“私達、二人で生きていこうね”



*****



二人でいられるわけがなかった――――今でもそう思う。あのとき林檎は言った。俺と林檎、どこまでだって行けそうだ、と。でもそんなわけ、なくて。俺が、駄目にしたわけで。そして。


「やあ、おはよう緑川萵苣くん。実に久しぶりだね、緋暮城苺味は会えて嬉しいよ」


俺を唆した蛇のような女が、目の前にいる。
そいつは、にぃんやり、と口角を吊り上げた。

林檎よりも苛烈なくらい赤々としている、深い緋色の髪。髪色と同じく獰猛な緋色の目は、爛々と輝いて俺を見つめていた。絵画に描かれている幼い天使のような、あどけなさと妖しさを内包したその少女。
服の袖はまるっと蛇のパペットマペットになっていて、シルエットは笑えるくらい滑稽だ。頭に乗せられたヒダ付きのベレー帽は、まるでヘタのように見える。
カシャン、と。檻の太い鉄棒が揺れた。檻の外にいるビターが眉根を縛ったのがわかる。
俺はビターの隣で笑う少女をすがめた。


「緋暮城……苺味……」
「そうだよ。よく覚えていてくれたね、萵苣くん。 “落ちこぼれっつってもバカじゃねーみてぇだな!” “そりゃそうよ。《赤い実》である苺味ちゃんのことさえわからないんだったら本物の無能よ!” こらこら、あんまり乱雑な言い方をしないでくれないか二人とも」


緋暮城苺味はパペットマペットに向かって話し掛けた。器用にこなす様はまるで学芸団員さながら。奇抜な色の容姿も手伝って、ピエロにさえ見えなくもない。
たが、それより。
俺はさっきの緋暮城苺味の言葉に耳を疑っていた。


「《赤い実》……だと……?」
「ああ、そうだよ。この緋暮城苺味がね」
「……五代目に、襲名したってわけか」
「その通り!」


《赤い実》。
才知畑の最高点。誰よりも何よりも知り尽くし究めつくした人間に与えられる、最上位の通称。
前代は、四代目――神童・赤果実林檎。
だが、林檎は消えた。
そして。


「五番目の《赤い実》――秀才・緋暮城苺味だ」


こいつが――――《赤い実》に。


「君が《リンゴ》を食べたことにより、次点で高位だった緋暮城苺味が《赤い実》に選ばれたといわけだよ」


その言葉に俺は目を見開く。
相変わらず緋暮城苺味は笑ったままだった。
あのときと、同じ。
――食べればいいんだよ。
唆すような、目で。


「まさか、お前……自分が《赤い実》になりたくて、俺を唆したんじゃないだろうな」
「“答える義務はねぇな” “それに、たとえそうだったとしてめ苺味ちゃんに罪はないわ!”」


そりゃそうだ。
緋暮城苺味は。
あくまで食べてないんだから。


「……は、あ……苺味って……、どっかで聞いたことがある名前だと思ったら…………お前」


――もうすぐ定期発表会だっていうのに、苺味ったら何を発表会するのか教えてくれないの!


「林檎の、友達か」


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