食前酒

「判決。田口真由美を死刑に処する!」

 傲岸不遜に、男が言った。
 部室に集った六人分の狂気が肯定の声を上げる。
「どんな風に殺そうか?」
「いつも通り、ターゲットを夜に呼び出す。見つけた者から………」
 こうだ、と、眼鏡の男が首をかき切る動作をした。
「決まりね。じゃあ、誰が彼女を呼び出すのかしら」
「そうだな…。福沢、同じ学年だっただろう。クラスは知っているよな?」
「もちろん、知ってまーす」
 快活な笑顔の女生徒が明るく答える。
 眼鏡の男は満足げな笑みを浮かべ、皆に向き直った。
「それでは諸君、明日が奴の命日だ。血湧き肉踊る日になるよう、願っておこう」


 ***


 今日も退屈だなあ。
 この学校は何かがおかしいと聞いていたから、いい退屈しのぎになると思って入学したのに、未だ霊体験の一つもありゃしない。やっぱり旧校舎に突入するしかないのかな。
「真由美、ちょっと」
 漠然とした不吉な考えを抱いていると、友達の呼ぶ声がした。
「どしたの?」
「福沢さんって子が呼んでるよ」
 指された先を見る。戸の近くに立っている愛嬌のよさそうな女の子、あれが福沢さんだろうか。
 誰にしても、知らない子だ。
 友達に礼を言い、福沢さんの方へ向かうと、いきなり彼女は満面の笑みを浮かべてきた。
「こんにちは! えっと、田口真由美さんであってるよね?」
「う、うん」
「よかった。あっ、私はG組の福沢玲子って言いまーす。よろしく」
 ぺこり、と大げさにお辞儀。
「それでね、ちょっとお願いがあるの。今日の放課後、ちょっと新聞部の部室に来てほしいんだ」
「新聞部? どうして?」
「私の友達が新聞部員なんだけど、どうしても田口さんに取材を受けてもらいたいんだって。それで伝言を頼まれたの。そういうことだから、よろしくね!」
 返事も待たずに早々と、福沢さんは廊下を足早に歩き去っていった。
 …新聞部ねえ。取材受けるようなことって、何かしてたっけ。まあいっか。
 教室に戻り、席に着くと、友達がニヤニヤ笑っていた。
「あんたも隅に置けないねえ。新聞部の取材だって?」
「取材受けるような真似した覚えないんだけど。今日は雪が降るかも」
「そりゃそうだ。雪どころか槍が降るよ」
 茶化されても、怒る気なんて微塵も湧かない。今の私はとんでもなくワクワクしているのだ。
 きっと、何かあるに違いない。私の退屈を無くしてくれそうな、何かが。
「ねえ真由美、この学校に伝わる噂なんだけどさ、知ってる?」
「んー? 水泳部の話か、美術室の絵か、はたまた宿泊施設の噂とか?」
「…結構知ってるじゃん。けど違うんだよ、殺人クラブって知ってる?」
「殺人クラブ?」
 あー、あの物騒な名前の。
 あれって、噂だけが独り歩きしてて、知ってる人って誰もいないんだよね。まあ、知れば口封じされちゃうからかな。
「聞いたことはあるね」
「何だそりゃ、つまんない。あんた、怖い話知りすぎだよ」
「どーもすみませんね。ていうかさ、なんで突然殺人クラブのことなんて話したの?」
「あんたっていつも退屈そうにしてるじゃん。ちょっと刺激のある話とかしようかなーって思って」
 殊勝なことだ。
 なるほど、殺人クラブか。昨日までは歯牙にもかけてなかったけど、なんか急に興味が湧いてきた。
 もし本当に存在するというのなら、ぶっ潰してみたいもんだ。
 この上なく爽快に晴れやかに軽々と、大気圏外まで吹っ飛ぶくらいの一撃をお見舞いしてみたいもんだ。
「ありがと、いいこと聞いた」
「いいってことよ」
 二カッと悪戯っぽく笑った友達に、私も笑顔を返す。
 放課後は楽しくなりそうだ。血湧き肉躍る時間になるよう、考えておこう。
...
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