砂場砂地は医者である。
むしろ医者以外の何者でもない。
幼い頃から医学の道を目指していたし、若い頃からその才能に熱い期待が寄せられていた。実績を重ね、功績を残して、その才覚を奮う彼は、彼自身をも信頼させるほどにまで熟達していた。

しかしある日。そんな彼に、一つのやっかいな仕事が舞い込んできた。

二桁もの病院でたらい回しにされ三桁もの医師に匙を投げられた、哀れな少女の治療だった。
大したことはないと。
そう思っていた。
そのとき、若き彼は、己の力を過信していた。いや――――事実彼は力があったが――――その力を勝るほどの難病だったとは、知る由もなかったのだ。

そして、彼は、少女に出会う。

初めて彼が少女を見たとき、その少女は血の海の中で、必死に喘いでいた。必死になって、真の意味で“必死”になって、死に物狂いで、足掻いていた。
彼は深く息を止めて、目を見開かせる。
愕然とした。
失礼極まりなく、不謹慎極まりなく、彼が初めてその少女を見た瞬間まず浮かんだのは――ゴミのような有様だな――という感想だった。いや、その言い回しにしたって、かなり柔らかく置換されたものだろう。
正直な話。
ゴミだと、思ったのだ。
治療を依頼された、少女の姿を。
身体は酷く痩せこけて、肩は華奢という表現を遥かに超越するほど小さく細い。手首も脚も腰にしたって、肉という肉の所有を拒否して、まるで干からびたかのような状態だった。肌の色は磁器のように白い。それにしたって、白いというよりも青白いという表現がぴったりで、血なんてものは通ってないはずだとさえ感じる。透けるように淡いプラチナブロンドの髪はあちらこちらに絡まり縺れキューティクルを失っている。うっすらと開かれた幼い碧眼には、絶望と悲壮と諦観以外の何も見出だせない。身体は血に塗れ、骨は砕け折れ、薄気味悪く変色し、人間と呼ぶには些か抵抗の感じる有様をしていたのだ。
彼は少女の身を預かっている病院の医師に状況を尋ねる。医師はどうも歯切れの悪い返事しかしなかった。
原因がわからない。今までの症例にない。特効薬もない。例え一つの症状を抑えるために処方したところで、別の面に被害が及びマイナスの割合のほうが高いのだという。
症状は悪寒、痙攣、嘔吐など軽度のものもあれば、臓器腐敗、骨軟化症、心筋梗塞など重大なものにまで及ぶ。
生きていることが、奇跡のような少女だった。
生きていることが、息をしていることが、産まれてこれたことが、奇跡のような。


不治の病。


何年もこの地獄の中、少女は闘病したに違いない。
――――いや。
戦うことすら、出来なかったに違いない。
一方的に加虐され、暴虐され、心安まることなど一瞬一刹那一時たりともなくて。
それでも懸命に生きてきた。
ただ生きていたくて。
死にたくなんかなくて。
こんな“死に至った病”に、嬲られながら。

彼は――――ある薬液の開発に乗り出す。

どんなに彼が足掻いても、少女の病気の全てを知ることは叶わなかった。完全に少女を治せる方法なんてものは見出だせなかった。
だからせめて。
彼女が生きていきやすいように。
嬲りものにされないように。
絶望色の目をした少女に、そんな色をしなくてもいいんだよ、と。
悲壮の影を落とす少女に、君にだって光はちゃんとあるんだ、と。
諦観の深みを極む少女に、浮かび上がる未来を与えたいから、と。
彼は、現存するあらゆる症状を抑える薬液を作った。
あの薄汚れた、ゴミのような少女を助けたくて、死にかけの少女のためだけに作られた――――“必殺”技。

デッドリーストライク。


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