5.二人の悩み

呪いが解けて2日もすると王をはじめ宮中の人々は城に戻り始め、1ヶ月経った今では何事もなかったかのように以前の生活に戻りました。
城の者達はデリックを受け入れました。正確には受け入れざるを得ませんでした。
呪いを解いた事も然り、公開演武で圧倒的な実力を証明し、また日々也王子の外交の場でも完璧な振る舞いを見せた彼を咎める事など誰にも出来ません。それに日々也王子の腹心であるデリックに手を出せば、死よりも恐ろしい結果が待つことを皆知ってます。
二人は全く順調にいってました。ただ一つの事を除いて…


「あー…ヤベェ。何年ぶりだよ」
ベッドに腰掛けたデリックは自分の股間を見つめます。そこはスラックスの上からでも分かるほどに勃ち上がっていました。頭を無造作に掻くと、仕方ないといった風で前を寛げ、ペニスを取り出しました。両手で掴んで上下に扱けば厭らしい音が室内に響きます。
「くっ……ぁ」
これまで見境無く手を出しまくっていたデリックは、夜の相手に困ることなど有りませんでした。
しかし日々也王子に何度か触れてみてデリックは、彼がこういう行為に慣れていない、あるいは嫌悪を抱いていると気付きました。ですから王子の緊張が解け、恐怖心が無くなるまで待つと決めたのです。初めて逢った日以来、ディープキスすらしてませんでした。
それなのに日々也王子は無意識で色気を振りまくから、堪ったものではありません。
出来る限り触れないよう過ごしてきましたが、先程も湯上がりの日々也王子は無防備に裸体を晒しました。と言っても身体を清めるのもデリックの役目です。本来は侍女の仕事ですが、日々也王子は新羅以外の付き人を付けなかったので、それらは全てデリックに引き継がれました。本来ならば一番喜ぶべき業務ですが、今のデリックにとっては拷問以外の何物でも有りません。おかげで数年振りのマスタベーションです。
それほどまでに日々也王子を大切に思っているのでした。

頭の中の日々也王子は脱がせ、はみ、味わえば恥ずかしそうに強請ってきます。デリックも優しく手を伸ばし、身体の奥に触れ―――


コン、コン、コン
静まり返る室内にノックが響きました。
デリックの部屋にプライベートノックで入ってくる者は1人しかおりません。
「入るぞ」
「はいっ!!?え、あ、どうぞ」
いきなりの事態に変に声が上擦り、慌ててシーツを手繰り寄せて下半身を隠しました。
「遅くにすまない。もう休むところだったか?」
「いいや。日々也ならいつでも歓迎さ」
近付いてきた日々也王子に笑顔で答え、自分の隣へ座るよう促しました。
デリックは肩へ寄りかかる日々也王子に手を回して抱き寄せたい気持ちでいっぱいでしたが、己の精液でベタベタだった手で触る気になれません。変わりに日々也王子の頭へ頬擦りしました。

「怖い夢でも見た?」
「茶化すな。まだ寝ていない。やはり迷惑であったか?」
今までならすぐ肩を抱いてくれるデリックが動かないことに不安になりました。肩だけではありません。キスの回数も日に日に減って、デリックが我慢してる事を知らない日々也王子の心は曇るばかりでした。
「まさか。さっき言ったろ?いつでも歓迎!日々也がいる場所が俺の居場所さ」
「……そうか」
「暗いな。なんかあった?」
覗き込むように顔を寄せると、日々也王子は更に俯いてしまいます。
「デリックは‥私が嫌いになったか?」
「は!?なるわけないだろ!」
「じゃあ何故触れない!!」
顔をあげた日々也王子の頬は涙に濡れておりました。
「日が経つにつれ、お前は冷たい!もう私に飽きたのか?なら要らぬとはっきり言ってくれ!お前の笑顔が、優しさが、辛くて堪らない…」
「どうして?俺は日々也に永遠の愛を誓った。偽りじゃない」
「ならば何故避ける?お前は私を避けているだろう?近頃は触れてもこぬではないか!初めの頃のような情熱的な抱擁も、優しい口付けも…」
「クソッ!」
デリックは日々也王子を押し倒し、荒々しく口付けました。
「んっ!!」
日々也王子が腕を突っ張って押し返せば、その腕にも舌を這わせます。
「ぃ‥ゃ…やめ、て」
小刻みに震えながら大粒の涙を流す日々也王子は、大変劣情を煽りました。

「怖いんだろ?」
「え?」
「セックス」
日々也王子の手を取り、さっきとは真逆の優しい口付けをします。
「気付いてるか?俺がキスしたり抱いたりすると、たまに震えてんだぜ」
「……………」
「でも俺も男だからさ、好きなヤツに触ったら我慢出来なくなる」
さっきよりは落ち着いたペニスに日々也王子の手を導きます。
「ほら。日々也見てこんななんだぜ?」
「あ、これ‥え…」
「だからなるべく日々也に触らないようにしてた。逆に不安にさせたな。ごめん」
デリックの熱に触れ、日々也王子は自分の胸の内が熱くなるのを感じました。
「イタッ!」
「えっ!?すまん」
無意識に力を入れた日々也王子にデリックが呻いて、慌てて手を離しました。
―――随分違うものだな
手に残る熱と感触に日々也王子は困惑しました。
「恥ずかしいからやめろよ」
無言で自分の手を見つめる日々也王子に耐えられなくなったデリックは、苦笑しながら自らの手を重ねました。
「信じてくれた?」
「疑った自分が不甲斐ない。本当にすまなかった」
「ん。俺もきちんと言うべきだったな。悪かった」

日々也王子がデリックの手を強く握ってきます。
「一週間で心を決める」
「あ?」
「一週間後、まだ私と褥を共にしたくば寝室に来い」
「無理すんなよ。俺はまだ待てる」
「愛とは、お互いが思いやるものだ。お前は私を大切にしてくれる。色々なものを与えてくれる。だが私はどうだ?まだお前に何もしてやれてないではないか!」
大きな瞳に涙を浮かべた日々也王子が切なげに眉を寄せました。
「そんなことない」
零れそうな涙を唇で掬い、頬にキスします。
「日々也がいるだけで幸せだ。こうして日々也に触れるだけで満足さ」
「でも足りないだろ?」
「まぁな」
ニヤリと見上げてくる日々也王子に、デリックは苦笑いしました。
「私も、もっと触れたい。お前が…愛おしいから」

この夜、日々也王子は生まれて初めて自分以外のベッドで眠りました。




[*prev] [next#]
[TOP]
[タイトル]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -