とりあえず。
俺達の話をしようか。
なに、そんな大した間柄なんかじゃない。
ただただなし崩しに、ただただ堕落的に、それでも爽快なほど前向きに、一緒に逃亡生活を送ってきた、人生で最良の仲間の話だ。
俺達はみんな、別々のところから逃げてきた。いつからこの三人で集団的に逃げるようになったのかは、正直なところわからない。
気付いたら出会っていて、気付いたら逃げていた。
利害一致の協定ってやつだな。
だからって、お互いがお互い何から逃げているかなんて知らなかったし、知る必要だってない。それは暗黙の了解であったり、無関心からくる無知であったり、しかし一番の理由は、自分のことでイッパイイッパイだからだと思う。これ以上面倒を増やすのをよしとしないのだ。俺達は一緒に逃げることはあっても巻き込まれることはないようにしてきた。

でも。

魚の一件から、その均整は崩れてきていた。魚曰く逃亡者の超自然理論――その均衡が、崩れてきていたのだ。
一体どれくらい一緒にいたんだろうか。
どれくらいのときを過ごしてきたんだろうか。
その時間が、生活が、呆れるくらいにおかしなその関係が、なんとなく、掛け替えのないものになってきたみたいなんだ。
いや。
掛け替えのないもの、なんて。
そんな在り来りな言い回しじゃあ上手く説明出来ないな。
俺は割と口下手みたいだ。
なんだろう。
そんなんじゃなくて。
そういう何処にでもあるような容易い感情じゃなくて。

俺はあいつらといることが、気持ち悪いくらい気持ちいいんだ。


「本当……おかしいよなあ」


たとえ、誰が何から逃げていたって、何処から逃げてきたって、そんなのは関係ないって、そう思ってたのに。
いざ自分の過去を話すと。
そうは思えなくなってるんだ。
自分だけが汚く見えて。
自分だけが劣って見えて。
今更になってわかる。
魚が、どうして自分の過去を気にしていたのか。
確かに魚は人をたくさん殺していた。でも魚はそれが嫌で逃げ出してきたんだ。だからそんな顔を――――凄惨な雨に打たれて凍える手負いの仔犬みたいな――――そんな悲しい顔をしなくてもいいんだ、って。そう思っていた。
でも、そんなものも。
そんな感情もかなぐり捨てて。
自分に絶望されたかもしれない、っていう、そんな不安で、思考も指向もいっぱいになって。


――私のこと、食べてみない?


いただきます、すらも、言えなかった。
そそのかされて。
たぶらかされて。
背後からがぷりと、俺は赤果実林檎を食べた。


これは許されない禁忌で。
そしてその罪で、俺はきっと殺される。
殺される。
殺される。

殺される。

せめて、無様な最期を見てほしくない。いつまでも馬鹿やってたあの頃のままでいたい。いつかは離れる運命にあったとしても、その理由をこんなものにしたくない。

だから。


「さよならバイバイまたいつか」


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