3

「しばらく街から離れて、地下に潜ることにしたからさ。そのまえにこの街と俺自身に対する一つのケジメだよ」
幽君をダシにして、そんな一言で始まった追いかけっこもそろそろフィナーレだ。街は夕闇に染まり、不規則に刺さる標識はまるで墓標。

「地下とか胡散臭ぇこと言わねーでよ、どうせなら誰もテメェを知らない場所にしろよ」
肩で息をするシズちゃんが真面目くさった顔で言う。
ビックリした。シズちゃんがあの話を覚えてるなんて。高校時代の他愛もない会話なのに。
「覚えてたの?」
「テメェは忘れてたのかよ?」
「ううん。一日たりとも」
他人から見れば他愛もない会話だけど、俺にとっては理想ってヤツだもん。
「シズちゃんは付き合ってくれるの?」
「あ?」
「耳を塞いで、口を閉じた生活」
「あん時約束したかんな。テメェよぉ、もっと素直になれば楽なんじゃねーのか?」
「楽じゃないから楽しいのさ」
「ひねくれてんな」
「正反対の感情は常に紙一重で表裏一体。だからこそ、俺は人間を愛してる」
「くだらねぇ」
「シズちゃんは大嫌いだよ」
「そうかよ」
「そうだよ」
シズちゃんが握った標識がベコッと音をたてて折れる。
「乱暴だなぁ」
顔をしかめるとシズちゃんがこっちに来た。

「テメェがこの世に絶望したら言えよ」
「え?」
「テメェの鼓膜破いて、喉噛み千切ってやる」
言いながらシズちゃんの手が耳と喉に触れた。物騒なこと言ってるけど、とても優しい手つきで。
「汚い世界なんざ感じれなくしてやるよ」
優しい手に胸の奥が疼く。きっと気を抜いたら涙が出る。だからシズちゃんの目を見て頷くので精一杯だ。

「今ならあのクソッたれな精神学者の言いたいことが分かるな」
「あー?」
「俺は理想の為に、地べたへ這い蹲ってでも生きるよ」
「そうしろ。そしたら安心してテメェを殺せる」
安心して殺すって意味分かんないけど、凄くしっくりきた。だからこの場にもう少しだけ、留まりたかったけど無情にも時は来る。

「またね、シズちゃん」

本当はサヨナラって言うつもりだったんだ。嘘じゃない。本当さ。




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