曇り空

9巻・七夕ネタ
弱気なシズイザ。






「おかえり!」
「…ただいま」
帰宅したシズちゃんを出迎えたinシズちゃんち。
「ちょっと、せっかくのおかえりに何さ!その顔」
「…………なんでもねぇ」
いつも以上に仏頂面で、明らかになんでもなくない返事。
顔を逸らしたシズちゃんに背伸びしてちゅーする。
「っ!」
「ご飯、冷めちゃうよ」
突っ立ってるシズちゃんの手を引いてテーブルについた。


夕飯を終えて、デザートのプリンを食べる。
ソファーなんて洒落たものは無いから、足を伸ばしてベッドに背中を預けたシズちゃんの腕の中が俺の居場所。ちょっと暑苦しいけどね。
テレビ点けたらニュースで七夕祭りの映像が流れた。
「シズちゃん今日七夕だって」
「おー。彦星と織姫逢えるといいなー」
シズちゃんたら純粋。
「残念だねぇ、今日は曇りだよ。天の川は霧の中」
クスクス笑ってシズちゃんの胸に寄りかかった。
「うぉっ!危ねぇな。プリン零れんだろ…つか、テメェ嬉しそうだな」
最後の一口を慌ててかき込んで空になった容器をゴミ箱に投げ入れた。
「ちょ、汚いなぁ。食べ物はキッチンに捨ててよ。黒いのでても俺倒せないよ」
「俺んちなんだから構わねーだろ」
ちょっとムカッてする。
「七夕が晴れる確率って26%だって知ってる?1年に1回しか逢えないのに、悲劇だよねぇ。凄く愉快」
嫌味に笑う俺に、シズちゃんが露骨に嫌な顔をした。
「テメェはマジでクソだな。自分がその立場だったらどーすんだよ」
「俺とシズちゃんが年1でしか逢えなかったら?そんなの決まってるじゃん。シズちゃんを殺して俺も死ぬよ。こうやって…重なり合ったままさ。シズちゃんは?」
身を捩って腰に回された手を自分のと絡めた。
「俺は…どうにか逢う方法を考える」
握った手に力が籠もる。
本当、俺たちって対照的。文句を言うのが精一杯の俺はいつだって能動的なシズちゃんに憧れる。
「1ヶ月でも限界なのに、1年とか不可能だろ」
唇がうなじにあたる感触。プリンのせいか、ひんやり冷たくて気持ちいい。
「1ヶ月位なら仕事で逢えなかった事もあるでしょ?」
仕事という名の雲隠れだったりもするけど。
「今は無理だ。最近テメェがちょこちょこ俺んちいるし。正直、1週間でも嫌だ。なのにテメェは平気な顔しやがって…居ねぇなら最初っから最後まで居なくて構わねーんだ」
「珍しく弱気じゃん」
握られた手が痛い。背に回された腕も力が入って骨が軋みそう。
「怖えぇ。ドア開ける度。テメェがいたら嬉しくて、いねーと悲しくて」
そういうことね。意外に愛されてるなぁ、俺。
「シズちゃんの馬鹿。本当に俺が平気だと思ってる?性格分かってるでしょ…今更言わせる気?」
俺たちの間には天の川どころか、ベルリンの壁も38度線もない。
あるのは俺の安っぽいプライド。
「ねぇ…俺さ、悪い奴だよ?」
「なんだよ、今更」
「これからもっと悪いことする。たぶん友達であろう人も、シズちゃんも傷付ける。それでもシズちゃんは俺を信じてくれる?」
「テメェが胡散臭ぇ仕事辞めればな」
「ハハ。それは無理かな。みんなが知ってる折原臨也は信じなくていいよ。でも、君しか知らない折原臨也は信じてね」
これからの事を思ったら少しだけ、胸が痛んでシズちゃんに甘えたくなった。
「だから今更だろ?今までだってセルティだのガキ共騙して、嵌めて、傷付けて。んで俺がテメェを殴ってよぉ。それが今の関係に影響したか?」
シズちゃんの言葉に首を横に振る。
「全然。だからもっと好きになる。シズちゃんモテるから嫉妬で死ねって思うし、俺といるときのカッコイいシズちゃんはずっと一緒にいたいって思うし。でも俺の計画を邪魔されたときは苛ついて、本当に死ねって思う。本心そのものがころころ変わるんだ」
「俺もだ。ムカつけば殴るし、可愛ければ抱きしめてぇ。テメェがころころ変わるから俺も変わる」
「そっか」
吐き出したら楽になった。シズちゃんの言葉に救われた。
自己満足の懺悔に恋人を付き合わせるなんてダサいなぁ、俺。

「実は俺、今池袋に住んでる」
「…俺の鼻鈍ったのか?」
シズちゃんの額に青筋が浮いた。
「木を隠すなら森の中。最近シズちゃんちに入り浸りだったもん」
「で、殴っていいか?」
「うーん…今は嫌。もう少し、幸せな気持ちでいたい」
「幸せ、か」
「うん。幸せ。」
シズちゃんの胸に耳を当てて、シズちゃんの鼓動を聴きながら抱き締められている今は最高に幸せ。
「彦星と織姫ってよぉ、新婚生活楽しくて仕事サボったから引き離されたんだろ?」
「あー、そんな話だったねぇ」
「ならよ、俺が一緒にいたらテメェもくだらねー真似しなくなっかもな」
「…………なにそれ?ていうかシズちゃんと俺の新婚生活が楽しくて仕方無い前提の話じゃん」
いきなりなんの話かと思った。
遠回しでシズちゃんらしくない。言いたいことは分かってる。俺も同じ事言いたかったから。
だから言わせてやらない。

「シズちゃん、コレあげる」
「鍵?」
ポケットから、池袋にある俺のセーフハウスの鍵を出す。
「数日過ごしたけどさ、やっぱこの部屋狭いし、靴箱無いし、薄汚いし、ガスコンロ1つだし、お風呂小さいし、追い焚き出来ないし、壁薄いし、諸々あって兎に角住みにくいんだよね。例え晴れたって天の川なんて見えないでしょ?まぁシズちゃんの安月給じゃコレが限界かもだけどさ。俺は別だし」
言い訳だけはスラスラ言える。
「もっと可愛く言えよ」
鬼!悪魔!!

「……シズちゃん…もし‥よかったら俺と、暮らして下さい。嫌なんだ。ドア1枚でも、俺とシズちゃんの間に何か有るのは」
握った手が解かれる。
言わせた癖にダメなのかって絶望したら、頭を撫でられた。とっても優しく。
「1つだけ約束だ。ぜってー黙って居なくなんなよ」
ドスの効いた声なのに、顔は泣きそうなシズちゃんが鍵を受け取る。
頷いて、不覚にも俺の視界も滲んだ。

小さい窓からビルの谷間の曇り空を見上げる。
来年の七夕はマンションの最上階から不幸なカップルの逢瀬を祈ってやろうと思う。




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