緑川萵苣と花瓶硝子は、非戦闘員である。
回遊魚と共に三人で旅をするにあたり、戦闘員は回遊魚が担っていた。
緑川萵苣は機械工学担当。花瓶硝子は地学、処世術、その他諸々、二人に欠けるものを補う役割。
つまりは、三人が三人足りないものを互いで補い合っていた。回遊魚、緑川萵苣、花瓶硝子の奇妙な関係性は、この偶然の不一致の一致により生まれたものである。


「くっそ、一体どうなってんだよ畜生ッ!」


緑川萵苣は苛立たしげに車のハンドルに拳を振りかざした。走行中の無邪気な音に、その粗悪な音が折り重なる。助手席に座る花瓶硝子は口元に手を当てて俯いたままだ。


「ああもう、くそっ、くそっ、なんなんだよ。なんなんだよ“あいつら”は!」


彼、彼女が、自分たちの荷物を全て車に詰め終わり、車に乗った正にそのとき。強靭な武器を持った三人の青年が、《ギルド》と呼ばれる青いビルディングの中へ入っていった。
最初は《ギルド》の仲間かと思っていたのだが、どうやらそうじゃないらしい。

彼らは、虐殺を始めた。

悲鳴が。
血飛沫が。
怒号があがる。
緑川萵苣は戦慄した。

すぐさま《ギルド》に戻ろうとするが、花瓶硝子がそれを制す。冷静な対処として、回遊魚にそれを伝えることを選んだのだ。


そう。彼、彼女は。
非戦闘員である。


「あたし達が戻ったところで何も出来ないわ。とにかく魚のところへ急ぎましょう」
「っだぁぁあ、もう! わかってんだってそれは!」
「…………でしょうね」


花瓶硝子は、困ったように肩を竦めた。緑川萵苣の心境を、花瓶硝子が解さないわけがなかった。たった数日とはいえ、自分たちを持て成してくれたあの優しい人間たちが、今も一人一人殺されていっているのだ。
花瓶硝子も、そうだった。
落ち着き払ってはいるけれど。
冷静な判断を下し得るけれど。
心臓は落ち着き払えない、手汗が湯水のように溢れ出る。頭がクラクラした、倒れそうだった。彼らの命がかかっているんだ。
でも。
この場での対処を論じるのは、彼女の“担当”なのだ。

花瓶硝子は深呼吸をする。


「祥玲は、奴隷狩りは《ギルド》から約一キロのところに見えた、と言っていたわよね」
「あ? ああ!」
「この辺りは視野も開けていることだし、誤差は無いものとしましょう。尚且つ《ギルド》の立地視界の悪い屋上からでも見渡せるとしたら、余程そこは日が当たるのか建物との隙間が大きく連なっているか。要害堅固が死んでいた場所との位置関係も考慮するなら……、そうね………………サタニズム通り“505”!」
「オッケイ!」


緑川萵苣はハンドルをきり、サタニズム通りに向かう。アクセルを踏んでスピードをあげた。


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