「お転婆なんて、久しぶりに言われました」
「ほう?」
「私がまだ蒲公英のように幼きころ、亜渦中先斗通り四ツ辻の坂道を、まな板一枚に跨がり、一気に滑り降りて、兄や友人の心臓の早鐘を、これでもかと言うほどの最高潮へとお迎えしたことがあります」
「これはこれは、なんとも勇敢果敢なお嬢さんだ。亜渦中先斗通りの坂道と言えば、町一番の急斜面と長距離を誇る地獄坂ではないのかな? お転婆では済まないじゃじゃ馬のようだ。末恐ろしい童女だったんだねお嬢さん」
「恐れ入ります」


私の幼少期の武勇伝を聞いて、絢は「んんっ」と咳ばらいをした。
ああ、話が逸れた。

閑話休題。


「とにかくだ、花盗人とお転婆なお嬢さん。君達二人が酌羅の家に忍び込もうと言うのなら、私は君達を止めなくてはならない」
「忌ま忌ましい魔法使いめ……」
「青二才のガキが。またの名を、偏屈大魔王の末裔が」
「そんなまたの名はない」
「そうか、まだ名付けられてなかったのか。ならば私が名付けてやろう。今日からお前は偏屈大魔王の末裔だ」
「断固拒否だ。粛清されろ」
「やれやれ」


そう言って魔法使いさんは肩を竦めてみせた。


「さあ、花盗人よ、お嬢さんよ。酌羅の家に忍び込みたければ私を倒してからにするのだ」
「そうか、それなら話は早いな」
「そんな、酷いことはしません」


私と絢は顔を見合わせた。
絢は少し怒りを込めたように眉を寄せている。琥珀色の品のある瞳は私を射抜いていた。


「飴乃菓、どういうつもりだ」
「絢こそ。絢、茨使うつもりでしょう? やめて。魔法使いさんが怪我しちゃうよ」
「ふざけるな。魔法使いをよくも知らないお前が勝手を言うんじゃない。あいつは生半可な気持ちじゃあ倒せない」
「そうだぞ、私をナメていたら痛い目を見る。私の“五重必殺・アンコウの干物パンチ”をお見舞いしてやろう」
「アンコウの干物パンチ……なんて非情な攻撃……!」
「むしろ非常に阿呆らしい攻撃だろう、お前も目を見開くな」


そう言って絢は私を睨んだ。

魔法使いさんは屋形から降りる。カンッ、と一本歯の高下駄が甲高く鳴った。


「花盗人、お嬢さん。君達は、酌羅が何をしたか知っている……という認識でよいのかな?」


その口ぶりから、やはり菩薩堂のお爺さんがお天道様を盗んだことを確信した。


「はい」


私は頷く。



::
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -