11巻ネタです。

ほんの少し、ネタバレ的な11巻ネタ。
カラー口絵のあれやそれ



「やっほー!ご機嫌いかが?」
 留置所に似つかわしくない脳天気な声が、静雄の頭上から降ってきた。

「・・・・何しに来やがった」
 壁際に座っていた静雄は、顔も上げず苛ついた空気を纏って答える。
「何って決まってるじゃん。シズちゃんに逢いに」
 語尾にハートマークでも付きかねない調子の声の主、臨也が鉄格子に寄り掛かった。


「シーーズーーちゃーん」
「なんだよ」
「ここ、出ないの?」
「そのうち出る。そんで手前を殺す」
 天敵を前にして大人しい静雄に、臨也がつまらなそうに床を蹴った。
「ちぇっ!つまんなーいの。シズちゃん出てくんないなら、俺が入っちゃお☆」
「あ?」
 言うや否や臨也は扉に鍵を挿し、檻の中に入ってきた。
「うーん、狭い!」
 臨也が大きく両手を広げて、クルクルと回った。
「なんで鍵持ってんだよ」
「みーんな馬鹿だよねぇ。こんな鉄柵、俺達には無意味なのに」
 臨也は膨大なコネクション、静雄は唯一無二の腕力という絶対的な力の前に、国家権力など取るに足らないものだ。
 臨也が胡座をかいている静雄の上に、向かい合わせに座った。
「ねぇ?」
 両腕を静雄の肩に置いて媚びるように首を傾げる。
 それでも無視を続ける静雄に、臨也は唇を寄せた。
「やめろ」
 顔を逸らされ、臨也はムッとして静雄の顔を固定して無理矢理口付ける。
「っ!」
 両腕で頭を掴み、足も静雄に密着するように背中へ巻き付けた。
「んっ・・・・ふ、ぁ・・」
 自らの股間を静雄に押し付けつつ、甘い吐息を漏らして舌を絡める。
「お、おいっ・・・・隣の奴、居るだろ?」
 息継ぎの隙をみて、臨也から顔を離した静雄が小声で怒る。
「さぁ?急な腹痛だってさっき医務室に運ばれたよ」
 にっこり笑う臨也に、静雄は呆れた。
「溜まってんなら一人でシとけ、淫乱」
「だぁめ。シズちゃんとじゃなきゃ嫌な気分なんだもん」
 まだ逃げようとする静雄の顔や首に、臨也がキスを注ぐ。
「おい。その腹痛とやらは、どんだけ掛かんだ?」
 そのしつこさに静雄が折れた。
「シズちゃん次第」
 さっきまでの憎たらしい笑顔から一転、臨也の笑みは淫靡なものに変わった。
「っ・・・・ぁ・・ンッ」
 今度は静雄から口付けた。舌を絡め合いつつ、静雄が臨也のシャツを捲り上げる。
 ピクッと臨也が反応したが、特に気にせず脇腹を撫でた。
「ふっ・・シズちゃんのキス、好き」
 唇が離れた後、臨也がくてんと静雄の肩に頭を置く。


「おい、なんだこれ」
 生温い空気が漂っていた空間に、酷く冷たい声が響いた。
「え?・・・・なに?」
 気持ち良さそうに静雄へ凭れていた臨也が身体を起こす。
 静雄が捲ったシャツの下は、痣だらけだった。
 ただでさえ白い肌に、はっきりと残る無数の痣。紫色の新しい鬱血から、黄色み掛かった治りかけのものまで、体中にあった。
「あ、萎えちゃった?ハハッ!ごめんね。愛撫は良いよ。服も脱がないし」
「なんなんだよ!!」
 静雄はシャツを戻そうとする臨也の肩を掴んで、激しく揺さぶった。
「痛い」
「っ!・・・・悪ぃ」
 思わず謝って手を離す。
「ちょっとヘマってね。まぁ遊ばれたんだよ。あ、ヤラシイ意味じゃないよ?そーいうのはシズちゃんだ・・」
 言い終わらないうちに、静雄が抱き締めた。
「痛ぇのか?」
「全然。シズちゃんとの喧嘩に比べたら、子供みたいなものだよ」
 静雄の方が痛そうな顔をしたので、臨也は自分を抱く大きい背中を撫でた。
「馬鹿野郎」
 同じように静雄も臨也の背中を撫でる。
「お互いにね」
 自嘲気味に臨也が笑った。
「続き、シないの?」
 慈しむような仕草に、臨也は気を抜けば弱音を吐いてしまいそうになり、誤魔化すために先を強請る。
「しねぇ」
 短く答えると、静雄は臨也の首に吸い付いた。
「んっ!そこ、見えちゃう」
 首筋の、最も目立つ部分に赤い痕が残る。
 臨也が咎めるも、静雄はその周辺へ何度も吸い付く。
「ふふっ・・・・そんなに嫉妬してくれるんならさ、さっさと俺のモノになってよ」
「寝言は寝て言え」
 静雄は顔をあげ、柔らかく微笑む臨也にキスをする。
「おっと!タイムアップのようだ」
 舌を差し込もうとした所で、遠くに聞こえた足音に、臨也が身体を離した。
「チッ・・」
「アハッ!シズちゃんがソノ気だったらまだだったよ?」
 鼻から最後までヤるつもりは無かったのか、と舌打ちの意味を汲んだ臨也が答える。
 図星を突かれた静雄は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

 身なりを整え、臨也が扉の向こう側へ行く。
「手前こそ、さっさと俺のもんになっちまえよ」
 鉄格子の傍に立った静雄が臨也の後ろ姿に声を掛ける。
「死んでもゴメンだね」
「じゃあ死ね」
「ちゃんと殺しに来てよ。またね」
 臨也は振り返らず、そのまま出口へと消えた。


 再びシンッと静まり返った留置所。
「本当に碌でも無ぇ」
 静雄の手には、臨也の置き土産の鍵が握られていた。
「早く出所して、あのクソ蟲殺さねーとな」
 パキッと音を立てて鍵が折れる。ただの鉄屑となったそれを排水口に投げ捨てた。
「あんな害虫、相手すんのは俺だけで充分だ」



「シズちゃん早く脱獄してきてよ」
 高い塀に凭れた臨也が青空に呟く。 
「君が居ない世界は、こんなにも退屈だ」
 静雄に付けられた首筋の痕をなぞり、穏やかに笑った。




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