うさぎりんご | ナノ

うさぎりんご



木陰で軽い眠りを味わっていたハーネマンは、間近からの視線を感じ目を開けた。

真っ先に飛び込んできたのは、誰かの足。
位置を考えれば確実に命を相手に与えていたであろう距離だ。

「誰だ」

相手から何の意志も感じられなかったというのもあるだろうが、
まさかこんな近づかれるまで気付かなかったとは。
戦いと無縁の場所にいた時間が長かったか―――
己の勘の鈍り?を悔みつつ、対峙する相手に声をかける。

返事はない。

長いというよりも、ただ伸びただけと言えるぼさぼさの髪。
顔は黄色と青の仮面に覆われていて表情を伺うことが出来ない。
やや褐色じみた肌に文様が施されたワンピースの様な服を着た、
男か女かすら解らないその相手を、無言で睨み続ける。

短い沈黙が辺りを包む。


「…何もないなら去れ。俺に何か用なのか?」

とうとう痺れを切らしたハーネマンが荒っぽく口を開いた。


「トモダチ」
「?」
「ヒトリ、トモダチ」
たどたどしい言葉を紡ぐその生き物。声からもやはり性別ははっきりしない。
だが、今までに遭遇したことのない空気を持ったその声が
ハーネマンの興味をかき立てた。

「ヒトリ…?」
「ヒトリ、トモダチ、タクサン、ツクル。トモダチ」
もじもじと服の裾を握り締め、言葉を覚え始めた子供の様に単語を並べるその「人」。
なるほど、「ヒトリ」というのはこいつの名前らしい。
「ヒトリ ト トモダチ」
『トモダチ』とこちらを指さす「ヒトリ」の行動に、何かを察した。
「俺と、『トモダチ』…になりたい。ということか?」

嬉しそうに首を縦に振るヒトリの姿に、自分の考えがあっていたことを悟る。
しかし、トモダチと言われても、どうすればいいのかが解らない。
もともと人と関わることをほとんどしてこなかったハーネマンにとって、
まして初対面の、言葉もたどたどしい相手だ。
さて、どうしたものか…と首をひねる。

と、ヒトリが此方に手を伸ばしてきた。
その手の中には、赤い球体。

「林檎?」
「ヒトリト、トモダチ、イッショニ、タベル」
歓喜の色が混じった声で差し出された手から、林檎の様な果物を受け取る。
ハーネマンの知る林檎よりも若干小振りなそれをぐるりと眺め視線を戻すと、
いつのまにか隣に腰を下ろしていたヒトリが
もうひとつ持っていたらしい実をそのまま齧ろうとしているところだった。

「まて」
食事を止められたヒトリが、きょとんとした雰囲気でハーネマンを見上げる。

ヒトリの動きを止めると、ハーネマンは腰のポーチから小さなナイフを取り出し
手にした赤い実を縦に切り始めた。
見たことのないきらきらと光る鋭利な刃物と、
「トモダチ」の始めた不思議な動きにヒトリの目が釘付けになる。

「ほら、できたぞ。」
束の間の沈黙を置き、ハーネマンの手から渡されたそれ。
皮にV字に切れ目が入り、1/3ほど実と繋がった状態で残されている。
これまた見たことのない姿に変わった実に、ヒトリの心が昂った。
「偶にはこういうのも悪くないだろう?」
ナイフを丁寧に拭きポーチへと戻したハーネマンが、ヒトリへと視線を下ろす。

「トモダチ、ア、リガト、ウ」

『アリガトウ』
おそらく使ったことのない言葉だったのだろう、たどたどしく紡ぎだされたその言葉。

「ミッヒ・ハーネマン」
「ミ…ハ、ネ?」
「『ミッヒ』『ハーネマン』俺の名前だ。」
「ナマエ、ミヒ…ハネ、マン…ミヒ、ハネ…」
俯き、もごもごと何度も繰り返し。
やがて跳ねあげる様に顔を上げたヒトリが、ハーネマンに向き直った。

「ミヒ!」
覚えたよ、といわんばかりの大きな声でハーネマンを呼ぶその声に
一瞬はきょとんとしたハーネマンだったが。

「まあ…良いか…」
間違ってはいないな、とヒトリの頭を撫でるのだった。



ヒトリちゃんとハーネマンは絶対似合う。

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