逃げても逃げても逃げられない。
逃げても逃げても逃げきれない。
二年前、あの《底》から命からがら逃げ出したところで、結局のところは同じだった。何も、変わらなかった。
この広大な世界の北の国の、小さな街の中にある建物の中、更に小さな俺の世界。
どう足掻いても、結局は変わらないんだ。
どうもがいても、結局は。
だけどね。
だけど。でも。
お前は違うよ。
絶対に、お前は変わったし、逃げ切れていたよ。
誰がなんと言おうと。
お前は幸せだったはずだ。
本当だよ。琢磨。
*****
《ギルド》と呼ばれた青い美しいビルディング。
俺、萵苣、スケベ女が駆け付けたときには、外からでもわかるほどにまで血の匂いが蔓延していた。あからさまなその匂いに萵苣とスケベ女は顔を苦める。
しかし、俺は間髪入れずにそのビルディングに入ることを選んだ。ゆっくりと、開けっ放しにされたドアから、建物内に入る。
すると。
「……………ッ」
一面の、死体。
まるで咲き誇るように赤い血を拡げて。《ギルド》の人間たちが、無残にも死んでいた。
そして、真ん中には、マリ=ファナと琢磨の冷え切った身体が――――…………。
「たくっ…………」
「え……っ」
俺に続くように中に入った萵苣とスケベ女のが身体硬直させた。その匂いと、赤と、無残な状態に、烈しく動揺していた。
俺は歯を食いしばる。
まただ。
まただった。
俺はどう足掻いても、こんな血濡れた光景しか瞳に映せなかった。
――――血の華の香りで、身体中がいっぱいだ。
手には厭な感触がこびりついて離れない。もう慣れてしまった刃の重みは、体感としてゼロに近い。
誰かが言った。
虐げられた灰被り姫だって他人事には思えないな。
誰かが言った。
ここから抜け出せるなら地獄だろうが喜んで行く。
誰かが言った。
ブリキの様に心が無ければ苦しまずに済んだのに。
誰かが言った。
誰かが言った。
誰かが言った――……。
――お前、なんで死んでんだよ。
紛れも無い、俺の言葉だった。
なんで死んでんだよ。
バカなの?
アタマおかしくなったの?
お前、あの切磋琢磨なんだろ。
死んでんじゃねーよ。
ふざけるな。
よりにもよって。
お前から。
こんな光景を見せ付けられるだなんて、夢にも思ってなかったんだからな。
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