「なにこれ、あっま!」


星屑を散りばめたきらびやかな夜のとある部屋。
まだ若い、二十代前半ほどの細身の女が、ティーカップを口から離して顔を渋らせた。木板の床に、鈍重そうな機材を置いて、淡い色の携帯電話も無造作に放りだしている。そんな床の、月明かりの漏れる窓の傍に座り込む女。
カーキ色の薄手のロングコートにフレアなロングワンピース。外出用のナイトキャップからはみ出る長髪は、まるで発光しているかのようなプラチナブロンドだ。瞳は宝石のように蒼く、深い叡智を湛えるようだった。真珠のように白い肌。線の細い、整った顔立ち。静かに薫るようなその女、戦争谷騒禍は、「うげー」とカップを脇へ追いやった。


「Oh,何してるんだいミレディ。まだ一口しか飲んでないんじゃないかな?」
「あはははっ、じゃあアンタが飲んでみなよ鳥。ゲロ甘すぎで笑えるから」
「それは一体なんでござるか? 姐様」
「ん? 紅茶にジャム入れた飲み物だよ。天子」
「それは物凄い甘そうなんだぜ! よく飲む気になったんだなあ、ご主人!」
「まあね。誘くんがおいしいよって勧めてきたし……。はあ。彼が甘党なの忘れてた。あたしの口には合わないな。雀、いる?」


戦争谷騒禍は、部屋の奥の天蓋つきベッドに寝転ぶ三人の青年に目を遣った。
煌びやかな軍服を着た啄木鳥。
三人の中で一番小柄な金糸雀。
雪のように白い軍服の告天子。
紅茶を勧められた金糸雀は首を振って、遠慮を申し入れた。彼の手には、床に転がっているアイスボックスに入っていたであろう、レモンスカッシュのアルミ缶が握られている。

戦争谷騒禍は喧嘩誘発屋である。
旧くよりの知人、誘誘の依頼により、彼の経営する最難獄奴隷施設“*+α”から逃げ出した《回遊魚》を捕獲しろ、という、喧嘩誘発屋らしからぬ依頼を受けている真っ最中だ。
しかし。
彼女の力では、*+αの永世トップだった《回遊魚》を相手取れないと踏んだ誘誘は、*+αから三人、彼女の援護をするように送りつけた。それが軍服姿の三人の青年、啄木鳥、金糸雀、告天子である。つまり、彼ら彼女の間柄は、極めて格差の広い主従契約関係にあるのだが。三人は大して敬うことなく、また、彼女も気にせぬ態度で接していた。


「あっれ。何それ、アンタ達美味しそうなもん飲んでるね」
「おかしなこと言うね。ミレディが用意したんだろう?」
「あはははっ、そうだっけ? じゃあ勝手に飲まないでよ」
「まあまあ、そう言わないでよ。ほら、ミレディもどうぞ」


啄木鳥はアイスボックスからキウイの缶ジュースを取り出して、戦争谷騒禍へとパスした。
彼女はたどたどしい手つきでそれをキャッチして、そのアルミ缶をじっと見つめる。


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