キスの日

今日はキスの日らしいので。短文です。




「くせぇ」
臨也の横に座り、食後のプリンを食べていた静雄が苛立たしげに呟いた。
「ちょっと!いい加減それやめて。名誉毀損で訴えるよ?」
「そうじゃねぇ。いつもと違う臭いがすんだよ」
静雄が首や顔をスンスンと嗅いでくる。
―――――今日は四木さんに会ってないし、他に煙草吸う人も香水付けてる人も居なかったよなぁ・・・・・・
臨也は鼻を押し付けてくる静雄に眉を顰めつつ、今日の行動を振り返った。
「どんなにおい?」
帰宅後に着替えたパーカーも洗い立てで、思い当たる節もなく、首を傾げて静雄に聞く。
「ん。なんか変な鉄みてぇな臭い」
「えー?鉄?うーーーん・・・・・・わっ!」
腕を組んで考える臨也の鼻先に、静雄が噛みついた。
「不味い」
「バカ!いきなり噛んで、しかも不味いってなにさ!!」
ベチンッと臨也の平手打ちが静雄の頬に入る。が、叩いた臨也が顔を歪めた。
「いてぇ・・・・・・手前なんか塗ってんのか?」
「痛いわけ無いでしょ。あ、そういえば日焼け止め塗ってる。まぁ、確かに臭うよねぇ・・・・・・ケモノにはキツかったかな?」
臨也はクスクスと笑って静雄の顔を覗き込んだ。
「変なもん塗んな」
そう言って臨也の額にキスをする。
「変って言ってもねぇ。俺の白磁のような肌が焼けて荒れ爛れたらどうするの?シズちゃん、俺の肌すべすべで好きって言ってたじゃん」
目や頬に唇を落とされ、手で払う素振りをしながらも、気持ち良さそうに目を細めた。
「そりゃ困るけどよ。でも不味ぃ」
「痕付けたらダメだよ」
「チッ・・・・・・どこまで塗ってやがんだ」
ここならば、と鎖骨の窪みを舐めるが、微かに感じる苦みに顔を顰める。
「シズちゃんの唇、ひんやりしてるね。って、プリン食べたあとでそんなにキスされたらさ、ベタベタじゃん!」
「後で洗ってやるよ。この苦いのも落とす」
言いつつパーカーをめくり、露わになった肌へ吸い付いた。


「フフッ・・・・・・」
「なんだ?」
頭上で笑う臨也を、静雄が不思議そうに見上げる。
「キスっていっぱいされるとさ、大事にされてるって感じで気分良いねぇ」
胸や腰回りにも吸い付かれ、臨也の身体はほんのり紅潮している。
「手前が下らねぇことしなけりゃいつも大事にしてやるっつーの」
目を合わせたまま、真顔で言う静雄に、臨也は頬が熱くなるのを自覚した。
「そんなの、つまらないじゃない」
臨也は緩みそうになる顔をどうにか引き締め、静雄の右手を取ると、甲に恭しく口付ける。
チュッと音を立て、形の良い唇が離れるのを、静雄はスローモーションのように感じていた。
「知ってる?手の甲へのキスは敬愛なんだよ」
「へー。お前が敬うなんてことあんのか?」
「嫌だなぁ。雑多で、乱雑で、煩瑣で、煩わしく厄介な、いろいろなモノを取り払えたら、俺は君を心の底から敬えるよ?」
そのいろいろなモノは大抵臨也が勝手に拵えるものだ。
「んじゃ捨てろ」
「ヒャッ!」
静雄はあっさり言い放ち、臨也の足首を掴んで爪先へキスをした。
「ここなら流石に塗って無ぇな」
「・・・・・・・・・・・・」
満足げに笑う静雄とは逆に、臨也はフリーズしてしまった。
「どうした?」
ハーフパンツから伸びる白い足を掴まれたままの臨也が、真っ赤な顔をしてわなわなと震える。

「シズちゃんのバカ。死んで!!」


――――――爪先へのキスは、崇拝




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