味覚

臨誕・手料理の話





『俺んち来い』
たった一言メールが来た。
今日は俺の誕生日で、シズちゃんが祝ってくれるらしい。
世紀末だな。


シズちゃんちに行くと、いつもの煙草の臭いじゃなくて美味しそうな匂いがしてた。
「なんの匂い?」
「ハンバーグ」
「ふーん。買ってきたの?」
「作ったんだよ」
「は?シズちゃんが?」
「あぁ」
「まさか…」
「まさか、じゃ悪いかよ」
「いや」
「食うのか食わねぇのか?」
「食べるよ」
「んじゃちょっと座ってろ」
シズちゃんがキッチンに行っちゃって、手持ち無沙汰だ。部屋をよく見回すと小綺麗になってる。
掃除までして、本当に祝う気でいてくれたんだな。
そんな些細な行動にまで心乱されてるとテーブルに皿が並べられた。

「どっから作ったの?」
「全部。テメェ、レトルトとか嫌いだろ?」
「えぇ!?デミソースも?」
「おう。幽にレシピ貰った。まぁ口に合うか分かんねーけどよ」
「へぇ…では、いただきます」
ハンバーグを口に入れる。
「――美味しい!!」
驚天動地とはこのことだ。
シズちゃんが作ってくれたっていう贔屓目抜きにしても美味しい。
「おう。愛情込めてるからな」
「っ…………当たり前じゃん」
顔が熱い。シズちゃんをマトモに見れなくて、ハンバーグを頬張る。
「熱っ!!」
中に入ってたトロトロのチーズが舌に直撃。つか、チーズとかどんだけ凝ってんだよ。
「おい、大丈夫か?」
悶えてたら水をくれて、急いで流し込む。
口の端に付いたソースを指で拭われて、
「そんなに急がなくたって、なくなんねぇよ」
って微笑まれた。
カッコイいな、チクショウ!!
シズちゃんの手料理食べる日が来るなんて想像もしてなかった。
しっかりした味からハンバーグもソースもきちんと下拵えした様子が伺えて、本当に手間をかけて作ってくれたのだと思う。

恥ずかしさから自分でも驚くほど早く食べてしまい、名残惜しい最後の一口をゆっくり咀嚼した。

「ごちそうさまでした」
「お粗末様。んな美味そうに食うは思わなかったぜ」
「本当に美味しかったよ?また作ってね」
シズちゃん、顔真っ赤。


今まで、俺に好意を寄せる人間の手料理は絶対に食べなかった。
気持ち悪いじゃないか!
俺は好きじゃないのに、俺を好きだなんて言うヤツの心の内なんて知りたくない。そんなモノを口にするくらいならレトルトの方がマシだ。

俺は昔からシズちゃんしか見えてなかったわけで、シズちゃん以外なんて興味ない。
そのシズちゃんが初めて料理を作ってくれた。
初めて、好意を体内に受け入れた。

シズちゃんの料理が口から食道を通り、胃に落ちる。
そして俺の血肉になるのだ。
それはとても甘美で麗しい。

だけど、とてもいけない。
こんなに感情溢れた料理を食べたら内側から浸蝕される。
外側なんて、とっくにメッキが剥がれて情けないのに。
シズちゃんに全てを晒け出しそうだ。

追い討ちをかけるようにシズちゃんが立ち上がる。
「プリンあんぞ」
「そこはケーキじゃないんだ」
「ケーキはまだ作れねぇ」
「…………あそ」
相変わらず予想の斜め上をいくシズちゃんのお手製プリンは、仄かに甘くて舌触りがとても良い。

ドロドロと口内に広がる甘さと柔らかさにまた蝕まれる。

一度知ったこの味は、一生俺を縛るだろう。
それを苦痛だとは思わない。

「臨也、誕生日おめでとう」
「ありがと、シズちゃん」

この愛しくも忌々しい感情を伝えるのに、今度俺の手料理をシズちゃんに作ってあげよう。

俺の料理は君の全てを飲み込むよ。
覚悟していてね、シズちゃん



臨也、誕生日おめでとう!
エロが間に合わなくてゴメンよ。静雄といっぱいにゃんにゃんしてくれ!!





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