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倒錯ラバー続編。単体でも読めます。
女装臨也≒甘楽






「いたっ!離して下さぁい!」
池袋の裏通り。ピンクの看板が並ぶいかがわしい路地に可憐な少女の声が響く。
黒髪ボブの少女は黒いファー付きジャケットにフリルブラウス、チェックのスカート姿で歓楽街には全く似つかわしくない。


「いいだろー?ウチで働く前にさーオレらとイイコトしようぜ?」
そう可憐な少女、甘楽ちゃんは只今ピンチなのです。
お仕事の都合で、ちょっといかがわしいお店の偵察に来たら捕まっちゃった☆甘楽ちゃんが可愛いから仕方ないですよねー。
ホント、可愛いって罪!!
「遠慮しますぅ。ていうか、甘楽面食いなんです。鏡見て出直して下さぁい☆」
「あぁ!?」
もう面倒くさいからコイツら切り刻んじゃえ。

「かぁーんらぁちゃぁんよぉ」
挑発して袖のナイフに手をかけたとき、背後からの地を這うような低音に血の気が引いた。
「なぁにやってんだ!!」
言うやいなやシズちゃんが俺のモフモフのフードを掴んで、黒服から引き剥がす。
「静雄くん、わたし怖くて…」
目に涙を浮かべてシズちゃんを見つめる。
「ウゼェ」
ヒドッ!こんな可愛い甘楽ちゃんの泣き顔みてウザいってなにさ!シズちゃんのバカ!!
「何?ヒーロー気取り?いやいやー、オレらが先に目ぇ付けたんだよねー?」
最近池袋に縄張りを広げたばっかの新参者が俺たちの周りを囲む。
「コイツは俺のだ」
へ?シズちゃん何言っちゃてんの!?ここ、真っ昼間の池袋だよ?お天道様がみてるよ?
「テメェら、俺のモンに手ぇだして無事に帰れると思うなよ」
俺を田中某の横に降ろすとシズちゃんは黒服達の輪に入っていった。
それからの出来事は数秒で、文字通り瞬殺ってやつ。俺の肩を掴んでた奴なんてお星様になっちゃった。ご愁傷様。
でもその時の俺ってばシズちゃんの「俺のモノ」発言が頭ん中グルグルしてて、全く見てなかったんだけどね。
「あー、アンタ静雄の女?」
田中某が頭を掻きながら気まずそうに聞いてきてハッとした。
「えぇ。初めまして、こんにちわ。いつも静雄くんがお世話になってます」
もうヤケだ。あのロシア女の牽制にもなるし良いよね。
「そうか。静雄、彼女出来たんなら紹介してくれよ」
黒服を殲滅したシズちゃんがこっちに来た。ちょっと血出てる。
「へ?いや、コイツは…」
「静雄くん、照れ屋さんだから」
ねっ、てシズちゃんの腕に絡み付く。
「お嬢さん、ちっと乱暴だが根は良い奴だから宜しくな」
「ハイっ!任せて下さい」
「元気良いなぁ。静雄、今日はもう上がっていいぞ」
「いいんすか?」
「そんな可愛い子、1人で歩かせたらマズいべ」
キャッ!可愛いだって!当たり前だよねー。
「ウス。あざっす」

田中某を見送るとシズちゃんが腕を引っぱる。
「ねぇ、シズちゃん」
無視。
足早に向かう方向はシズちゃんち。もしかして甘楽ちゃんのピンチは終わってないの!?


シズちゃんの家に着くなり、玄関で熱烈なチューされた。
「んっ‥ぅ…」
体をぎゅうって抱き締められながら舌を絡ませて、吸って、噛んで。ベタベタするグロスが不快。シズちゃんだけを味わいたいのに、グロスの味なんて萎える。
「テメェなんつー格好してんだよ」
チュッて音をたてて離れた唇から掠れた低音。シズちゃん額に青筋浮いてる。結構怒ってるな。
「可愛いでしょ?凄いなぁ。よく分かったね」
「次は気付くって言ったろ。ていうか、なんなんだよテメェは」
あぁ、進化したのね。高校のとき女装してシズちゃん襲ったっけな。見事返り討ちだったけどさ。
「んー?お仕事」
首を傾げてぶりっこする。
「断れよ」
「いや、今日のは偵察。あとはデスクワークだもん☆」
「もん☆じゃねーよ。あぶねー店行きやがって」
「あ、やっぱ普通のキャバじゃないんだ。情報ありがと」
予想外の収穫!と喜んでもいられない。シズちゃんのお顔は怖いまんま。
「池袋来たからってそんな怒んないでよ」
うつむくと盛大な溜息が聞こえた。
夜こそお互い好きだの愛してるだの言うけど、昼間はやっぱり死ねと殺すの関係なまんま。悲しいとかそーいうのじゃない。殺し合いだって楽しいし。
でも何もしないで怒られるのは嫌。そりゃあ俺の日頃の行いは悪いけどね。
「ちげーよ」
「何がさ」
「…………心配なんだよ」
「え?イタッ!!」
思わず顔を上げるとシズちゃんが頭突きしてきた。そのまま額同士をぐりぐりされる。
「ぅぅー‥痛いよぅ」
絶対おでこ赤くなってる。
「イテェのが嫌なら危ないことすんなよ」
「保険かけてたもん!」
「だから、もん!じゃねーよ。保険効いてねーじゃねぇか」
ぐりぐりが更に強くなって涙滲んだ。死因がぐりぐりなんて嫌だ!!
「効いてたよ!バッチリ計算通りシズちゃん通ったもん!!」
あ、ぐりぐり止まった。
「は?」
「だからぁ、シズちゃんの回収ルートなんて把握済みだっつーの!」
「なんだ?俺が保険が?」
「そうだよ!バカっ!!」
これ以上完璧な保険なんてない。大抵の人はシズちゃんみて逃げ出すし、今日の奴らみたいな新参者も喧嘩売ったところで勝てるわけない。
「最初っから言えよ」
「あぅっ!」
最後に一発ゴチンされた。
「きちんと言ったら手伝ってくれたの?」
「テメェの胡散臭ぇ仕事なんざ手伝うかよ」
「ほらぁ」
頼んだって無駄じゃん。つか頼みたく無いけど。コネクションてのは大切だけどさ、恋人使うなんて三流だよねぇ。利用するくらいが丁度良いっつーの。

「俺が言いてーのは危険な仕事すんなってことだ」
「以後気を付けます」
悔しいよりも嬉しいと思ったのは内緒にしておこう。




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