From your valentine2 | ナノ

From your valentine 2

「クーパー。人の部屋の前で何をしている」
不意に後ろからかけられた声に心臓が跳ねた。
いくら悩んでいたとはいえ簡単に背中をとられるとは思ってもみない。
振り返ればそこには部屋の主であり彼の想い人、ハーネマンが立っていた。
「き、教官。部屋にいたんじゃなかったんですか。」
別に何か悪いことをしていたわけではないのに、訳のわからない後ろめたさを覚える。
「トレーニングルームに行くつもりだったんだが
 ポーに部屋に戻ってみろと言われてな。」
「え、と、その。別に何もやましいことは…」
「まあいい。用があるなら入れ。」
機嫌がいいのか珍しく彼の方から部屋へと招いてくれた。
当たり前といえば当たり前なのだが、
自分では開けることのできなかった扉がいとも簡単に開く。
ハーネマンに促され、クーパーも彼に続いて部屋へと足を踏み入れた。

いつきても殺風景な部屋は、バレンタインでも変わらず静かだった。

否、一つだけ。

部屋の中でも数少ない家具であるデスクの上に見慣れない小さな箱。
落ち着いた深緑のその箱は、元は箱に結ばれていたであろう
深い紅のリボンと共に部屋の新入りながら、他の物と上手く溶け込んでいる。
「教官、それって…」
「ん?ああ、演習後に戻ってきたら部屋の前に置いてあった。
 前使ってたのが折れちまって困ってたんだが、
 買いに行く手間が省けて良かった。」
箱を開けると、中には誰が見ても高級品とわかる様な万年筆が入っていた。
蓋の裏には手書きで〜From Your Valentine〜の文字。
勿体無いことに受取った側は代わりの筆記具が手に入ったことにしか
目がいっていないようではあるが。
どうやらすんなり部屋に入れてくれたのも、
そのことで若干機嫌が良かったこともあってのようだ。

「で、何の用だ?」
何も言わず箱を見つめるクーパーを不審に思ったのか、ハーネマンが声を掛ける。
本当に万年筆が何だったのか理解していないようだった。
「え、えっと、」
「用が無いなら部屋に戻れ。俺も暇じゃない。」
彼の声に段々と声に不機嫌な色が混じってきている。まずい。
「いえ!!…その、これを渡したくて。」
意を決して用意したプレゼントを差し出した。
彼のイメージに合わせた濃紺のラッピングバッグ。
渡された本人は突然目の前に出された品にきょとんと不思議そうな顔をしている。
どうやらいまだに今日が何の日なのかを気づいていないらしい。
「ほら、バレンタインですから。俺からの気持ちです。」
決心してしまえば案外素直に言えるものだ。ハーネマンも素直に袋を受け取った。
こうなってくると何をあんなに悩んでいたのか馬鹿らしくも思える。
「…そういえばそんな日もあったな。」
「よかったら、開けてみてください。」
美しい天使の描かれたバレンタインカードと、
銀糸で薔薇の刺繍が入った、品のいい皮の栞。
こう見えて読書家な彼の為にじっくり選んだ品だ。

「クーパー…えっと…」
予想していなかったプレゼントに、今度はハーネマンが口ごもる。
「俺から何も渡せないんだが…」
「気にしないでください。俺が渡したかっただけですし。」
「だが貰うだけというのも…」
渡されたら返す、意外と律義なところがあるらしい。
それならば、とクーパーは以前から願っていた事を口にした。
「じゃあ、たまには教官から俺にキス、とか。」




ある者は恋人との時間を過ごし、ある者はそれを横目で恨めしく眺めた夜も
すっかり影をひそめた明くる朝。

「よう、機嫌がいいな」
「おっ、おはよう。まあね。」
「その様子だと上手くいったみたいだな」
「お陰さまで。まあ半分はあんたのお陰だけど」
「ん?何のことだ?」
「とぼけなくていいって。
 軍曹殿の万年筆が壊れたの知ってる人間なんて限られてるし。
 だいたいあの文字、俺が見るって解ってて書いただろ。
 思いっきりあんたの筆記じゃんか。」

「…ばれたか。まあ上手くいって何よりだ。」
「にしても、なにがバレンタインの相手なら居る、だよ」
「ま、俺から友人2人に感謝を込めてのバレンタインってことで」
「はいはい、感謝してますよ、ヴァレンティヌス殿」



ミキさんへの捧げものバレンタインSSでした。

まだまだ付き合い始めの二人と、二人の保護者(仮)
ポーさんはハネさんが心配でしょうがないんです。
若干ポーハネっぽくも見えなくもないですねw

(10.02.XX作成)

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