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生クリームプレイ





「甘いもの食いてぇ」
食欲の秋って言うだろ?と少年の様にはにかんだ静雄の為に、夜中お菓子を作る自分を健気だと臨也は思う。

「どう?シズちゃん」
「うめぇ」
ぶっきらぼうに答えてまた無言でパンプディングを食べる静雄に臨也は些か腑に落ちない。
テーブルに頬杖ついて甘ったるい匂いに溜め息が漏れた。
「そんなガツガツ食べてさぁ…もっと味わうとか、俺に感謝するとかないわけ?こんな深夜に彼氏のワガママ叶えちゃう健気な恋人にさ?」
トントンと指で机をノックする。
臨也は基本的に料理をしない。レトルトは嫌いと言いつつ、波江や外食に頼りがちだ。
だが惚れた弱味か静雄がなにか食べたいとリクエストすれば、わざわざネットで検索して作る。
そうなると凝り性の臨也は波江が使う日常的な調理器具じゃ物足りなくなって、本格的な製菓器具やらスパイスの類を集めた。おかげでキッチンは充実し、波江には一生結婚できないわねと言われる始末だ。

「うめぇんだよ」
「それは分かったよ。ありがと」
言っても無駄だと静雄から目を逸らす。
「もしかして食いてぇの?」
「いらない。シズちゃんみてるだけで胸焼けしそうだよ」
ただでさえ食が細い臨也はこんな時間に何かを食べることすら信じられない。
「ココア」
「はいはい。かしこまりました、ご主人様!」
もう反論する気も失せて席を立つ。
「アイスでいい?」
「おう」

砂糖多めのココアに、プディングで余った生クリームを軽くホイップしてのせる。6分立てで滑らかなクリームの上にチョコレートソースを掛ければ、どこぞのカフェのような仕上がりだ。
臨也は満足に仕上がったそれをテーブルへ置く。
「サンキュ」
静雄は礼を言うとグラスに口をつけ、ゴクゴク飲んだ。
分かっていた事だが、臨也は溜め息を止めれなかった。
「本当どうしたんだよ?」
流石に静雄も臨也の反応に疑問をもつ。
「気にしないで。分かってる。俺の自己満足なんだ」
少し沈んだ声色に静雄が顔をあげた。
「高級な材料を使うのも、見た目に拘るのも、俺の自己満足だよ。だからさ…ん?」
スッと目の前にココアが差し出された。
「飲めよ」
「いや、そういうことじゃ…」
「いいから」
臨也は仕方なく一口飲む。口内に広がった甘すぎる液体は内側から体全体に染み渡る。
「美味いだろ?テメェが作ったものは何でもうめぇ。早く食いてぇんだよ」
そう言って笑った静雄の前に臨也のモヤモヤは全て吹き飛んだ。
静雄のために作るものだ。静雄がどう食べようと自由で、美味いと言ってくれるならそれでいいのだ。凝り過ぎて目的と手段が逆転しかけたことを恥ずかしく思う。
「ありがと。また作るね」
いつだって臨也を揺さぶるのは静雄の一言だ。
臨也は悔しくも嬉しく思っているなんて末期だな、と内心自嘲した。




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