俺の父親、深海魚(ふかみ・さかな)と母親、淡水魚(あわい・みな)も*+αの戦奴だった。つまり家族揃って奴隷だというなんともマヌケな構図が出来上がるのだが、俺達の場合家族ぐるみで奴隷になったわけではなく奴隷が家族になったのだ。
*+αでは、まずありえないことに、戦奴同士が恋に落ち契りを交わした。
母親は俺を産んだあと父親によって殺され、次の試合で後を追うように父親も死んだらしい。

まだ赤ん坊の、俺を残して。

つまり俺は、赤ん坊の頃から*+αにいたことになる。物心がつくまでは施設で育ててもらっていたのだが、十つにも満たない頃には一介のプレイヤーとして殺し合いに参加させられた。

がむしゃら、だった。

毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際で敵だらけの世界で。年齢というハンデを背負っている分、あの中の誰よりも必死に真剣だったのは間違いないだろう。
誰もが俺を嘲笑うなか。
俺はある一つのことに気付いてしまった。

それは、俺には大層、“殺しの才能”があったということだ。

必死だった精神に、花開く才能、その二つが未熟な身体の俺を永世トップにまでのし上がらせた。
よくよく考えてみれば、運命だったのかもしれない。
両親が*+αの戦奴だった時点で俺の運命は決定されていたのかもしれない。
ビギナーズラックじゃない。
ダークホースでさえもない。
この俺、回遊魚は。
純然に純粋に、殺し合いにおけるスペシャルスペシャリスト――――――*+αのサラブレッドだったのだ。



「その回遊魚も墜ちたもんだね。まさか*+αから逃げ出すだなんてさ」



啄木鳥は相変わらずの眼差しを俺に向けていた。射抜くと言うよりは突き刺すような。それこそ嘴で貪るような、鋭く尖った視線。


「ガッカリだよ。俺は君みたいな人間の二代目だなんて言われていたんだね…………まあいいや。……さて、臆病な先輩。君は今から*+αに帰らなきゃいけないよ。それが俺に与えられた任務なわけだし」


俺は何も言えない。
固まったような心にやつの声が反響するだけだった。


「早くしないと、この二人を殺しちゃうよ?」


ギラッと嘴のような剣を光らせて啄木鳥はニヤリと口角をあげた。


ああ。
最低だ。
俺は。


逃げる間だけの関係だったのに、あんなにも心地好い関係だったのに。こんな形で壊されてしまうなんて。

逃げられなかった。
逃げきれなかった。

やっぱり、俺は、逃げ出せずにズルズルと、このまま逝きていくしかないようだった。


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