3.王子様と騎士

日々也王子は愛に飢えてました。いえ、愛を知りませんでした。
幼い頃に王位継承の陰謀に巻き込まれた母を失ってからは、他人を信じることは有りません。周りの動きに敏感になり二手、三手先を読んで行動しました。
結果誰よりも有能な王子になりましたが、本当に欲しいものは手に入りませんでした。
過去にも自分に愛を囁く者は数え切れないくらいおりましたが、みな権力や金目当てです。王子自身、自分の価値は王位にあると理解してましたが、心はついてきませんでした。
そのたびに王子は傷ついたのです。いつしか愛は要らないと思うほどに。
それなのに何故か、この男の言葉は信じれる気がしたのです。

「私を愛すというのか?」
「あぁ」
「私と永遠を過ごせるか?」
「無論」
「私の心はこの城よりも黒く奈落に落ちるようなものぞ」
「素敵だな」
「逃げることは許さない」
「縛ってくれよ」
「…………」
「もういいか?」
デリックが引かずにいると日々也王子は深い溜め息を吐き、意を決して顔を上げました。

「心は与えるものじゃない。奪ってみせよ、我が騎士」
「はい、我が君」
手の甲に誓いのキスをしました。そのまま手を引っ張り、バランスを崩した日々也王子を抱きとめて唇にキスしました。
「ふ‥んっ…」
デリックが熱い口内を蹂躙していると、自分の服を掴む日々也王子の手が僅かに震えてる事に気付きました。
「あんた、」
「ん‥?」
唇を離した日々也王子はトロンとした顔で呆けてます。
「いや、なんでもねぇ」
そんな顔を見せられては抑えが効かないので、目を逸らして会話を止めました。変わりに、これでもかと言うくらい強く、優しく抱き締めました。日々也王子もおずおずとデリックの背中へ手を回します。
「暖かい…」
「そうだな」
「ふふっ」
「ん?」
「名前。まだお前の名前すら聞いてない」
「あ。忘れてたな。俺はデリック。アンタは?」
「日々也だ。この国の者では無いのだな」
「まぁ‥な。色々あってよ」
「そうか。時間はある。後でゆっくり聞かせてくれ」
日々也王子は柔らかく微笑むと、デリックの胸に頭を預けました。




「うまくいったねセルティ」
『そうだな。これでお前も自由だ』
「ふふ。それだけどさ、最初から私は軟禁なんてされていなかったよ」
『は?』
「セルティも知ってるだろ?日々也と私は幼なじみだ。私は日々也の為なら自ら城に籠もるさ」
『だが…』
「日々也は私に余計なことは喋るなとしか言わなかったよ」
『!?』
「つまり君の早とちりさ。君こそあのナイトくんを、どうやって口説いたのかな?」
『全くお前も人が悪いな…私は何もしていないよ。ただあの男が勝手に動いたのさ』


あの時、セルティと対峙したデリックは言いました。
「……どいてくんねぇか?アンタじゃないだろ」
『?』
「この影はアンタのだけど、もっと別の何かがある」
『仮に何かが有ったとしても、進みたければ私を倒せ』
「ワリィ、女に手あげる趣味ねぇんだ」
セルティが鎌を振り上げるより速くデリックは間合いに入り、セルティの手を優しく去なしました。
セルティは敗北に脱力すると同時に確信しました。この男なら彼を止めれる、彼を守れると。

『アイツを、頼む。本当は悪い奴じゃないんだ』
「任せろ」
セルティは外壁を登る男を見上げ、永い間独りで生きてきた男の心の平穏を祈りました。




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