私は麒麟姉妹と共に魔性の坂道を下り、枝分かれした道で離別をして、路地を歩いていた。まだ空は暗く、だが人気が段々と見え隠れしてきていた。

お天道様が盗まれた―――ねえ。

私はため息をついた。
お天道様を盗むような人間がこの町にはいるのか。そんな、杏子と柚子を小馬鹿にした水草くんよりも酷い、大悪人が。
いや、厳密には、お天道様は誰の所有物でもなく、空を輝かせているにも関わらず簡単に取り外しは可能なので、盗むという行為自体は誰にでも出来る。大した芸当ではない。私だって、ちょっと屋根から梯子を伸ばせば、簡単に取ることが出来るだろう。
問題はその取り外した真意だ。
お天道様の御光を独り占めしたいが為か、人々を困らせてせせら笑う極悪非道の狂喜が為か。
いくらなんでも酷い。
お天道様だって可哀相である。

私は、空を見上げる。

お天道様が昇らないせいで、学校は休校、街は過疎、今や雀の囀りさえ幻のよう。これでは胡蝶の夢だ。

私は一つの覚悟を決める。
学生鞄から昼食のデザートの予定だった赤く熟れた林檎を取り出して、一口しゃくりとかじる。そのまま路地を右折して、裏路地を歩み行く。
正直なところあまり気乗りはしないが、勉学を励む身としては致し方ない。きっと“彼”なら、何か知っている筈だ。

夜よりも一層薄暗くなり、まるで烏の羽のような闇が生まれる。暫く突き進むと、電光板のバチバチッという力強い音。鼻腔を燻るこのお酒の臭いはきっと、密取引したと言われる電気ブランに違いない。幾重にも繋がれた布地が電線から吊り下げられていて、見るからに妖しい雰囲気がある。赤っぽい煉瓦の道を踏み締める度に、妙な気分へと誘われる。

両脇の高い壁の向こうからは、女性の艶っぽい嬌声らしきものが聞こえて来る。私は溜息混じりに林檎をまた一口かじった。

一つ弁明させて頂こう。
私はこのような界隈には興味も無いし経験もない。所謂“夜の蝶”になるつもりも毛頭ない。私の将来の夢は、子供たちから光輝な視線を向けられるような可愛らしい物語を描く、健全な絵本作家になることだ。もしこのような自体につき、皆様が私の生活を誤って認識されたのなら、それは反古。ご理解頂きたい。

また迷宮のような裏路地の深みへと足を運ぶ。無機質な電光で影を作り、しかしそれはまた影に消える。

セーラー服のプリーツスカートを揺らしながら、また一口林檎をかじった瞬間―――――――。


「飴乃菓」


激痛が、私の身を蝕んだ。



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