの方がメリットあんじゃん」



ポンポンと頭をなでて…
こんなにも優しく触れられたことは初めてだったから、ますます涙があふれた。



「でも……ぉ」


「っていうかさぁ」



言いかけると、先生はあたしを引き離し、すぐ近くでこう言った。



「俺は早くこうしたかったの。
お前が卒業して社会人になっていろいろ知って…それからイチャイチャしたりしてってさ、計画立ててたっつーの。
とにかく もう我慢の限界なの。………だから、泣いたら逆に俺が悲しいだろ?」


まるで拗ねた子供のようにプーッと頬を膨らませる。


「…そうなの?」


自分でもあまりにも呆気ない声が出たと思う。


その問いを返す前に、先生はもう一度あたしを抱きしめた。




「卒業おめでとう。
これからもよろしくお願いします…ってね」



「………―――はい。」




いつの間にか自分の中にさっきまでの感情は無くなっていて、その代わりに甘いキスがあたしの唇の上に落ちたのであった。







総悟→










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