くぱはねけあに  わかものぐみ | ナノ

彼と彼の会話 Side.A



「「あ」」

その道で出会ったのはほんの偶然だった。

「オニーサン、軍曹サンのところの」
クーパーを指さし、にこにこと笑う青年。
けして背が低いわけではないが、軍人として鍛えているクーパーと比べると
どうしても小柄な印象だ。
いつもの派手な帽子は置いてきたのか、普段は見えないドレッドが目立っていた。

「ロメオ・クーパー、一応言っておくと、階級は伍長。
ロメオでもクーパーでも、お好きな方で」
おそらく相手の方が確実に年上であろうが、そう思わせない雰囲気。
ついつい砕けた喋り方になってしまうが、相手はそれを気には留めていないようだ。

「ロメオ君……うーん…じゃ、伍長サン」
どうやら名前呼びはしっくりこなかったらしい。
同僚ではない相手から階級で呼ばれるということに多少のくすぐったさを感じた。

「ところで、お兄さんはどうしてここに?」
「伍長サンこそ」
二人が鉢合わせた場所は、人のこない裏庭に続く路地。
常に人に囲まれている青年達にはあまり似合わない場所といえる。
「俺はこの先の裏庭にね。うちのサージャントがよくいるんで。」
クーパーが向かおうとしていた方向へと指を向けると、青年の顔に笑顔が浮かんだ。
「あれ、偶然デスね、けーさんもあの場所お気に入りなンですよ!」
一緒に行きましょー、と歩き始めた青年の後を追い、クーパーもまた足を動かした。

「けーさん?…ああ、あの……『なんでも屋さん』」
改めて青年の横に立ち、歩調を緩めたところで、会話をつづける。

言葉を一瞬詰まらせたのは他でもない。けーさんと呼ばれる男の稼業故。
表では清掃員・ウェイター・水道局員、猫探しまで請け負っているが
裏では狙撃手として多くの「仕事」をこなしてきている男。
横で歩く青年がその事を知っているとは思えない。

「そデス。静かで落ち着くから、考え事とかするのにちょうどいいって。」
「落ち着く、かー。サージャントもあそこは休まるとか言ってたなあ」
「軍曹サンも?」
「俺には全然解らないけどね。あの場所静かすぎて逆に落ち着かないし。」
「あー、オレもデス。良いところだとは思いますケド…」
「やっぱりお兄さんも?」

目的地の印象を皮切りに、最近買ったものや好きな音楽、
女性のタイプといった四方山話に花を咲かせる。
今まで深く話し込む事はなかったが、どうやらお互いに気があうと感じたらしい。


「そういえば」
と、ふとクーパーが話を切り出した。
「お兄さん、『なんでも屋さん』と付き合ってんだよね?」
「え」
突然の質問にクーパーを見上げる青年。
「違った?てっきりそうなんだと思って」
「いや、その、ええと…間違ってはない、デス」
「ああよかった。違うって言われたらどうしようかと」
「そんな外から解りやすいのかなー…」
小さくこもった唸り声に合わせて首を左右にかしげる青年。

「解りやすい、っていうか。なんかそんな気がしてね。ほら、俺も、ね?」
「…あ!そゆことデスか」
クーパーの言わんとした事を理解したのか、
ひねっていた顔をあげクーパーを見上げた。


「でも、軍曹サンだと、なかなか大変なんじゃ?」
若干いたずらっぽさの混じった問いかけに、精悍な顔に苦笑が浮かぶ。
「そうなんだよなあ、二人っきりでもファーストネームで呼ばせてくれないし、
 機嫌良くなきゃハグもさせてくれないし、俺よりも銃にばっかり愛情そそいでるし…」
「軍曹サンらしいデスねえ」
「一応俺恋人の筈なんだけどなあ…」
「でも、あの軍曹サンが一緒にいるの許してくれてるンじゃないデスか。」
「まあね。最初のころに比べたらハグしても怒らなくなったし
 酒にも付き合ってくれるし」
ハーネマンの変化を嬉しそうに話すクーパーと、それを楽しそうに聞いている青年。
普段このような惚気を聞いてくれる相手がいないだけに、つい饒舌になった。

「お兄さんだって、あの人、気難しいんじゃない?」
ひとしきりの惚気を語り終えたのか、今度はクーパーが青年に聞き返した。
青年の顔に苦笑が浮かぶ。
「デスねー。結構気分屋なトコロがあったりとか。あと…」
「あと?」

「たまにすごく心配になっちゃうンですよね。」
笑顔は変わらないが、うっすらと青年の顔に影が差したように感じた。
「心配?」
「ハイ。」

「けーさん、時々何日も帰ってこない時とかあって…
 あ、もちろんオレも仕事入った時に何日か家空けることはありますケド。
 そういうのじゃなくて、なんか、こう…
 見た目はいつも通りだし、ぱっと見では解らないくらいだけど、
 気がピリピリしてるというか…危険な事してきたんじゃないかなって思うような。
 暫くすればいつもの雰囲気に戻ってくれるンですけど、
 何があったのかは絶対教えてくれないし。」


―ああ、成程。やっぱり見てるんだな。
完全には把握できていなくとも、なにかしらの空気を感じ取っているらしい青年。


「オレじゃ解らない事ばかりだろうけど…
 やっぱり、けーさんの力になりたいなあって…」
笑顔が少し悲しそうに見えるのは気のせいではないだろう。

表の仕事であれば多少の事は話せるだろうが、裏の仕事となれば話は別だ。
完全秘密主義で遂行すべき仕事であり、
関係が解れば目の前の青年にも危険が及ばないとも限らない。

クーパーは黙って視界に映るドレッドを眺めていた。


その沈黙が破られたのは、ほんの数秒後。

「あ、でもこれはけーさんには内緒にしておいてくださいね?」

ぱっと上がった顔に、一瞬反応が遅れた。
「え?」
「ほら、だって、けーさんにも事情があるってことは解りますカラ」

伍長サンとの秘密デス、と、またいつもの笑顔に戻った青年に、
クーパーもにやりと笑い返した。





「ところでお兄さん」
もう間もなく目的地に到着するというところで、クーパーが口を開いた。
「もし、なんでも屋さんが他の人に目移りしたらどーします?」
まるで新しいいたずらを思いついた子供の様な笑いに、青年も同じような顔で返す。
「それを言うなら伍長サンだって、軍曹サンが他の人に行ったらどうするンです?」

お互いの、笑い。

だがそれは、庭園でも特に目立つ大木の下で
ハーネマンを組敷いたかの様なKKの姿を認めた瞬間に絶叫へと姿を変えたとか。


さかまちの中で熱い2組の、若者(?)組のやりとりです。
KKとハーネマン側の会話とリンクします。
まだ完成してないので近々…!!

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