K兄 | ナノ

anxiety


―あ、まただ。

男は心の中で呟いた。視線の先には、一人の青年。
ラスタカラーの帽子と髭が印象的な、常に笑顔の青年。

だが、その笑顔が、ふ、と消える事があるのだ。
それは本当に一瞬。おそらく気付く者はいないであろう。

それが、彼と常に行動を共にする女性たちであっても。

「けーぇさんっ」

降って来た声にふと顔を上げた。
「どうしたんデスか?」
見ればついさっきまで向こうで談笑していた青年が目の前まで来ており、
不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「ずっとおれの事見てませんでした?やだなー、照れちゃいマスよ?」
空いていた椅子に座りながら、きゃー、などと
冗談めかした言葉と共に両手で顔を覆う真似をする青年。
こういったおちゃらけた行動も、人を楽しませたいという
彼の信条から出る行動なのだろう。

だが。

「お前さ。なんか、悩んでる事でもあるのか?」

投げかける。
はぐらかさないで、直球。

「…えー?唐突ですね。おれ、悩んでるように見えますー?」
へらりと笑う青年のその笑顔に、表現できない感情が湧きあがった。

「そんなに隠す必要のあることなのか?笑顔で隠さなきゃいけない位の」

その言葉に、青年の笑顔が歪んだ。

「…まいったなぁ…けーさん、おれの事見過ぎなんじゃないですか?
 恥ずかしいですよー」

「またそうやって隠して。誰にも言わずに溜め込むだけか?」

またも直球。
だがこうでもしないと、この青年は本音を漏らさない。
そういう確信があった。

「…怖いんですよ。」

KKの言葉に笑顔を消した青年が、ぽつりと漏らした。
「怖い?」
「ハイ。おれは本当に人を楽しませられているのかな、って。」
その目は、不安に揺れていた。

「どういうことだ?」

「おれは、おれを見てくれる人に楽しんでもらいたい、
 笑顔になってもらいたいって考えてます。
 でも、おれのやってる事で本当に見てる人が楽しめてるのか。
 時々不安になるんです」

視線を足元に落としながら、淡々と語る青年。

「独りよがりになってないかって。不安なんですよ」


「…なんだ。そんな事で悩んでたのか。」
「そんなこと、って…」
「お前のやってる事、少なくとも俺は楽しませて貰ってるんだがな。
 

「それに俺が見てる限りでは、お前を見て楽しんでないやつなんていない。
 そう感じてるぞ。」
「けー、さ…」
「第一、人を楽しませたい奴がそんなネガティブな事
 考えてたらいけないんじゃないか?」
ぽん、と青年の帽子に手をかけ、優しく撫でる。

「自信持ってやればいいさ。
 それでも不安なら、俺で良けりゃいくらでも聞いてやる。」

「それでどうだ?」


「…ありがとう、ゴザイマス」


青年は照れくさそうな、しかし心からの笑顔で目の前の男に笑いかけた。



以前についったーで流した文章を加筆修正してみたものです。
お兄さんにパフォーマーの悩みを感じさせたかったんです。

サドルシューズのお兄さんが好き過ぎて死ぬ

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