――せんぱいって、女神様みたいな見た目をしてますね。


そんな、ある意味口説き文句ともとれる言葉を投げかけられた当時のあたしの心境を、十文字以内で述べよ。


――たおやかっていうか、儚げっていうか、そんな感じの。


正直嬉しくなかった。


――白っぽい金髪……なんて言うんだろこれ、俺にはよくわからないけど、すごいキレーじゃねぇですか。目なんかガイジンさんみたいなブルーだし。絵画に出てきそうだ。

――やだなあ、絵画ってすっぽんぽんなのばっかじゃん。

――せんぱいの無乳さが露呈しちゃいますね。

――言ったね。明日、アンタが学校来た瞬間校門前をすごいことにしてやる。

――せんぱいが言うと洒落になんないんでやめてください。

――やーめない。

――知ってますよ畜生。


そう言って苦笑するへーくんに、あたしは目を細めた。

あたしはね、へーくん。
そんな儚げな存在にはなりたくなかったんだよね。
強くなりたかったんだ。
強く鋭く、なお硬く。
へーくんくらい強く、なりたかったんだ。


――最初に会ったときはビビッたもんですよー、まさにこの世のものとは思えない感じ。

――あははははっ、生気が無いっていいたいわけ?

――そうとりやがりますか。

――あ、霊気があるとか?

――せめてオーラって言いましょうやせんぱーい。


つまんなそうに口をすぼめるへーくん。
凛々し眼差し。
屈強そうな顔つき。
勇ましい身体。
ああ、皮肉だね。
あたしとは大違い。


――でも、なんでそんなにか弱いんですかねー、せんぱい、せんぱいに触れると折れそうで気が気じゃない俺なんですが。

――なんだ、嫌いだから触らないのかと。

――ん? 安心しました?

――うん、クラスメイトばっちいばっちい言って騒ぐ小学生みたいな後輩じゃなくてよかったよ。

――うわ、厭味。


あたしはくすくすと笑い、「あのね」と続けた。


――掛かり付けの砂場先生が言うにはさ。

――ああ、砂場っち。

――…………怖いよへーくんの人脈の広さ。

――どうもどうも、で、砂場っち曰く?

――うん。なんか、あたしには、致死遺伝子みたいなのがあるんだってさ。


その言葉にへーくんは目を瞬かせた。そんな動作は、本当に後輩らしい。随分と背を抜かされているからあまり意識はしていなかったけど、へーくんは年下なのだ。


――生物で習いましたよ、ハツカネズミの、優性ホモの場合、生まれる前に死んじゃうっていう。

――そ。そんなかんじ。


あたしは髪を弄る。
げっ。
枝毛。


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